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2025.01.09
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本当に「教育無償化」は実現できるのか
~給食費などの「隠れ教育費」も見直しを~
西野 偉彦
1.「教育無償化」とは何か
2024年12月、自由民主党・公明党・日本維新の会の与野党3党による教育無償化に関する実務者協議が開始された。この協議では、まず「高校授業料の無償化」を先行して議論することとなり、大学などの高等教育の無償化についても順次取り上げられる。今後、早期に一定の結論を得るべく協議が加速されるものとみられる(注1)。
教育無償化は、現代社会において重要な政策の1つである。そもそも、教育は個人の成長と社会の発展に不可欠であり、そのためにはすべての人に平等な教育機会を提供することが必要になる。その点で、教育無償化の最大の意義は、教育の機会均等を実現することである。無償で教育を受けられるようにすることで、経済的な理由で教育を受けられない子どもたちが減少し、すべての子どもが質の高い教育を受けられるようになる。これにより、個人の能力を最大限に引き出し、社会全体の教育水準を向上させることが期待される。
現在、日本ではいくつかの教育段階において教育無償化が実施されている。まず、小・中学校(義務教育)の無償化は日本国憲法の第26条第2項に明記されている。この条文は、すべての国民が法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負うこと、そして義務教育は無償であることを規定したものだ。この義務教育の無償化では「授業料を徴収しない」ことが定められており、教科書も無償で提供されることとなっている。
一方、高等学校の無償化については、日本国憲法に規定されていない。その背景として、憲法制定の頃の高校進学率は40%程度に過ぎず、高校の教育はすべての国民が受けるわけではなかったことも、無償化の対象から外された理由の1つとされている。その後、高度経済成長期などを経て、日本における高校進学率は上昇の一途を辿り、2020年度には98.8%に達するなど、現在ではほぼすべての国民が高校に進学しているといえる(注2)。こうしたなかで、国は高校の無償化に準ずる政策として、2010年から「高等学校等就学支援金制度」を導入したが、その対象になるには通学する高校の種類や世帯収入に一定の条件が課されている(注3)。
地方自治体をみると、2024年度から東京都は所得制限を撤廃する高校の無償化を導入した。もともと東京都では、都立高校は国の支援で無償化され、私立高校については、東京都が国の支援に上乗せして都内にある高校の授業料の平均額を上限に助成するなどしていた。今回その上限が撤廃され、都立・私立にかかわらず高校の無償化が実現された。無償化の条件は都内に保護者が在住していることであり、都外の私立高校への通学者も対象となったことで、近隣自治体から東京都に人口が流入する可能性も指摘されている。こうした状況を受け、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県の各知事と、5つの政令指定都市の各市長から構成される会議では、子どもに関する施策に居住地域によって差が生じないようにするため、国の責任と財源で無償化することを求めた(注4)。また、東京都以外では、大阪府でも段階的に私立高校の無償化が始まっており、2026年度より府立・私立ともに高校の無償化が実現する見込みである。
2.無償化されていない「隠れ教育費」の存在
冒頭で述べたように、与野党協議の結果、国による公立・私立高校の教育無償化が導入されることになれば、居住地域や世帯年収にかかわらず、高校における教育の機会均等が保障されることになる。しかし、これで小学校から高校まで「完全な」教育無償化が実現されるのかといえば、実はそうではない。無償化の対象に入っていない「隠れ教育費」が存在するからである。
「隠れ教育費」とは、授業料や教科書代以外にかかる費用のことである。これらの費用は、授業料や教科書代が無償であるにもかかわらず、保護者が負担しなければならないため「隠れ教育費」と呼ばれている。これらの費用は、学校生活を送る上で必要不可欠なものであるが、積み重なると保護者にとって大きな負担となることが多い。
具体的に「隠れ教育費」の内容についてみてみよう。たとえば、大半の小学生は登下校時にランドセルを背負っているが、昨今のランドセルは高価なものが多い。また、音楽の授業で使用する鍵盤ハーモニカやリコーダーなどの楽器も購入が必要である。体育の授業や運動会などでは、体操服の購入が求められる。
修学旅行費や遠足費も重要な「隠れ教育費」の一部だ。学校行事は子どもたちにとって貴重な経験だが、その費用は保護者が負担する必要がある。交通費・宿泊費・食費などが含まれ、特に修学旅行は高額になることが多い。加えて、授業で使う文房具や学用品も必要となる。ノート・鉛筆・消しゴムなどの基本的な文房具に加え、図工や家庭科の授業で使用する道具なども購入しなければならない。これらは消耗品であり、定期的に補充が必要となる。
中学生になると、制服が指定されている学校が多く、その購入費用がかかる。しかも制服は体操服と同様に、子どもの成長に伴って買い替えが必要になるため、継続的な費用となる。また、季節ごとに異なる制服が必要な学校もあり、その分の費用も考慮しなければならない。その他、クラブ・部活動に入れば、部費の支払いはもとより、スポーツ系であればラケットやグローブなど、文化系であれば楽器や絵具など、学校が貸与できない道具については保護者が用意せざるを得ない。クラブ・部活動は、必要に応じた費用を家庭で負担することを前提に成立している側面が否めないのである。
文部科学省の調査によると、「隠れ教育費」である学校教育費は、義務教育において、公立小学校で年間約8万円、私立小学校で年間約105万円(図表1)、公立中学校で年間約15万円、私立中学校で年間約112万円となっている(図表2)。高校でも同様の学校教育費が必要とされており、公立高校(全日制)で年間約35万円、私立高校(全日制)で年間約76万円である(図表3)。



「隠れ教育費」は、学校教育において必要な費用であるにもかかわらず、公立・私立を問わず、長年にわたり家庭が負担しており、結果として保護者の経済状況に左右される恐れがある。その意味で、本来無償であるはずの義務教育も、今回与野党協議が行われている高校の無償化についても、こうした「隠れ教育費」を解決しない限り、「教育無償化が実現した」とはいえないのではないだろうか。
3.家庭の経済状況によらない「教育の機会均等」を
とはいえ、すべての「隠れ教育費」を国が負担し、「完全な教育無償化」とするには安定財源が足りない可能性がある。そこで、「隠れ教育費」の内容に優先度を付け、段階的に無償化していくのはどうだろうか。
優先度が高い「隠れ教育費」として挙げられるのが、「学校給食費」である。前述の学校教育費の内訳をよくみると、給食費が入っていないことがわかる。小・中学校においては、学校教育費に加えて給食費が加算されて家庭が支払う必要があり、これもまた「隠れ教育費」の一部になっている。特に、複数の子どもがいる家庭や経済的に困難な家庭にとって、給食費は相当の負担となることがある。給食費を無償化することは家庭の経済的負担を軽減するメリットがあるため、無償化を行うことで、これらの負担が軽減され、子どもたちが安心して学校生活を送ることができるようになる。
給食費を無償化するためには、自治体がその費用を負担する必要があるが、財政状況が厳しい自治体では、無償化の実施が難しいだろう。また、無償化を実施している自治体とそうでない自治体の間で不公平感が生じるという指摘もある。さらに、給食の質の維持も重要な課題だ。物価が高騰するなかで、栄養バランスの取れた給食を提供し続ける必要がある。現在、全国の自治体の約3割で給食費の無償化が実施されているが(注5)、全国的に拡充させるためには国の施策に位置付ける必要がある。こうした背景もあり、2024年12月には立憲民主党・日本維新の会・国民民主党の野党3党が合同で給食費無償化の法案を国会に提出している(注6)。
一方、文部科学省は、給食費の無償化について慎重な姿勢を取っている。全国の学校で給食の提供を受けている児童・生徒は約880万人いる一方で、アレルギーなどの個別の事情で、弁当を持参したり、不登校の場合など、学校給食を食べていない子どもが全国に約60万人いるため、仮に一律に無償化しても、こうした人たちに恩恵が及ばないと指摘している。また、生活が困窮した世帯に対しては、基本的にすでに無償化されているため、格差是正の観点も乏しいとしている。さらに、公立学校に限って実施した場合でも、食材費として約4,800億円の安定財源の確保が新たに必要になるとして、全国で学校給食費の無償化を行うべきかどうか、子育て支援や少子化対策の観点からも、丁寧に議論を進めていくとしている(注7)。
もちろん、給食費に限らず、教育無償化の議論においては、財源の確保や教育の質の維持、負担の支え合いなどの課題に取り組むことが求められる。そのうえで、今後の議論では、これまで見過ごされてきた「隠れ教育費」の見直しまで視野に入れ、すべての子どもが経済的な状況に左右されず、平等に教育を受けられる環境の整備を図っていく必要があるのではないだろうか。
【注釈】
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第86回九都県市首脳会議の結果概要(2024年10月28日)の「Ⅱ 真の分権型社会にふさわしい地方税財政制度の構築」のうち「子ども関連施策に係る財政措置」参照。
【参考文献】
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栁澤靖明、福嶋尚子『隠れ教育費 公立小中学校でかかるお金を徹底検証』太郎次郎社エディタス2019年
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教育の未来を研究する会編『最新教育動向2024』明治図書2023年
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日本教育政策学会編『「無償化」と教育費政策の現段階』(日本教育政策学会年報第31号)学事出版2024年
西野 偉彦
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。
- 西野 偉彦
にしの たけひこ
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ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: 教育(子ども・若者の学校教育から社会人の学び直しまで)、Z世代やα世代の生活行動・価値観・社会参画
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