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新たな地球温暖化対策計画に国民が取り組むために

~国は、国民の経済的不安の払拭を~

加藤 大典

要旨
  • 新たな地球温暖化対策計画(案)(以下、新温対計画)が取りまとめられた。本稿では、国民にどのような取組みが求められているのか概観した後、国民が地球温暖化対策に取り組むにあたり必要となるポイントについて、私見を述べる。

  • 新温対計画が国民に「脱炭素型ライフスタイルへの転換」を求めている点は、旧温対計画と変わらない。今回「カーボンフットプリント」に触れられているのは注目点である。国民は、カーボンフットプリントを参考に、積極的に脱炭素に貢献する製品・サービスを選択していくことが求められている。

  • 一方、世論調査を見ると、約9割の国民は地球温暖化に関心があるが、約8割は今と将来の収入面に不安を抱えていることを、国は認識しておく必要があろう。

  • 地球温暖化対策は、新技術開発やカーボンプライシング等、コスト増加を伴う。このコストは国民にも転嫁されるが、収入面に不安を抱える国民が温暖化対策に積極的に取り組むのは難しい。国民の経済的不安の払拭が不可欠である。

  • 国や自治体には、効果的な物価・景気対策に加え、高効率給湯器やEV車等の導入補助、太陽光発電の共同購入支援など、脱炭素型ライフスタイルへの転換を促す政策の継続・展開が求められる。実効性のある政策の実行に向け、国のリーダーシップや各主体の工夫も期待したい。

  • 地球温暖化は、地球規模の大きな問題のため、自身の行動の効果を実感しにくいが、日本の温室効果ガス排出量を消費ベースで見ると、約6割が家計によるとの報告もある。地球温暖化対策のカギの過半は、私たち一人ひとりが握っているといっても過言ではない。

  • 私たちの行動の変化が国や企業等の対策を加速させ、社会の仕組みの変化を生みだす。社会の仕組みの変化は暮らしの在り様を変え、全ての人々にとって脱炭素型ライフスタイルが当たり前になる。私たち国民は、この良い循環によりウェルビーイングと持続可能な社会を実現できると期待し、新温対計画に取り組んでいきたい。

目次

1.はじめに

2024年末に、新たな地球温暖化対策計画(案)(以下、新温対計画)が取りまとめられた。現在、1月26日締め切りでパブリックコメントに付されており、2月に閣議決定される予定となっている。

新温対計画の根拠法は、地球温暖化対策推進法(以下、温対法)である。温対法には、地球温暖化対策計画(以下、温対計画)で「国、地方公共団体、事業者及び国民のそれぞれが講ずべき温室効果ガスの排出の量の削減等のための措置に関する基本的事項」を定めることとなっている。つまり、国民一人ひとりにも地球温暖化対策に取り組むことが求められている。そこで本稿では、今般取りまとめられた新温対計画において、国民にどのような取組みが求められているのか概観した後、国民が地球温暖化対策に取り組むにあたり必要となるポイントについて、私見を述べる。

2.新しい温室効果ガス削減目標

新温対計画では、現在の地球温暖化対策計画(以下、旧温対計画)で掲げていた2030年度46%削減(2013年度比)・さらに50%の高みに向け挑戦、という目標に加え、2035年度60%削減(同)と2040年度73%削減(同)の目標が追加された(資料1)。2050年ネット・ゼロに向け、直線的に減らしていく経路である。2050年ネット・ゼロ達成は、技術革新、資源供給、価格など不確実性が高く容易ではないが、官民が排出削減と経済成長の同時実現を目指し、予見可能性をもって取組むために野心的な目標を設定したものであり、進捗評価の軸としても活用していく。その上で、新温対計画では、「政府、自治体、企業、国民一人一人に至るまでのすべての主体の参加・連携を確保しつつ、本目標、ひいては2050年ネット・ゼロの実現に向けて、パリ協定に基づき、誠実に対策・施策を講じていく必要がある」とされている。

図表1
図表1

3.新温対計画が国民に求めていること

新温対計画では、国、地方公共団体、事業者と国民の4主体について「基本的役割」が定められており、国民については、(1)国民自らの積極的な温室効果ガスの排出量削減、(2)地球温暖化防止活動への参加等、の2点が明記されている(資料2)。資料の記載を要約すれば「自ら『デコ活』に取り組み、脱炭素型ライフスタイルへの転換を図ること」と「各主体が行う取り組みに積極的に参加すること」が求められている。

なお、デコ活とは、2050年ネット・ゼロおよび2030年度削減目標の実現に向け、国民の行動変容、ライフスタイル転換のムーブメントを起こすために、2022年10月に発足した国民運動のことである。生活がより豊かに、より自分らしく快適・健康で、かつ2030年度温室効果ガス削減目標も同時達成するべく、生活費や時間の効果も含め、2030年の暮らしの絵姿を示している(資料3)。

新温対計画が国民に「脱炭素型ライフスタイルへの転換」を求めている点は旧温対計画と変わらず、それに尽きる、ということであろう。

一方、「行動変容に資するカーボンフットプリントの情報受信等の取組を進めること」が追加されている点は注目点である。カーボンフットプリントとは、製品・サービスのライフサイクルを通じた温室効果ガス排出量のことである。国は、2023年に「カーボンフットプリント ガイドライン」(注1)や「CFP実践ガイド」(注2)、「加工食品共通CFP算定ガイドライン案」(注3)を公表するとともに、現在、「カーボンフットプリント表示ガイド」の策定(注4)や加工食品のカーボンフットプリントの算定実証(注5)等を進めている。

今後、製品・サービスのカーボンフットプリントの「見える化」が進んでいく。国民(消費者)は、カーボンフットプリントを参考に、積極的に脱炭素に貢献する製品・サービスを選択していくことが求められている。

図表2
図表2

図表3
図表3

4.国民の行動変容の妨げとなる国民の意識

国は温対計画で国民に行動変容を求めているが、当の国民の意識は果たしてどうであろうか。

「気候変動に関する世論調査」(令和5年7月調査)を見ると、地球環境問題に関心があるとする回答は89.4%と、関心は高い。

一方、「国民生活に関する世論調査」(令和6年8月調査)によると、政府に対する要望として、直面する課題である物価対策(66.1%)や景気対策(58.7%)といった要望が高まっているほか、構造的・中長期的な課題といえる社会保障(64.6%)や高齢社会対策(52.2%)、少子化対策(39.0%)等の要望が多い。地球温暖化対策に最も近そうな選択肢である「自然環境の保護・地球環境保全・公害対策」は27.2%と、33個の選択肢の11番目であり、複数回答にも関わらず、4人に一人程度の要望に留まる。旧温対計画が策定された令和3年の世論調査(32.2%)よりも低下している(資料4)。世代別に「自然環境の保護・地球環境保全・公害対策」の要望割合・要望順位を見てみると、18-29歳(22.8%・13番目)、30-39歳(18.0%・16番目)40-49歳(23.6%・14番目)、50-59歳(23.2%・14番目)、60-69歳(29.8%・12番目)、70歳以上(34.2%・8番目)となっている。高齢の世代ほど要望度が高く、いわゆる現役世代の要望度合は低い(資料5)。

図表4
図表4

図表5
図表5

一方、同じ「国民生活に関する世論調査」(令和6年8月調査)では、日常生活での悩みや不安の有無も調査しており、78.2%の人が悩みや不安を抱えていると答えている。さらに、何への悩みや不安を抱えているのか、12の選択肢から複数回答で尋ねたところ、上位5つは、自分の健康について(63.8%)、老後の生活設計について(62.8%)、今後の収入や資産の見通しについて(58.0%)、家族の健康について(50.1%)、現在の収入や資産について(46.8%)であった。世代別に見てみても、加齢とともに「健康」の不安が高まるのは自然なことといえようが、総じて「現在・今後の収入・資産」への不安が高く、老後の生活設計には収入の要素がある点も考えると、全世代が共通して「今と将来の経済的不安」を抱えている(資料6)(注6)。

図表6
図表6

国としては、約9割の国民は地球温暖化に関心はあるが、約8割は今と将来の収入面に不安を抱えており、政府には後者に関連する対策を求めている、ということを認識しておく必要があろう。

5.国や自治体への期待

地球温暖化対策を進める上では、新しい技術の研究・開発やそれらに係るコストが上乗せされた製品・サービスの普及、排出量取引制度等のカーボンプライシングなど、コスト負担の新規発生・増加は避けられない。今後の収入や生活に不安を抱える国民も、地球温暖化対策に係るコストが転嫁された製品・サービスの購入・消費等を通じて、コスト負担していくことなる。

しかし、例えば、営利企業がその存続や成長を後回しにしてまで地球環境問題には取り組めない・取り組まないのと同様に、自身や家族の今と将来のくらしを犠牲にして地球温暖化対策に取り組もうと行動する国民は、限られるのではなかろうか。そのため筆者は、国民が地球温暖化対策に取り組むための環境整備として、国民の経済的不安を払拭することが必要不可欠と考える。

国や自治体には、地球温暖化対策で避けられないコスト増を国民が負担していけるようにするためにも、より効果的でメリハリのある物価対策や景気対策を行ってもらいたい。その上で、例えば、高効率給湯器やEV車等の導入に係る補助金や、太陽光発電設備や蓄電池の共同購入等といった、脱炭素型ライフスタイルの実現に資する製品やサービスの国民の購入意欲を喚起する、各種政策の継続や新規展開を期待したい。

なお、デコ活(資料3)でも示されているが、例えば太陽光発電でいえば、世論調査の政府への要望に照らすと、災害時に役立つ点をアピールすることが響く国民もいるだろう。

新温対計画では、「環境・経済・社会の統合的向上という方向性を国民、国、地方公共団体、事業者等の全ての主体で共有し、地球温暖化対策を各種政策と統合して相乗効果(シナジー)を発揮させつつ実行していくことが非常に重要」との考えが明記されている。実効性のある政策の実行に向け、国のリーダーシップや各主体の工夫も期待したい。

6.一人ひとりの行動で加速する地球温暖化対策

地球温暖化は、地球規模の大きな問題であるため、個人としては自身の行動の効果を実感しにくい。しかし、今を生きている私たち、そして未来の世代すべてがこの問題の当事者である。

日本の温室効果ガス排出量を消費ベースで見ると、全体の約6割が家計によるものとの報告もある(資料7)。つまり、地球温暖化対策のカギの過半は、私たち一人ひとりが握っているといっても過言ではない。

国や自治体・企業等の取り組みも重要だが、私たち一人ひとりもできるところから取り組んでいくことが温暖化対策に貢献することになる。国や自治体、企業等が提供するサービスや製品、各種の取組みに関心を持ち、「地球温暖化対策に貢献できそう」と思う選択肢を意識的に選び、ライフスタイルを変えていくことが大切だ。

私たちのちょっとした行動の変化の積み重ねが、国や自治体・企業等の地球温暖化対策を加速させ、社会の仕組みの変化を生みだす。そして社会の仕組みの変化は、私たちの暮らしの在り様に影響を与え、全ての人々にとって脱炭素型ライフスタイルが当たり前になるだろう。私たち国民は、この良い循環によって、私たちのウェルビーイングと持続可能な社会を実現できると期待し、地球温暖化対策計画に取り組んでいきたい。

図表7
図表7

以 上

【注釈】

  1. 経済産業省、環境省(2023年3月)「カーボンフットプリント ガイドライン

  2. 経済産業省、環境省(2023年5月)「カーボンフットプリント ガイドライン(別冊)CFP実践ガイド

  3. 持続可能な食料生産・消費のための官民円卓会議 温室効果ガスの見える化作業部会 CFP 算定ガイド検討チーム(2023年12月)「加工食品共通CFP算定ガイド案

  4. カーボンフットプリントの表示等の在り方検討会

  5. 加工食品のカーボンフットプリント(CFP)の算定実証

  6. 資料6には一覧化していないが、18‐29歳の6番目は、老後の生活設計(27.0%)である。

【参考文献】

加藤 大典


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。