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2024.12.23
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AIが導き出した新たな暗号資産税制のシナリオ
~現行制度の課題と今後の方向性について~
柏村 祐
1.暗号資産課税の現状と課題
日本における暗号資産取引の課税については、その売却等による利益を他の所得と合算して総合課税する仕組みとなっており、最高税率は所得税45%に住民税10%を加えた55%となっている。これは、暗号資産の特性や課題を踏まえ、原則として雑所得として扱う現行制度によるものである。海外においても暗号資産への対応は様々であり、たとえば、シンガポールでは長期保有の暗号資産売却益は非課税、ドイツでは1年以上の保有期間があれば非課税、韓国では20%の分離課税を採用するなど、それぞれの国情に応じた制度設計がなされている。
日本の場合、このような高税率に加え、暗号資産取引の損益計算においては、取得価額の特定方法が移動平均法か総平均法に限定されており、納税者の事務負担が大きいことも課題となっている。さらに、暗号資産同士の交換や、暗号資産を用いた決済においても課税対象となるため、利用者の実用的な活用を妨げる要因となっている。
もともと暗号資産は、その価格変動の大きさや技術的な複雑さ、不正流出事案の発生など、従来の金融商品とは異なる特徴や課題を抱えてはいるが、12月20日に決定された「令和7年度与党税制改正大綱」では、暗号資産を「国民の資産形成に資する金融商品」として位置づけ直し、上場株式等と同等の課税特例を検討する旨が明記された。これは、投資家保護のための法整備と税務当局への報告義務整備を前提としているものの、現行の高税率体系の見直しに向けた重要な一歩といえる。
本稿では、このような暗号資産課税を取り巻く現状と課題を踏まえ、国際競争力の維持・向上の観点から、AIを活用した新たな税制政策の検討を試みる。
2.AIによる暗号資産税制の政策立案
以下では、AIによる暗号資産税制の包括的な分析とシナリオ作成を行う。分析においては、大規模言語モデル(LLM)を活用し、世界の暗号資産税制データ、国内の経済指標、暗号資産市場の動向予測を統合的に解析することで、実効性の高い政策提言の導出を図る。はじめに、AIを用いて世界各国の暗号資産に関する税制を俯瞰的に分析し、主要国における課税方式、税率設定、優遇措置等について体系的な整理を行う。次に、現行の日本における暗号資産税制について、最大55%という税率設定や所得税制との関連性など、制度面での特徴とその影響をAIにより多角的に分析する。具体的には、国際競争力への影響、投資家の行動変容、税収への寄与度など、複数の観点から現行制度のメリットとデメリットを定量的に評価する。最後に、これらの分析結果にもとづき、AIによる政策シミュレーションを通じて、日本の暗号資産市場の活性化と適切な税収確保を両立する新たな税制の枠組みを提示する。なお、シナリオ分析においては、諸外国の規制動向や市場環境の変化を考慮し、日本の金融市場の特性に適合した実践的な政策オプションを提示する。
はじめに「日本を含めた世界の暗号税制について教えてください」とAIに指示したところ、以下の分析結果が得られた(図表1)。すなわち、日本の現行制度では、暗号資産取引による利益は雑所得として課税され、所得税と住民税を合わせて最大55%という高率な累進課税が適用されている。また、年間20万円を超える利益に対して確定申告が必要とされ、暗号資産同士の交換や支払いにも課税対象となるなど、主要国のなかでも厳格な制度設計がなされている。
一方、主要国の税制を見ると、米国では暗号資産を資産と位置づけ、保有期間に応じて税率を変更するキャピタルゲイン税方式を採用している。保有期間が1年以上の場合は最大20%に抑えられ、1年未満でも最大37%と日本と比較して低い税率となっている。ドイツでは、1年以上の保有期間があれば売却益が非課税となり、600ユーロ未満の利益も非課税である。シンガポールでは、プロトレーダーを除く個人投資家のキャピタルゲインは原則として非課税となっている。また、ドバイ、スイス、マレーシアなどの「クリプトヘイブン」(暗号資産の保有・取引等に課税する制度をもたない国)と呼ばれる国々では、個人の暗号資産取引は原則非課税となっている。

次に「日本の暗号資産に関する税制のメリットデメリットを分析してください」とAIに指示したところ、以下の分析結果が得られた(図表2)。まず、現行制度には、法的整備による透明性・信頼性の確保、税収確保による社会的還元、国際的な洗浄・脱税防止への寄与という3つの主要なメリットが存在することが示された。具体的には、金融庁による取引所の登録制や明確な課税制度により、投資家や事業者にとっての法的不確実性が軽減され、市場の健全性や信頼性の向上に寄与している。また、高税率による一定の税収確保は、インフラ整備や社会福祉といった公的サービスへの再配分を可能とし、さらに厳格な税制や報告義務はマネーロンダリングや脱税の抑止効果をもつ。
一方で、現行制度には4つの重要なデメリットが存在することも指摘された。最大55%に達する高率な総合課税は投資意欲を減退させ、暗号資産同士の交換や支払いにまで及ぶ広範な課税対象設定は、実務上の大きな負担を生んでいる。また、重税と複雑な課税スキームは暗号資産やブロックチェーン技術を活用したスタートアップの成長を抑制し、イノベーションの停滞につながる可能性がある。さらに、税制優遇国との比較において日本市場の相対的な魅力が低下し、有能な人材や事業の海外流出を加速させる可能性もあると指摘された。このように、現行税制は法的透明性や公的再配分の面でメリットを有する一方で、投資意欲の減退、人材・資本の流出、イノベーション抑制といったデメリットを抱えており、今後の制度改革においては、これらの課題を総合的に解決する必要性が示唆された。

そこで最後に「メリットとデメリットを踏まえて考えられる税制を3つ挙げ、どれが最適か評価ください」とAIに指示したところ、以下の分析と政策提言が得られた(図表3)。
第一に、申告分離課税方式による一律軽減税率(約20%)の導入案である。これは、株式やFX取引と同様の課税方式を採用し、損失繰越も認めることで相場変動の大きい暗号資産取引の実態に即した税制を目指すものである。第二に、対象取引範囲の限定・実用非課税化案であり、暗号資産同士の交換や日常決済・小額決済について非課税化を進める一方、対法定通貨への換金時のみを課税対象とするアプローチである。第三に、長期保有優遇制度の導入案であり、これはドイツモデルに倣い1年以上保有した暗号資産の売却益を非課税とし、1年未満の短期トレード利益には20~30%程度の税率を適用する制度である。AIは、これら3案について、国際競争力強化、実用促進、税務のシンプルさ・明確性、公的収入確保と均衡、イノベーション支援という5つの視点から総合的な評価を行った。
その結果AIは、第一の申告分離課税方式による一律軽減税率案が最も優れていると結論した。この案は、現行制度から大幅な改善が見込まれ、投資環境の整備による国内市場の活性化と国際競争力の向上が期待できる。また、既存の金融商品との課税の整合性が保たれ、税務処理の簡易化も実現可能である。さらに、損失繰越制度を組み合わせることで、相場変動への対応力を高めつつ、国内エコシステムの活性化を促進し、技術革新・税収確保・人材流入といった長期的な国益にも資する可能性が高いことが示唆された。


AIは、税制改革における数多くの要素を総合的に考慮し、最も効果的な選択肢として「一律軽減税率(約20%)による申告分離課税」への転換を導き出した。特に、日本が今後も世界の暗号資産市場で存在感を示し、健全な暗号資産取引市場を形成するには、単に税率を引き下げるだけでなく、既存の金融資産との整合性や損失繰越制度によるリスク管理といった包括的な制度設計が鍵となるだろう。また、現行の累進課税と比較して、投資家・事業者双方にとってわかりやすい制度は、結果的にイノベーションや人材流入を促し、中長期的な国益に資する可能性が高い。
3.各国の動向を踏まえた税制改革への展望
AIによると、日本の暗号資産税制は、最大55%に及ぶ税率が投資意欲の低下、人材・資本の海外流出、イノベーションの停滞といった問題を惹起しているとのことである。現行制度は法的透明性や税収確保の側面では利点を有するものの、急速に変化する国際環境下で暗号資産市場を戦略的に発展させるには、よりバランスの取れた税制が求められるのではないか。
図表4は、暗号資産税制改革における現行の課題、AIによる分析と提案、改革案の方向性、期待される効果、実務家、投資家、研究者等の専門家の意見集約、国際的視点、そして将来の展望と課題を整理したものである。

AIが示した複数の政策オプションの中でも、株式やFXと同様の「申告分離課税方式」を採用し、約20%の一律軽減税率と損失繰越を組み合わせる改革案は、国際競争力の強化、税務処理の簡易化、イノベーション促進といった多面的な効果をもたらしうる。
今後の政策決定に際しては、今回のAI分析を1つの参考とし、政策当局、学識者など税制調査会を中心とした関係機関の意見を統合的に考慮することが不可欠となる。国際規制動向や技術革新が止まらない暗号資産分野において、日本が適切な税制改革を推し進めることは、国内エコシステムの活性化や国際的プレゼンスの確立、さらには社会的利益の拡大にもつながりうる。
税負担の公平確保などの理念に沿いつつ、経済社会の変化に対応した税制を整備し、暗号資産市場がもたらす新たな成長機会を的確に捉えることは、今後の重要な政策課題の1つになるのではないだろうか。
【注釈】
図表1に記載されているデータの出所は以下の通り。
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Bloomberg「金融庁が暗号資産規制を点検へ、税制改正やETF承認に道開く可能性」
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日本暗号資産ビジネス協会「日本における暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーンビジネスの健全な成長のため、現状の税制の課題を論点整理し、税制改正要望の具体案をまとめ提言していく。」
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cryptact「仮想通貨(暗号資産)の税金とは?基礎と計算方法、対策も解説」
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CoinDesk Japan「暗号資産は「国民の資産として推奨されるべきか否か更なる議論が求められる」:参院調査室」
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みんなのマネ活「仮想通貨の税金事情 日本と海外ではどのように違うの?」
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コインテレグラフジャパン「仮想通貨税が不利な国はどこ?新たな研究で日本を含むトップ5がリストアップ」
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日本ブロックチェーン協会「「暗号資産に関する税制改正要望(2025年度)」を政府に提出」
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cryptact「仮想通貨の税金が安い国6選と国内でも可能な税金対策」
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Bitget「暗号通貨税の比較:日本対アメリカ」
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CoinDesk JAPAN「暗号資産所得の分離課税は今年、税制改正要望が認められるのか」
柏村 祐
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。
- 柏村 祐
かしわむら たすく
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ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション
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