AIが予測する「トランプトレード」の衝撃

~人工知能が描くトランプ2.0の行方~

柏村 祐

目次

1.単なる政権交代以上の意味をもつトランプ氏の大統領就任

2024年11月の大統領選挙が近づくにつれ、アメリカの政治情勢が急激に変化している。バイデン大統領が選挙戦からの撤退を表明し、ハリス副大統領を支持する意向を示した。一方、共和党ではトランプ前大統領が正式に大統領候補として指名された。

選挙戦の行方はまだわからないものの、トランプ氏の大統領就任が現実のものとなれば、それは単なる政権交代以上の意味をもつことになるだろう。特に経済面では、「トランプトレード」と呼ばれる市場の反応が再び注目を集めている。前回のトランプ政権下では、「アメリカ・ファースト」政策による保護主義的な姿勢や、大規模な減税政策などが市場に大きな影響を与えた。そのため、トランプ氏が再び大統領に就任した場合、どのような経済政策が実施され、それが市場にどのような影響を与えるのか、多くの専門家や投資家が予測を試みている。

これらの予測は個人の知見や経験にもとづくものが多いが、近年注目されているのが、AIを活用した予測である。機械学習や自然言語処理技術の進歩により、AIが膨大なデータから複雑なパターンを抽出し、未来を予測することが可能になりつつある。

そこで本レポートでは、最新のAI技術を用いて、トランプ氏が大統領に就任した場合のトランプトレードを予測する試みを行った。はたしてAIは、トランプトレードをどのように予測するのか。その予測結果と、それが意味するところとは何か。本レポートでは、これらの問いに迫りたい。

2.AIが紡ぐトランプトレードの未来図

まず、最新のAI技術を用いてトランプ氏が再び大統領に就任した場合のトランプトレードを予測するプロセスを説明する。今回AIによる予測は、(1)トランプ氏の経済観の分析、(2)想定内シナリオの作成、(3)想定外シナリオの作成という3つの工程を経て行われた。

第一の工程では、トランプ前大統領の2024年7月18日の共和党全国大会での大統領候補指名受諾演説をAIに読み込ませ、経済に対する考え方を分析させた。それによると、トランプ氏の経済観は「強気な楽観主義と単純化された解決策」「保護主義的な経済政策」「対立軸を強調する手法」「詳細な政策の欠如」という特徴をもつことが明らかになった。AIはこれらの特徴から、トランプ氏の経済観が従来の保護主義的な傾向を維持しつつ、より強い言葉で表現することで支持者の熱狂を喚起しようとする意図をもつものと分析している(図表1)。

図表1 AIが分析したトランプ氏の経済観の特徴と傾向
図表1 AIが分析したトランプ氏の経済観の特徴と傾向

第二の工程では、AIに「トランプ氏が次の大統領となった場合のトランプトレード2.0の想定内シナリオを作成ください」と指示した。AIは、トランプ氏が2024年の大統領選挙で勝利し、2025年1月に再び大統領に就任した場合の「トランプトレード」シナリオを提示した(図表2)。

図表2 トランプ氏が大統領に返り咲いた場合の「トランプトレード2.0」想定シナリオ
図表2 トランプ氏が大統領に返り咲いた場合の「トランプトレード2.0」想定シナリオ

このシナリオでは、通商政策において「アメリカ第一主義」の復活が予想され、対中国高関税政策の継続や強化、NAFTA再交渉、WTO軽視などが想定されている。エネルギー政策では、パリ協定からの再離脱や化石燃料回帰、原油・シェールガスの増産が見込まれている。金融政策では、FRBへの圧力強化やドル安誘導が予想され、財政政策では大型減税と財政赤字拡大が示唆されている。

AIは、これらの政策により、短期的には減税や規制緩和によって米国経済の活性化が期待される一方、長期的にはいくつかの懸念点を指摘している。具体的には、保護主義的な政策による世界貿易の縮小、中国との貿易摩擦激化によるサプライチェーンの混乱と物価上昇、財政赤字拡大による長期的な金利上昇やインフレリスク、環境規制緩和による地球温暖化の加速などが挙げられている。

以上のようにAIは、「トランプトレード」が短期的な経済効果を期待できる一方で、長期的なリスクも孕んでいると結論づけている。また、この政策が世界経済全体に大きな影響を与え、米国が国際社会から孤立する可能性も示唆している。

第三の工程では、AIに「トランプ氏が次の大統領となった場合のトランプトレードの想定外シナリオを作成ください」と指示した。その結果AIは、「電撃的な対中融和路線への転換」、「デジタルドル導入と国際通貨体制の転換」、「環境問題での劇的な方針転換」、「孤立主義を深化させ、国際機関からの離脱」という4つの主要なシナリオを提示した(図表3)。

図表3 トランプ氏が次の大統領となった場合の「トランプトレード2.0」想定外シナリオ
図表3 トランプ氏が次の大統領となった場合の「トランプトレード2.0」想定外シナリオ

「電撃的な対中融和路線への転換」シナリオでは、米中関係の急激な変化に伴う日米同盟の再定義や対中経済戦略の見直しが必要となる可能性がある。「デジタルドル導入と国際通貨体制の転換」シナリオでは、日本はデジタル円の開発加速や新たな国際金融システムへの対応を迫られるかもしれない。「環境問題での劇的な方針転換」シナリオでは、日本も環境技術開発の促進やグリーン産業の育成などの対応が求められるだろう。

これらのシナリオは、トランプ氏が再び大統領に就任した場合の「想定外」の展開を想定したものであり、日本は柔軟な思考と迅速な対応が求められるだろう。なお、これらのシナリオはあくまで可能性であり、実現するとは限らないことに留意を要する。重要なのは、固定観念にとらわれず、様々な可能性を考慮しながら今後の展開を見据えることである。

3.AIの予測が示唆する未来への備え

AIによるトランプトレードの予測結果は、私たちに重要な示唆を与えている。これらの予測は、単なる経済的影響を超えて、グローバル社会全体に及ぶ広範な変化の可能性を示唆するものである。

図表4 AIが予測するトランプトレードの影響と未来への備え
図表4 AIが予測するトランプトレードの影響と未来への備え

図表4は、AIが予測するトランプトレードの影響と、それに対する未来への備えを視覚的に表現したものである。中央の地球を取り巻く4つの要素は、我々が直面する主要な課題と対応策を示している。これらの要素について、詳しくみていこう。

まず、AIの予測が示す最も重要な点は、不確実性への準備の必要性である。「アメリカ復活」から「財政不安と政治リスク」まで、幅広いシナリオが提示されたことは、トランプ氏の政策が予測困難であり、かつ大きな影響力をもつことを示している。このような不確実性の高い環境下では、企業や政府は柔軟性と適応力を高める必要がある。具体的には、複数のシナリオにもとづいた戦略立案や、迅速な意思決定プロセスの構築が求められるであろう。

次に、グローバル経済の相互依存性への認識を深める必要性が浮き彫りになった。トランプ氏の政策が米国内だけでなく、世界経済全体に波及効果をもたらすことが予測されている。特に、保護主義的な政策の強化は、国際貿易や外交関係に大きな影響を与える可能性がある。このような状況下では、各国は自国の利益だけでなく、国際協調の重要性を再認識し、バランスの取れた外交戦略を模索する必要があるだろう。

さらに、技術革新とデジタル化の加速の必要性も示唆されている。デジタル通貨や環境技術など、新たな技術領域での競争が激化する可能性が高いことが予測されている。日本を含む各国は、これらの分野での研究開発や人材育成に一層注力し、国際競争力を高める必要がある。

最後に、環境問題や社会的課題への取り組みの重要性も再確認された。トランプ氏の政策によっては、環境規制の緩和や社会保障の見直しなどが行われる可能性がある。

AIの予測は、あくまで可能性の1つに過ぎない。しかし、これらの予測を通じて、私たちは未来の不確実性に対する準備の重要性を再認識し、より柔軟で強靭な社会システムの構築に向けて行動を起こす必要がある。図表4に示されているように、トランプ氏が再選する可能性を念頭に、私たちには今こそ、未来を見据えた戦略的思考と行動が求められているといえる。この複雑な状況下で成果を出すには、上記の4つの要素を総合的に考慮し、バランスの取れたアプローチを採用することが重要だ。政府、企業、そして個人が一丸となって、この不確実な未来に立ち向かう準備を整えることが、今後の繁栄への鍵となるだろう。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

柏村 祐

かしわむら たすく

政策調査部 主席研究員
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ