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2024.07.11
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温室効果ガスの森林吸収源の現状
~木材の循環利用が、持続可能な社会の実現のカギ~
加藤 大典
- 要旨
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- 日本が2050年カーボンニュートラルを達成するためには、温室効果ガスの排出量を削減してもなお残る排出量と差し引きする吸収量の確保が必要となる。
- 「地球温暖化対策計画(2021年10月22日閣議決定)」においては、2030年の温室効果ガスの吸収量目標として、約4,770万t-CO2(うち森林吸収源:約3,800万t-CO2)が掲げられている。2022年度の日本の温室効果ガス吸収量は5,020万t-CO2で、約9割(約4,568万t-CO2)は「森林」による。
- 一方で、人工林の高齢化、すなわち成長量の多い若い森林が徐々に少なくなっていることにより、森林吸収量が減少傾向にある。再造林が進んでおらず、評価指標としている森林施業面積の実績が見通しを下回っている。
- 地球温暖化防止に森林が貢献できるよう、森林所有者や林業関係者が、持続可能な森林経営を行えるようにする必要がある。利用期に達した人工林を有効に活用する、つまり国産木材の積極的な需要者となることが、私たちにできることの一つではないか。
- 木材を使うことは「伐って、使って、植えて、育てる」という人工林のサイクルの一部であり、私たちは森林資源の循環利用の一部を担うことができる。
- 地球環境保全機能以外にも、森林には、水源涵養機能、山地災害防止機能・土壌保全機能、保健・レクリエーション機能、文化機能、生物多様性保全機能、木材等生産機能といった多面的な機能を有している。
- こうした多面的機能が当たり前のように備わっていると思ってはいけないだろう。ひとえに森林保全に汗を流す人々の営みのおかげであると心に留めると同時に、森林に関して私たちそれぞれができることを実践してみてはどうだろうか。地球温暖化対策として、さらには地域課題の解決にもつながる、持続可能な社会の実現に向けた価値ある行動である。
1.はじめに
日本は2050年カーボンニュートラルを掲げている。これは、人為的な温室効果ガス(GHG)排出量と人為的な温室効果ガス吸収量が釣り合っている状態を意味している(資料1)。この状態(カーボンニュートラル)を達成するためには、人為的なGHG排出量を全力で削減することが何より優先されるが、それでもなお残る排出量と差し引きする吸収量の確保が必要となる。

現行の「地球温暖化対策計画(2021年10月22日閣議決定)」では、2030 年の温室効果ガス排出量目標とともに、吸収量目標として約4,770万t-CO2(森林吸収源:約3,800万t-CO2、その他の吸収源約970万)が掲げられている(資料2)。
そこで本稿では、カーボンニュートラル実現に向け必要な「吸収」、特に吸収量目標の約8割を期待されている森林吸収源に注目し、その動向や課題、私たちができることについて述べたい。

2.温室効果ガス排出・吸収量の推移と森林吸収量の大きさ
2022年度の日本の温室効果ガス排出・吸収量(注1)は10億8,500万t-CO2で、排出量が11億3,500万t-CO2、吸収量が5,020万t-CO2となっている(資料3)。吸収量の約9割(約4,568万t-CO2)は「森林」となっており、その果たしている役割は極めて大きい(資料4)。一方で、資料3や資料5からわかるとおり、森林吸収量の減少傾向が理由で、吸収量全体は減少傾向にある。



3.森林吸収量が減っている日本の森林の状況
日本の森林面積は2,502万ha(2022年3月末現在)であり、国土面積3,780万haの約3分の2を占めている(注2)。森林面積の約4割に相当する1,009万haは人工林であるがその約6割が50年生を超え、本格的な利用期を迎えている(資料6上)。
森林の蓄積量(森林を構成する樹木の幹の体積のこと)は継続的に増加傾向にあるが(資料6中)、人工林の高齢化、すなわち成長量の多い若い森林が徐々に少なくなっていることにより、森林吸収量が減少傾向にある。また、コストや労働負荷のため、主伐(注3)後の再造林が進んでいないことも課題となっている(資料6下)。


2024年6月20日に公表された「2022年度における地球温暖化対策計画の進捗状況」では、森林への取組の評価指標としている森林施業面積(注4)が見込みを下回っている現状にある(資料7)。森林に適切に人の手が入らなければ、森林吸収量の減少傾向が続くことになる。

4.木材の循環利用がカギ
森林吸収源の重要性に異論がある人は殆どいないだろう。内閣府が2023年10月に実施した「森林と生活に関する世論調査」(注5)によると、森林に期待する働きとして最も回答が多かったのは「二酸化炭素を吸収することにより、地球温暖化防止に貢献する働き」67.6%(複数回答)であった。
森林の樹木は、光合成により二酸化炭素を吸収し、幹や枝等に炭素として固定(貯蔵)する。また、寿命が来た樹木は腐朽して再び二酸化炭素として大気中に放出するが、木材にして建築物等に利用することで、二酸化炭素を長期的に貯蔵できる。木材は加工しやすいことから、建築物等に利用した木材を別の形で再利用すれば、再利用後の期間も含めて貯蔵される(注6)。木材は製造・加工時のエネルギー消費が鉄やコンクリート等の建築資材よりも比較的少ないため、木材を建築資材に利用することで、建築時の二酸化炭素排出量削減に寄与する。さらに、建築資材に利用できない、あるいは建築物等に利用後の木材は、カーボンニュートラルな燃料として化石燃料の代わりに利用することもできる。
地球温暖化防止に森林が貢献できるよう、森林所有者や林業関係者が、再造林を含めた森林整備に意欲高く取り組める、言い換えれば、持続可能な森林経営を行えるようにする必要があるが、何か私たち(注7)にできることはないだろうか。資料6で見たとおり、人工林の約6割は本格的な利用期を迎えている。筆者は、それら利用期に達した人工林を有効に活用する、つまり国産木材の積極的な需要者となることが、私たちにできることの一つではないかと考える。世論調査では約9割の人が「様々な建物や製品に木材を利用すべき」と答えている。木材を使うことは「伐って、使って、植えて、育てる」という人工林のサイクルの一部であり、私たちは森林資源の循環利用の一部を担うことができる(資料8)。

5.さいごに
カーボンニュートラルの実現に向けた吸収源(地球環境保全機能(注8))という観点で森林を見てきたが、森林にはそれ以外にも、水源涵養機能、山地災害防止機能・土壌保全機能、保健・レクリエーション機能、文化機能、生物多様性保全機能、木材等生産機能(注9)といった多面的な機能を有している。
私たちは、こうした多面的機能が当たり前のように備わっていると思ってはいけないだろう。ひとえに森林保全に汗を流す人々の営みのおかげであると心に留めると同時に、例えば、森林について関心を持つ、国産木材製品を購入・愛用する、国産木材で住宅や事業所、大規模イベント施設を建てる、森林づくりボランティア活動に参加してみる(注10)等、森林に関して私たちそれぞれの立場でできることを実践してみてはどうだろうか。地球温暖化対策として、さらには地域課題の解決にもつながる、持続可能な社会の実現に向けた価値ある行動である。
【注釈】
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排出・吸収量とは、排出量の合計から森林等の吸収源対策による吸収量を差し引いた値のこと。
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「令和5年度森林・林業白書」P.38参照
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主伐とは、利用期に達した樹木を伐採し収穫すること/次の世代の森林の造成を伴う森林の一部または全部の伐採のこと。
https://www.city.higashihiroshima.lg.jp/material/files/group/38/504042503.pdf
https://www.rinya.maff.go.jp/chubu/policy/business/sinrinkeikaku/pdf/yougonokaisetu.pdf -
森林施業面積は、森林施業(更新(地拵え、地表かきおこし、植栽等)、保育(下刈り、除伐等)、間伐、主伐等)が実施された面積の合計で、都道府県等からの事業報告により把握、集計されている。
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建築物等に利用される国産材は、伐採木材製品として、パリ協定において全ての国に義務付けられている森林の二酸化炭素排出・吸収量の算定・報告に計上できる。
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「私たち」は、森林所有者や林業関係者以外の、一般の市民や企業等を想定している。
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地球環境保全機能とは、樹木が大気中の二酸化炭素を吸収し、立木や木材として固定するとともに、バイオマス燃料として化石燃料を代替することなどにより地球温暖化防止に貢献する機能のこと。
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水源涵養(かんよう)機能とは、森林土壌の働きによる洪水の緩和、河川流量維持、水質の浄化等の機能のこと。山地災害防止機能・土壌保全機能とは、樹木の樹冠(じゅかん:樹木の上部で葉が茂っている部分)や下草、落葉等が土壌を雨滴から保護することで侵食を防ぎ、樹木の根が土砂や岩石を固定することで土砂の流出や崩壊を防ぐ機能のこと。保健・レクリエーション機能とは、安らぎや癒し、行楽、スポーツの場を提供する機能のこと。文化機能とは、文化的価値のある景観や歴史的風致を構成し、文化財等に必要な用材等を供給する機能のこと。生物多様性保全機能とは、希少種を含む多様な生物の生育・生息の場を提供する機能のこと。木材等生産機能とは、木材やきのこ等の林産物を算出・供給する機能のこと。
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「森林と生活に関する世論調査」(内閣府)(2023年10月調査)によると、森林づくりボランティア活動について、何らかの形で7割近くの人が参加意向を示している。
【参考文献】
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閣議決定(2021年10月22日)「地球温暖化対策計画」
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地球温暖化対策推進本部(2024年6月20日)「2022年度における地球温暖化対策計画の進捗状況」
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林野庁(2024)「令和5年度森林・林業白書」
加藤 大典
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

