年金法改正2025 企業年金分野の課題

~「企業年金・個人年金部会における議論の整理」を受けて~

小川 伊知郎

要旨
  • 公的年金制度の財政検証結果は2024年7月3日に公表され、年金法改正は2025年に実施される。
  • 2019年の前回財政検証時と比較すると、審議期間が約11か月、開催回数が10回だったのが、今回はそれぞれ1年9か月、19回と、いずれも概ね倍増している。
  • 資料の構成は前回と同様に「はじめに」「結びに」を除いて4つの大項目立てとなっているが、今回は26ページと前回より4ページ増え、項目名も変更されている。
  • 法改正に向けて注目される点は「iDeCo・企業型DCの拠出限度額」「iDeCoの加入可能年齢の引上げ」「見える化」「 DB の制度設計」である。
  • 今回の財政検証に併せた審議ではiDeCoが中心となった。また前回以降、取り巻く環境が目まぐるしく変わったが、中でも資産所得倍増プランの影響が大きかった。
目次

1. はじめに

2024年7月に5年に一度の公的年金制度の財政検証結果が公表され、いよいよ年金法改正の2025年を迎えた。社会保障審議会の各部会で2024年12月にそれぞれそれまでの審議を受けて、議論が取りまとめられた。このうち企業年金分野を所掌している企業年金・個人年金部会(以下、部会)では、同12月27日に「議論の整理」が公表された。2025年の通常国会は来る1月24日に召集される予定で、会期は6月22日までの150日間を見込む。公的年金分野の課題が山積する中、企業年金分野の課題も少なくない。通常国会に引き続いて7月28日任期満了に伴う参院選が実施されるため、会期延長が難しい一方、衆院では少数与党となっていて例年より審議に時間を要する可能性もある。2024年3月まで部会委員に随行して傍聴してきた審議の現場、また前回財政検証、法律改正時に(公社)日本年金数理人会理事長の立場で部会委員として参画していた経験を踏まえ、法律改正に向けた課題を整理してみたい。

2. 部会での審議の経過

2022年11月の再開後、年内は資産所得倍増プランを受けた部会での対応スケジュールなどが審議され、2023年4月から通常の審議が始まった。部会委員他計3名の有識者のヒアリングを皮切りに、続く5、6月に3回をかけて恒例の関係団体からのヒアリングが行われた。7月のヒアリング結果等のまとめと2023年6月に取りまとめられた「骨太方針2023」(=「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~」)等の内容の確認を受けて、夏休み後の9月からは、4月に事務局である厚生労働省が作成・報告した①働き方・ライフコースに対応し公平で中立的な私的年金制度の構築、②私的年金制度の普及・促進、③資産形成を促進するための環境整備(投資教育・運用関係見直し)の3つの視点に沿って審議が進められた。途中、初となった12月の年金部会との合同開催(小川(202402)参照)を経て、年明けからは存続している残り5つの厚生年金基金の見直し期限となる2024年3月を睨んで、解散や他制度への移行を促す「健全化法」への対応についても取り上げるなど、細大漏らさず幅広い審議が行われた。

2024年3月28日の議論の中間整理の後は、これを受けた2巡目の議論に入り、12月26日に取りまとめを行った。

3. 審議の仕方の前回との比較

2019年の前回財政検証時と比較すると、同年12月25日の議論の整理に向けて、同年2月22日に審議を開始している。この間、約11か月で部会は10回開催された。

一方、今回の財政検証時は、2.のとおり通常の審議は2023年4月12日に審議を開始した。議論の整理までの期間は1年9か月、開催数は19回と、いずれも概ね倍増している。社会保障制度、とりわけ年金制度に対する国民の関心・期待が高まる中、事務局としてもこれまで以上に丁寧に議論しようとする意気込みが窺える対応であった。

図表
図表

4. 議論の整理の概要と前回との比較

この資料は議論の整理の目次である。構成は前回と同様に「はじめに」「結びに」を除いて4つの大項目立てとなっているが、末尾の「(参考)令和7年度税制改正の大綱(私的年金関係部分抜粋)」を除いて26ページと、前回より4ページ増えている。項目名も以下の通り変更されている。

  Ⅱ 拠出時・給付時の仕組み  → 拠出・運用・給付の在り方
  Ⅲ 制度の普及等に向けた改善 → 私的年金の普及・促進のための取組
  Ⅳ ガバナンスの確保等    → DB・DC 制度の環境整備
  Ⅴ 将来像の検討 ~公平で、分かりやすい制度に向けて~ → その他

また、項目数は同じではあるが、中間整理が「今後の検討における主な3つの視点」で括っていたのとは、まとめ方を異にしている。

5. 注目される点

2024年3月に取りまとめられた「議論の中間整理」(小川(202404)参照)では、その後の部会で「穴埋め型・共通の非課税拠出枠」「生涯拠出枠・キャッチアップ拠出」「iDeCo・企業型DCの拠出限度額」「iDeCoの加入可能年齢の引上げ」「中小企業などへの普及の取組」「見える化」「健全化法」が中心となって審議されるのではないかと見込まれていた。実際これらのほとんどが議題に上ったが、今回の議論の整理を見ると、法改正に向けて注目される点は、Ⅱ 拠出・運用・給付の在り方1、3(1)(2)の「iDeCo・企業型DCの拠出限度額」「iDeCoの加入可能年齢の引上げ」、Ⅳ DB・DC 制度の環境整備1の「見える化」であり、これら以外ではⅣ4の「 DB の制度設計」に記載の、定年延長に伴う給付厳格判定基準である。

以下、大項目ごとに内容の詳細と法改正に向けての課題を見ていく。

6. Ⅱ 拠出・運用・給付の在り方

5つの中項目に分かれているが、最初2つがiDeCoに関することであり、更に3点目の(1)、5点目も関係するため、iDeCoを中心とした議論であったことが分かる。

1点目:加入可能年齢の上限の引き上げ

既に2022年11月に決定された資産所得倍増プランにおいて70歳未満に引き上げることとされていたため、それに沿った議論となった。現在の加入者は国民年金被保険者であることが前提となっているが、今回は現在の65歳からの引き上げは検討しないこととされたため、「被保険者以外の者の加入要件」に焦点が当たった。結論としては「iDeCoの加入者・運用指図者であった者」「企業型DC等の私的年金の資産をiDeCoに移換する者」であって「老齢基礎年金、iDeCoの老齢給付金を受給していない者」を要件とすべき、とされた。

2点目:現在75歳である受給開始年齢の引き上げ

2024年5月にそれまでの70歳から引き上げられたばかりため、70歳以上で受給開始する者の状況を見極めた上で再検討する、と穏当な対応であった。

3点目:拠出限度額

(1)個人型確定拠出年金(iDeCo)の拠出限度額は、この議論の整理時点では具体的な金額は示されていなかったが、部会の翌日12月27日に閣議決定・公表された「令和7年度税制改正の大綱」一 個人所得課税 6その他(国税)(1)に「引き上げ幅7,000円」が明示された。これは(2)の企業型DCも同様である。(3)の今後の検討では、キャッチアップ拠出、生涯拠出限度額、最低拠出額5,000円の見直し、ほかに言及されており、次回以降の検討が見込まれる。

4点目:拠出期間中の税制

特別法人税に触れている。今回は継続で大きな議論とならなかったため、これも次回以降の検討課題である。

5点目:給付の在り方

企業或いは個人「年金」なのにもかかわらず、現状では一時金受け取りが大宗を占めていることが従来から課題とされている。多くの意見が出されているが、やはり税制に依る部分が大きいため、検討には時間を要すると見込まれる。

7. Ⅲ 私的年金の普及・促進のための取組

1点目:中小企業における私的年金の活用のための環境整備

以下の3つの制度的な対応に関しての検討結果が示されている。

(1)の簡易型DCは、これまで利用実績がないため、改善を加えたうえで通常の企業型DCに統合すべきとされた。

(2)のiDeCo+は、従業員規模を前回100人以下から300人以下に拡大した。これは全厚生年金保険適用事業所の99%をカバーしているため、今回は拡大しない。

(3)の総合型DCは、活用が中小企業で進んでいるが、現在は法令上の定義がないため、制度上の位置づけを行うべきであるとされた。

いずれも極めて妥当な結果が示されている。

2点目:手続の簡素化等

これも資産所得倍増プランに盛り込まれており、加入者の利便性向上に加えて、関係機関の事務負担も考慮した対応が必要とされている。

3点目:制度間の年金資産の移換(ポータビリティ)の拡充

これまでも3度の法律改正時に取り組んできた。今回はこれに加えて、企業年金以外の中小企業対象金共済、退職一時金も枠組みに入れた拡充を推進すべきとの意見を受けて、継続検討とされた。

4点目:広報等による普及促進

そもそも私的年金制度の利用者が厚生年金の被保険者全体の半分にも満たないことから、幅広い年齢層に向け、かつ、国民各々のニーズに応えた金融経済教育の機会を官民一体で全国的に拡充していくことを目的として2024年4月に設立された金融経済教育推進機構Japan Financial Literacy and Education Corporation、略称:J-FLEC(J-FLEC金融経済教育推進機構参照)との連携が求められている、とされた。

8. Ⅳ DB・DC 制度の環境整備

1点目:加入者のための企業年金の運用の見える化

DB は事業報告書・決算に関する報告書、企業型 DC は事業主報告書・確定拠出年金運営管理機関業務報告書と、既に報告している報告項目をベースとし、新たに報告が必要な事項は報告書の項目に追加するとされている。なお、審議中には反対意見も少なくなかったものの、名称が分かる形で公表を行うこととされた。

2点目:拠出や給付の見える化

加入している制度によって複雑に分かれているiDeCoの拠出限度額の周知に触れられている。また年金ダッシュボードは中長期的課題とされている。

3点目:DB の運用力の向上

規模の小さい DB に対する中立的なサポートとして、企業年金連合会等の資産運用のコンサル、相談、助言、情報提供をより強化してほしい、ルールを作り過ぎるとコストや運営の手間が必要以上にかかり、逆に企業年金を止めるという企業が出てくる可能性もある、といった意見が示された。また「確定給付企業年金に係る資産運用関係者の役割及び責任に関するガイドライン」は改訂を行うこととされた。

4点目:DB の制度設計

前回から懸案となっている、定年延長等に伴う給付設計の変更について、給付減額に係る現行の判定基準を原則としつつも、給付の名目額が増加する等の一定の要件を満たす場合であって、加入者の3分の2以上で組織する労働組合の合意がある場合には、例外的に「給付減額」として取り扱わないこととするべき、とされた。その他、次回以降の検討課題として保証期間の上限、非継続基準における予定利率の在り方、支払保証制度・年金バイアウトの導入が挙げられている。

5点目:DC の運営管理機関、事業主、加入者本人の各段階における適切な運用の方法の選定

以下の2つに分けて検討結果が示されている。

(1)継続投資教育の充実

a)少なくとも 10 年に1回は事業主から積極的に従業員に継続投資教育の機会を提供することが必要、b)そもそも継続投資教育を実施していない企業が約20%存在する現状について、教育を実施できていない理由の把握や分析を行い、その結果を踏まえて企業への呼びかけや必要な支援を行う、c)前述のJ-FLECとも連携し、利用者の金融リテラシーの向上を図っていくべきである、とされた。

(2)指定運用方法

強化と現状維持の双方の意見が出され、その結果、まずは DC における加入時の適切な情報提供や継続投資教育等を通じて、個々人の制度に対する理解や金融リテラシーの向上を目指すこととすべきである、とされた。

6点目:いわゆる選択制 DB・選択制 DC

DC と同様、事業主が従業員に社会保険・雇用保険等の給付額への影響等を説明するようDB の法令解釈通知に追記すべき、障害年金や遺族年金を含む社会保険制度における給付に影響を及ぼすことについて労使協議や導入時・加入時に、従業員に対して正確な説明が行われるよう取組を進め、その際、従業員に対する説明を効果的に行うための資料を事業主に提供する等の環境整備にも配慮する必要がある、とされた。

7点目:自動移換

事業主が取るべき対応として、企業型 DC の加入者資格を喪失する前から喪失時に取るべき対応に係る説明を実施し、全加入者に対する喪失時の個人別管理資産の移換の手続等に関する継続的な説明を実施することとすべきであり、その際、従業員に対する説明を効果的に行うための資料を事業主に提供する等の環境整備にも配慮する必要がある、事業主や加入者の意識の向上を通じ、加入者であった者の資産を保護するため、自動移換の状況の見える化に取り組むべきである、とされた。

更に、a)運営管理機関・国民年金基金連合会は、手続をしやすくするための取組や自動移換者への周知方法等の改善を引き続き促すべき、国民年金基金連合会は自動移換の現状や制度改正によるシステム改修経費等を踏まえた適切な手数料の設定を促すべき、b)個人別管理資産が少額の者について中途引き出しを認めるべきとの意見は、これに係る論点とあわせ、引き続き検討を行うべき、とされた。

8点目:DC の中途引き出し(脱退一時金)

公的年金の脱退一時金の見直しの状況や実務も踏まえ、通算拠出期間について5年から8年へ引き上げる等見直すべき、その他の論点については 制度の目的や実施状況、自動移換の動向等も踏まえつつ、引き続き検討を深めるべき、とされた。

一方、DB の中途引き出しは退職給付由来であり、労使合意に基づく制度であることを踏まえると単に DCの整合性を取るために要件を設けるべきではない、との意見も付されている。

9. Ⅴ その他

1点目:健全化法への対応

a)厚生年金基金制度が歴史的な役割を終えていることについては認識が一致しており、労使の判断を尊重し当面存続するとしても、恒久的ではなくあくまでも経過的な存続に留めるべき、b)解散、又は他の制度に移行することを検討するよう求めている健全化法附則第2条の趣旨を踏まえ、代行返上して DB に移行する場合には、加入者掛金、独自給付、税制等の取扱いについて、移行のための制度設計の変更等の課題について整理し更に検討していくこととすべきであり、その際労使が十分な時間をかけて話し合うことを促すことが必要、c)現在存続している企業年金連合会は、財政的な健全性が維持されており、厚生年金基金の中途脱退者等に対する給付のほか、企業年金の投資教育や人材育成のための取組などを行っている役割も踏まえ、引き続き検討していくこととする、とされた。

2点目:石炭鉱業年金基金

石炭鉱業の坑内労働者のための老齢給付を行うことを目的として1967 年に設立され、石炭鉱業を行う事業主は当然に会員となる本制度は、社会情勢の変化により事業主は現在1社のみとなっており、事業主が不在となれば存続が困難となり年金給付の継続ができなくなる。加えて、現行法には解散の規定がないため、加入員や受給者の権利が保護されない恐れがある。また定款の変更等の意思決定にあたり加入員の意思を反映する制度設計になっていない。このため、加入者の意思をより反映できる一般的な制度であるDB制度に移行して、年金給付等の権利義務を承継し、石炭鉱業年金基金法を廃止すべき、とされた。

10. 終わりに

今回の財政検証に併せた審議ではiDeCoが中心となった。また前回以降、コロナ禍、景気回復など取り巻く環境が目まぐるしく変わったが、中でも資産所得倍増プランの影響が大きかった。iDeCoの加入可能年齢の上限の引上げは、同プランで70歳と年齢に言及があり、またiDeCoの拠出限度額の引上げを検討し結論を得るとされたことで活発な審議が行われ、令和7年度税制改正の大綱に具体的な金額を伴って盛り込まれた。一方、前回の財政検証時から継続審議となっていた項目のうち、今回も結論を得るに至らなかった項目も少なからずある。

テーマを絞ったことで、今回の法律改正は無難に実施されると見込まれるが、今回積み残した税制改正を伴うような大きな改正は、この5年に一度の機会が中心となるため、次回2030年の年金法改正に向けて今後も継続的な検討が望まれる。また企業年金は従来から公的年金の補完とされてきたが、今回の財政検証結果でも示されている通り将来の所得代替率は低下が見込まれている。このため企業年金の重要性はますます高くなり、もはや老後の所得保障の二本柱の一つとなりつつあると言える。今回の財政検証時には初めて年金部会と企業年金・個人年金部会が一度合同開催されたが、次回財政検証時においては是非定期的な合同開催を期待したい。

以 上

小川 伊知郎


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。