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2024.08.13
国際秩序
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中露とグローバル・サウスの思惑が交錯するBRICS
~2024年10月にロシアで首脳会議開催、「脱ドル化」の行方~
石附 賢実
- 要旨
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- 2024年10月にロシアのカザンで開催されるBRICS首脳会議は、ロシアが主導権を握り、グローバル・サウスの国々を取り込む場となることが予想される。ウクライナ侵略に伴いロシアは経済制裁を科されており、「脱ドル化」など非・西側の枠組みへの支持を広げたい。一方、参加国の多くは反・西側と見られることは避けたい。本レポートでは、BRICSの多様性とその内在する矛盾を探究する。
- 2024年、BRICSには5か国が加わり、さらに多様性が増す。政治体制や価値観に加え、経済力や人口の違いも顕著であり、BRICSが西側G7のように近しい目線で結束することは極めて難しい。
- 中露は西側への対抗軸として、グローバル・サウスとの経済的・政治的な連携を広げようとしている。BRICS首脳会議にはこれらの非加盟国も招待し、中露は「決して孤立していない」ことを誇示するものと思われる。他方、グローバル・サウスの国々はBRICSと西側の双方から巧みに利益を得ようとしている。
- 「脱ドル化」はBRICSで注目されるテーマの一つである。中露が推進しているが、現状BRICS各国の通貨の利用度や信頼性はドルには及ばない。グローバル・サウスは決済手段の多様化に反対する立場にはないが、同時にドルを中心とした国際金融市場から離脱する必要を感じていないであろう。
- グローバル・サウスの国々は西側主導の国際秩序の恩恵を受けてきたが、「上から目線」に対する不満をBRICSにぶつけている面があろう。西側はグローバル・サウスと同じ目線に立ち、彼らに西側の枠組みを選んでもらえるような行動を取る必要がある。
- 西側は、法の支配や高潔性に基づいた行動、具体的には暴力を排した民主的な選挙、国内の分断の克服、ダブルスタンダードを排した外交などを通じて、民主主義の繁栄を示し続けていくことが欠かせない。理想からは程遠い現実を目の当たりにしている今こそ、主権者たる我々一人ひとりの意識と行動が問われている。
- 目次
1. はじめに~BRICSの動向
2024年10月にロシアのカザンで開催されるBRICS首脳会議は、議長国ロシアがその主導権を取りつつ、グローバル・サウス(中露以外の途上国)を中露側に取り込もうとする場となりそうだ。多くのグローバル・サウスの国々が招待されることが想定され、それぞれの国の思惑も首脳会議の動向を理解する上で重要な要素となってくる。経済制裁を科せられたロシアは「脱ドル化」をはじめとして、非・西側の枠組みへの賛同の広がりを誇示したい動機に満ち溢れている。他方で、同会議の参加国の多くは非・西側はともかくとしても、反・西側とは見做されたくはないであろう。本レポートでは、BRICSという枠組みの多様性と内在する矛盾、内外の力学を探っていく。
2. BRICSの多様性
BRICSは、2023年まではブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5か国で構成され、各国の政治体制や価値観は大きく異なっていた。例えば、ブラジル、南アフリカ、インドは民主主義国家である一方、ロシアと中国は権威主義的な体制を維持している。そして、2024年1月に新規加盟した国々(エジプト、エチオピア、イラン、UAE、サウジアラビア(注1))は中露と同様にフリーダムハウスの自由度スコアで低位に位置している国々である(石附(2024)参照)。経済力をみると中国とエチオピアのGDPは100倍以上の差があり、一人当たりGDPはエチオピアの1500ドル余りからUAEは5万ドル超とかなりの幅がある。人口もインド・中国はUAEの100倍超である(資料1)。

このような価値観や政治体制、経済力の多様性は、BRICSが西側G7のように近しい目線で結束することが極めて難しい枠組みであることを示唆している。
3. 交錯する中露とグローバル・サウスの思惑
ここで、BRICSの枠組みにおける中露の思惑を考えてみよう。ロシアのウクライナ侵略を機に西側=民主主義陣営と権威主義陣営の対立が加速しているなかで、中露は西側への対抗軸としてグローバル・サウスとの経済的・政治的な連携を広げようとしている。現在、タイやマレーシアがBRICSへの加盟を希望しているとされ、「加盟希望国は30か国以上」との報道もある(注2)。2024年10月のBRICS首脳会議にはこれらの非加盟国も招待し、中露は「決して孤立していない」ことを誇示するものと思われる。
他方で、グローバル・サウスの眼にBRICSはどう映っているのか。注目される動きをいくつかみてみよう。インドは西側主体の日米豪印の枠組みであるQUADの一員ながらBRICSの主要メンバーでもあり、2023年のG20では議長国としてグローバル・サウスの代弁者のように振舞った。グローバル・サウスのなかでインドとともに存在感を示すタイやインドネシアは、西側の枠組みであるOECDへの加盟を申請している(注3)。これらの国々は中露と西側の間をうまく立ち回っている。
グローバル・サウスがBRICSに対してどのような期待を抱いているのかも重要である。参加国に強いコミットメントを求めるG7やOECDと異なり、BRICSは基本的に拘束力がなく緩やかな連合体であり、誰しもが参加しやすい枠組みとなっている。グローバル・サウスの多くは、西側との関係を維持しつつ、BRICSの枠組みを巧みに活用し、双方から利益を引き出していく姿勢を続けるだろう。
4. 「脱ドル化」は進むのか
BRICSにおける議論の中で、「脱ドル化」は注目されるテーマの一つである。2023年8月に南アフリカで開催された首脳会議の声明には以下のような記載がある。
「財務大臣および/または中央銀行総裁に、現地通貨、決済手段およびプラットフォームの問題を検討し、次回のサミットまでに我々に報告するように指示する。」
特にロシアは、ウクライナ侵略に伴い科された経済制裁もあって、脱ドル化の機運を高めたい強い動機がある。中国もロシアへの制裁を目撃して、その決意を改めて強めているといえよう。実際、世界の外貨準備高に占めるドルの割合は6割弱と減少傾向にあり(資料2)、中央銀行が金の保有を積み増す動きもみられる。
しかし、BRICS主要国の通貨はR5(ブラジル・レアル、露・ルーブル、印・ルピー、中・人民元(RMB)、南ア・ランド)などと呼ばれ、将来の新通貨構想に紐付けて注目される向きがあるものの、現状においてその利用度や信頼性はドルに遠く及ばない。R5のなかで存在感のある人民元ですら、2024年第1四半期時点で世界の外貨準備高の2%余りに過ぎない。
一方で、グローバル・サウスの多くは決済手段の選択肢が増えることについては特段反対の立場にはないだろう。同時に、制裁されるような悪さをしていなければ、ドルを中心とした国際金融市場から敢えて離脱する必要性も感じてないだろう。来るBRICS首脳会議の場では、新通貨構想の検討や自国通貨による決済の円滑化等のイニシアティブが歓迎され、その成果が強調されるであろうが、その場にいる国のすべてが「脱ドル化」で一枚岩になっているとは言い難い状況と思われる。

5. おわりに~西側は高潔性と繁栄を示し続けなければならない
グローバル・サウスは、西側が主導してきた国際秩序の恩恵を受けて成長してきており、彼らはこの秩序が中露主体のものに変化することを期待しているわけではない。しかし同時に、これまでの「上から目線」の西側に対する不満をBRICSにぶつけている側面に留意しなければならない。一例として「脱ドル化」を取り上げたが、現状ドルやユーロの強さは揺らぐものでは全くないものの、座視していると長期的には足元をすくわれかねない。西側は、自由や民主主義といった価値観を上から押し付けるのではなく、グローバル・サウスと同じ目線に立ち、彼らに西側の枠組みを選んでもらえるような行動を取る必要がある。報道によれば、米国の政治家顧問が「脱ドル化」を進める国へのペナルティーを検討すると発言したとされる(注3)が、こうした発想が仮にあるとすれば、まさに「上から目線」であろう。
まずは自らを律し、法の支配や高潔性に基づいた行動、具体的には暴力を排した民主的な選挙、国内の分断の克服、ダブルスタンダードを排した外交などを通じて、民主主義の繁栄を示し続けていくことが欠かせない。理想からは程遠い現実を目の当たりにしている今こそ、主権者たる我々一人ひとりの意識と行動が問われている。
※本稿は、週刊エコノミスト2024年8月20日号(8月5日発売)に掲載された寄稿に加筆及び図表を追加したものです。
【注釈】
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サウジアラビアは2024年1月時点で「招待はされているが未加盟」との立場を表明。
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例えば、以下2024年2月4日付報道。(https://www.cnn.co.jp/world/35214806.html)
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タイ・インドネシアのOECD加盟交渉開始については、2024年6月18日付OECDのリリースを参照。(https://www.oecd.org/en/about/news/press-releases/2024/06/oecd-increases-engagement-with-southeast-asia-further-opens-accession-discussions-with-thailand.html)
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例えば、以下2024年4月26日付報道。(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-04-25/SCIQAZT1UM0W00)
【参考文献】
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石附賢実(2024)「【1分解説】BRICSとは」
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Freedom House (2024) “Freedom in the World 2024”
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IMF (2024) “World Economic Outlook Database April 2024 Edition”
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IMF (2024) “World Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves”
石附 賢実
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

