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2025.05.15
SDGs・ESG
持続可能な社会(SDGs)
環境・エネルギー・GX
日本の 2050 年ネット・ゼロのカギの一つは自動車の脱炭素
~自家用乗用車の電動化(EV化等)に向け、早急なアクションを~
加藤 大典
- 要旨
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2023年度の温室効果ガス排出・吸収量は、10億1,700万トンと、日本の削減目標の基準年度である2013年度比で27.1%の減少となった。2050年ネット・ゼロに向けて減少傾向にあるが、運輸部門の削減率が相対的に低水準にある。
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自動車のCO2排出量は、運輸部門の85.7%で日本のCO2排出量の16.5%を占める。自動車の脱炭素化は、日本のネット・ゼロの実現に向け重要である。中でも、自家用乗用車(家計と企業他の合計)のCO2排出量は8,446万トン、運輸部門の44.4%で日本のCO2排出量の8.5%を占め、注力する必要がある。
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国は、「2035年までに、乗用車新車販売で電動車100%を実現」という目標を掲げている。電動車とは、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、 HV(ハイブリッド車)を指す。自家用乗用車(企業他)は、コロナ禍後の反動等も見られずCO2排出量が減少傾向にある。他方で自家用乗用車(家計)は、削減が進んでいない。
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日本自動車工業会の調査によると、買い替え予定車のエンジン(動力)タイプ意向は、ガソリン車48%、次世代エンジン48%(HV+PHV+EV+FCVの合計)となっており、ガソリンエンジン意向は根強い。同調査では、次世代自動車の購入の懸念点も調査している。いずれの次世代自動車についても「車両価格が高い」が最も多く、EVはその他に、走行距離や充電時間への懸念が多く挙がっている。
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自家用乗用車(家計)からのCO2排出量の削減のためには、これら懸念点の払拭に加え、HVやガソリン車を上回る利便性や魅力の向上が必要である。
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国や自治体には、税制優遇措置、電動車購入や充放電設備設置に対する補助金、普及に向けた啓発取組みなどが求められる。高速道路料金や駐車料金の引下げ等も一案であろう。消費者の電動車の選択肢が増えるよう自動車関連各社への研究・開発等に係る助成や、充電インフラ整備を促す支援も必要である。
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2035年まで、わずか10年。消費者の行動変容、行政、メーカー等、全関係者の取り組みは待ったなしである。
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- 目次
1.はじめに
2023年度の温室効果ガス(以下、GHG)排出・吸収量は、10億1,700万トン(二酸化炭素(CO2)換算、以下同じ)となり、2022年度比で4.2%(4,490万トン)の減少、日本が掲げる削減目標の基準年度である2013年度比では27.1%(3億7,810万トン)の減少となった。過去最低値を記録し、全体としては2050年ネット・ゼロに向けて減少傾向にある(資料1)。一方で、部門別に見てみると、削減の程度差があり、運輸部門の削減率が相対的に低水準にある。
我が国は、従来掲げてきた、2030年度46%削減に加え、本年2月に2050年ネット・ゼロの実現に向けた直線的な経路にある野心的な目標として、2035年度60%削減、2040年73%削減を中間目標として追加した。引き続き、各部門における弛まぬ取組みが必要であるが、本稿では、これまでの各部門の削減状況を概観した後、運輸部門の自動車、特に自家用乗用車に焦点をあて、私見を述べたい。

2.GHG排出量の状況
2023年度のGHG排出量(吸収量を含まない)は、10億7,100万トンとなった。2022年度(11億1,600万トン)比で、4.0%(4,490万トン)の減少、2013年度(13億9,500万トン)比では23.3%(3億2,440万トン)の減少である(注1)(資料2)。
GHG排出量のうち9億8,900万トンは二酸化炭素(CO2)によるものであり、92.3%を占める。特に、エネルギー起源のCO2排出量が86.1%を占めている(資料3)。


3.CO2排出量(エネルギー起源)の状況
そこでCO2排出量(エネルギー起源)に注目する。まず、部門別のCO2排出量について、足元の実績を見てみると、割合の大きい順に、産業部門(工場等)36.8%、運輸部門(自動車等)20.6%、業務その他部門(商業・サービス・事業所等)17.9%、家庭部門16.0%、エネルギー転換部門8.6%となっている(資料4)。
次いで、2013年度を基準年=100として、部門別の排出量削減の推移を見てみると、大きく削減されている順に、家庭部門と業務その他部門が70、産業部門が73、エネルギー転換部門が77、運輸部門が85となっている。あくまで一つの目安だが、2章で見たGHG排出量の2013年度比の減少率である23.3%に照らすと、運輸部門のみ、相対的に削減が遅れているという見方ができる(資料5)。


4.運輸部門の乗物別の削減の推移
そこで運輸部門に関して、まず、乗物別のCO2排出量について、足元の実績を見てみると、多い順に、貨物自動車/トラック38.3%、自家用乗用車(家計)31.0%、その他輸送機関14.3%、自家用乗用車(企業他)13.4%、バス1.9%、タクシー0.7%、二輪車0.4%となっている(資料6)。
次いで、2013年度を基準年=100として、乗物別の排出量削減の推移を見てみると、大きく削減されている順に、タクシーが40、自家用乗用車(企業他)が66、バスが81、その他輸送機関(鉄道、国内船舶、国内航空)が88、自家用乗用車(家計)が89、貨物自動車/トラックが91、二輪車が92となっている(資料7)。コロナ禍の影響で2020年度に、総じて輸送量が大きく減少し、いずれの乗物からのCO2排出量も減少した。一方でその後は、自家用乗用車(企業他)を除き、横ばい、ないしは増加傾向にある。


5.乗用車の新車販売の電動化目標
資料6のとおり、「その他輸送機関」以外は「自動車」であり、そのCO2排出量は1億6,302万トン、運輸部門の85.7%で日本のCO2排出量(9億8,900万トン)の16.5%を占める。「自動車」の脱炭素化は、日本のネット・ゼロの実現に向け重要であり、着実に対応を進めていく必要がある。中でも、自家用乗用車(家計と企業他の合計)のCO2排出量は8,446万トン、運輸部門の44.4%で日本のCO2排出量の8.5%を占めており、特に注力する必要がある。
この点に関して、国は、「2035年までに、乗用車新車販売で電動車100%を実現」という目標を掲げている(注2)。電動車とは、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、 HV(ハイブリッド車)を指す。
一般社団法人日本自動車工業会の「日本の自動車工業2024」によると、2023年の電動車の国内販売台数は約198万台(資料8)で、乗用車の新車販売台数(3,992,727台)に対して約50%となっている(資料9)。PHEVやEVも増加傾向にあるものの、台数はHVが格段に多く、HVが電動化すなわち脱炭素化を牽引している状況が見て取れる。


6.自家用乗用車(家計)の電動化に向けた早急な取り組みの必要性
先述のとおり、自家用乗用車(企業他)については、コロナ禍後の反動等も見られずCO2排出量が減少傾向にあるが、これは、企業が自社の脱炭素取組の一環として、役員車や営業車を、ガソリン車からハイブリッド車等へ転換する動きを進めてきていることが寄与していると言えよう。ただし、依然として2,550万トン(運輸部門の13.4%、日本のCO2排出量の2.6%)を排出していることから、今後とも継続した削減取組が期待される。
他方で、自家用乗用車(家計)は、2013年度比で89と、削減が進んでいない。
日本自動車工業会の「2023年度乗用車市場動向調査(2024年3月)」(以下、市場動向調査)によると、買い替え予定車のエンジン(動力)タイプ意向は、ガソリン車48%、次世代エンジン48%(HV+PHV+EV+FCVの合計)となっている(資料10)。2017年と比べ、ガソリンエンジン意向は減少し、次世代エンジン意向は増加してきてはいるものの、ガソリンエンジン意向は根強い。

一方で、四輪自動車保有世帯において「次世代自動車購入検討順位で1位」となった次世代自動車別の割合を見てみると、2023年度調査で最も高いのはHVで50%となっているが、その割合は減少傾向にある(注3)(資料11)。反対に、EVの割合は増加傾向にあり、足元では32%までになっているというデータもある。
これらから、現状は、四輪自動車を持っている世帯に「次世代自動車を買うならどれ?」と聞けばEVへの関心は着実に高まってきているが、いざ買い替えようとなるとHVさらにはガソリン車が選ばれている状況、と捉えることができよう。

この点に関し、市場動向調査では、次世代自動車の購入にあたっての懸念点(複数回答)も調査している。いずれの次世代自動車についても「車両価格が高い」が最も多く、EVはその他に、1回あたりの走行距離や充電時間に対する懸念が多く挙がっており、解決すべき課題は浮き彫りになっている。
投資家等から脱炭素取り組みを求められる企業とは異なり、自家用乗用車(家計)のCO2排出量の削減のためには、これら懸念点の払拭に加え、HVやガソリン車を上回る利便性や魅力の向上といったポジティブなインセンティブが不可欠である。
国や自治体への期待として、消費者に対しては、既存の税制優遇措置に加え、電動車の購入や充放電設備(V2H)等の自宅への設置に対する補助金(注4)や、電動車の普及に向けた啓発取組みなどが求められる。高速道路料金や駐車料金の引下げ等も一案であろう(注5)。サプライチェーンを含む自動車関連各社に対しては、消費者の電動車の選択肢が増えるよう研究・開発・製造に対する助成や、自動車産業全体のGXに必要な支援を期待したい。勿論、充電設備メーカーや設置事業者に対して、消費者が安心してどこへでも電動車で移動できる充電インフラ整備を促す支援も必要である。同様の対策は、自家用乗用車(企業他)からのCO2排出量削減にもつながるだろう。
「乗用車新車販売で電動車100%を実現」したい2035年まで、わずか10年。消費者の行動変容、行政、メーカー等、全関係者の取り組みは待ったなしである。
【注釈】
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2023年度と、2022年度及び2013年度の差分の値(カッコ内)は、環境省・国立環境研究所「2023年度の温室効果ガス排出量及び吸収量(詳細)」 の記載を参照した。
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2024年12月、GX実現に向けて、企業の予見可能性を高め、GX投資を強力に引き出すため、自動車を含む重点16分野について「分野別投資戦略」を改定している。
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次世代自動車は、電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)、クリーンディーゼル車、水素エンジン車の6種。
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充放電設備(V2H:Vehicle to Home)とは、EV、PHEV、FCVに搭載された蓄電池から家庭(Home)に電力供給できる設備で、非常時等にも活用が可能である。建物(Building)に設置する充放電設備はV2Bと略される。例えば東京都は、個人がEVを購入する際、充放電設備と太陽光発電設備を設置する場合は、自動車メーカー別の補助額最大60万円に加え、充放電設備導入に対する上乗せ10万円、太陽光発電設備設置に対する上乗せ30万円と、補助額は最大で100万円となる。
https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2025/03/2025033159 -
ノルウェーでは、化石燃料車の販売を公式に禁止することなく、消費者の嗜好をEVへシフトさせるインセンティブとして、排出税や付加価値税の免除、道路税や通行料の免除または引下げ、駐車料金の引下げ、バスレーンへのアクセスなどを導入している。
https://www.iea.org/policies/17809-norways-electric-vehicle-incentives
【参考文献】
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一般社団法人日本自動車工業会(2024)「2024年版日本の自動車工業」
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一般社団法人日本自動車工業会(2024)「2023年度乗用車市場動向調査」
加藤 大典
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

