1分でわかるトレンド解説 1分でわかるトレンド解説

エシカル消費時代のアニマルウェルフェア

~日欧の動物観の違いと世界的な潮流~

牧之内 芽衣

要旨
  • 人や社会・環境に配慮した「エシカル消費(倫理的消費)」への注目が世界的に広まりつつある。本稿では、アニマルウェルフェア(動物福祉)についての世界的な潮流や、動物の扱いについて日本が後進国であるとされる現状、今後の経営課題としてステークホルダーから対応が求められることについて確認する。
  • 人が利用する動物に必要以上の苦痛を与えるべきではないとする考え方をアニマルウェルフェアという。この考え方は欧州で生まれ、世界に広まりつつある。日本で認知されている動物愛護は情動を中心とする考え方で、アニマルウェルフェアとは考え方が異なる。
  • 欧州では、神の似姿である人間は他の動物より優れていると信じられてきたが、近代化の弊害が自覚され、動物利用の質的転換が求められるようになっている。日本では古来より人間と動物の間には連続性が信じられてきたが、生活様式が急速に近代化・欧米化したことの弊害として、集約的・工業的な畜産のプロセス等への理解を深めるきっかけを逸失してしまった。
  • アニマルウェルフェアが欧州を中心に大きな世論を巻き起こすきっかけとなったのは、1964年にイギリスの活動家ルース・ハリソンが出版した著書「アニマル・マシーン」によるところが大きい。この出版を受けてイギリス議会は基本原則として家畜の5つの自由(Five freedoms)を定め、その後EUレベルでの制度化が進むこととなった。
  • アニマルウェルフェアは発展途上の概念だが、OECD多国籍企業行動指針にも追記されるなど、疑う余地なく世界的な潮流となりつつある。大手外資企業がアニマルウェルフェアの基準に適合しない食材の使用を禁止する動きもあり、対応が遅れればビジネスへの悪影響も考えられる。欧州の事例を参考にしつつ、日本の文化や慣習に合った手法を開発していく必要がある。
目次

1. はじめに

日本では新鮮さを賞味する調理法として、魚やエビを生きたまま捌いて刺身にする「活造り」が広く認知されている。諸外国では生きたままの動物を調理することは残酷とされることが多い(注1)。人が利用する動物の快適度を向上させる「アニマルウェルフェア(動物福祉)」の考え方は、動物利用に関する世界の潮流となりつつある。アニマルウェルフェアの考え方自体は1960年代に欧州で広まったものの、SDGsやESG、サステナビリティに加え、人や社会・環境に配慮した「エシカル消費(倫理的消費)」へ関心が向く中、再び注目を集めている。日本はアニマルウェルフェアの後進国と位置付けられているが、「いただきます」の挨拶のように、命をいただくことへの感謝が伝統化していると考えられている日本で、アニマルウェルフェアへの理解が遅れていると一概に語るのも違和感がある。世界での動物の扱いや、日本と欧州における人間と動物の関係性の違いを整理し、エシカル消費との向き合い方について考えるのが本稿の主旨である。

2. アニマルウェルフェア(動物福祉)とは何か

人が利用する動物に必要以上の苦痛を与えるべきではないとする考え方を「アニマルウェルフェア(動物福祉)」という。この考え方は欧州で生まれ、世界中に広まりつつある。主体はあくまで動物であり、人が「かわいそう」と感じるかどうか、人に好まれる外見かどうかなどは関係ない(資料1)。

より強硬な考え方として「アニマルライツ(動物の権利)」と呼ばれるものもある。ヴィーガン(動物性食品や製品を一切使用しない完全菜食主義)などに支持され、食肉をはじめ毛皮(ファー)の使用やペットの飼育といった、人間中心の動物利用全体を許容しない。

日本の「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)(注2)」は、犬猫だけでなく、牛や豚、鶏といった産業動物も対象だが、動物愛護に関心のある消費者が多い反面、これらの動物に思いを寄せる人は少ない。古いデータになるが、2006年の畜産技術協会による消費者アンケート結果では、「動物愛護」と聞いて牛や豚などの家畜を思い浮かべる人はわずか6%だった。日本では「かわいい」や「かわいそう」と思えるかどうかで愛護の対象が区切られ、動物に対する保護の考え方は欧州とは大きく異なる。

「はじめに」でも触れたが、諸外国では残酷とされることが多い活造りが日本で動物愛護管理法に抵触しないのはなぜか。理由は二つ考えられる。一つは、魚類・甲殻類が動物愛護管理法の対象となっていないこと。もう一つは、動物愛護管理法の目的が、動物愛護の精神という「良俗」を保護しようとするものということだ。動物にとっての苦痛を軽減することが目的ではない。そのため、生命への尊重があれば、苦痛を与える処置であっても「無駄なくいただいているのだから仕方のないことだ」と認識される。「いただきます」という食前の挨拶は、一般的に命をいただくことへの感謝とされることが多い(注3)が、食材となる動物がどのような方法で命を奪われたかという観点は覆い隠されてしまう。たとえば、「いただきます」と言って卵かけご飯を食べる人は多くても、卵を産まないという理由から、大量のオスのヒヨコが処分されていることを知る人は少ないだろう。

資料1 アニマルライツ・アニマルウェルフェア・動物愛護の違い
資料1 アニマルライツ・アニマルウェルフェア・動物愛護の違い

3. 日本と欧州の動物観の違い

欧州は日本と比べ、古来、はるかに多く肉を消費してきている。山がちな日本では、少ない耕地で食料を確保するために、畜産よりも稲作が奨励されてきた。また、佐藤(2005)や梅原(1996)のいうように、日本ではアニミズムの伝統や輪廻転生思想、山川草木悉有仏性思想(注4)などから、人間と動物の間には連続性があり、動物にも魂があると信じられてきた。仏教の考え方である「不殺生戒」に基づく殺生の罪悪視があり、人、あるいは家畜と野生動物などを区別せず、等しく殺生を悪とする。動物の供養塔や慰霊碑が数多く存在するのもこのためだ。

一方、キリスト教的価値観が根底にある欧州では、神の似姿である人間は他の動物より優れていると信じられてきた(資料2)。しかし、今日では集約的・工業的な畜産への反省など、近代化の弊害が自覚され、動物利用の質的転換が求められるようになっている。

資料2 日本と欧米等の動物観の違い
資料2 日本と欧米等の動物観の違い

日本では生活様式が急速に近代化・欧米化し、肉食も増加した。そのため、集約的・工業的な畜産を取り入れていながら、そのプロセスの全体像や歴史的変遷、倫理的問題などへの理解を深めるきっかけを逸失してしまったといえる。柴嵜(2018)のいうように、人間至上主義の欧州と、自然を畏れ敬う日本というかつての対比からは変化している可能性がある。

興味深いのは、アニマルウェルフェアの考え方ではあくまでも「人間が家畜を利用する」ということだ。家畜をいかに手厚く扱っても、屠畜して食べるのであれば人間至上主義の枠を外れてはいない。後述する「アニマル・マシーン」の序文にも「全人類の未来永劫の幸福のために」とあり、アニマルウェルフェアの主眼が畜産動物に置かれる所以でもある。日本の動物観よりドライな、家畜の利用方法と捉えることもできる。すべての殺生に等しく罪の意識を持つ日本のような考え方と、動物の利用を正当化する欧州の考え方のどちらが優れていると簡単に言い切ることはできないが、日本の考え方では盲点となりやすい飼育環境や屠畜方法に着目している点で注目に値する。

4. 倫理から法律へ

近代の動物福祉はイギリスに端を発する。市村・小林(2023)によれば、18世紀ごろ、イギリスでは闘鶏や牛掛け(杭に括りつけた雄牛に犬を放ち、闘わせる遊び)といったブラッドスポーツ(注5)が広く楽しまれていた。また、人口が過密になりつつあったロンドンのような都市部では、荷を引く牛や馬に加え、生きた状態で運び込まれた大量の家畜が交通の支障となり、虐待の対象となった。1822年に、主に牛や馬を対象とした「畜獣の虐待及び不当な取り扱いを防止する法律(マーチン法)」が成立したが、これは動物福祉よりも、モラルの向上が社会秩序の安定に貢献するという発想に起因するものだった。1824年にはこの法律に基づく告発や啓蒙を行う「動物虐待防止協会(SPCA)」が設立され、のちに王立協会となった。その後一連の立法により対象となる動物が拡大していった。

アニマルウェルフェアが欧州を中心に大きな世論を巻き起こす発火点となったのは、1964年にイギリスの活動家ルース・ハリソンが出版した著書「アニマル・マシーン」によるところが大きい。ハリソンは狭い畜舎で過密に飼育される家畜の様子を克明に記し、集約的・工業的な畜産の残虐性を批判した。1965年イギリス議会に提出された「集約畜産システムにおける家畜の福祉に関する調査委員会報告書(通称ブランベル・レポート)」で「家畜の5つの自由(Five freedoms)」(資料3)という言葉が初めて使われた。以降、「5つの自由」は国際的な指標となり、欧州評議会による一連の動物保護協定(資料4)など、EUレベルでの制度化が進むこととなった。2002年には国際獣疫事務局(OIE、のちWOAHに改称)の総会でアニマルウェルフェアに関する専門家会合が開かれ、以降WOAHはアニマルウェルフェアについて大きな影響力を持つ国際機関として知られている。

資料3 5つの自由(Five freedoms)
資料3 5つの自由(Five freedoms)

資料4 欧州評議会による一連の動物保護協定の例
資料4 欧州評議会による一連の動物保護協定の例

5. 日本の動物保護の状況と日本人の意識

イギリスに本拠がある動物愛護団体World Animal Protectionは、50の国を対象に動物の保護状況を調査し「動物保護指数(Animal Protection Index)」を公表している。アニマルウェルフェアの法規制や政策に関する10項目について、最高評価のAから最低評価のGまでの7段階で表される。Aの国はまだなく、イギリスのほかスイスやスウェーデン、オランダがBで、フランス・ドイツ・イタリアがCなど、欧州諸国の評価が比較的高い。日本の総合評価はOECD(経済協力開発機構)加盟国唯一のEであり、韓国やタイ、インド、マレーシア、フィリピンなどと比べても低い。なかでも、日本の畜産動物の保護状況は、飼育・輸送・屠殺の各段階における家畜の飼育に関する具体的な福祉要件を詳述する法律が存在しないことなどを理由として、最低ランクのG評価が付けられている(資料5)。

資料5 2020年の国別動物保護指数(API)
資料5 2020年の国別動物保護指数(API)

なお、NPO法人アニマルライツセンターが2021年に行ったアンケート調査では、「アニマルウェルフェア」あるいは「動物福祉」という言葉を知っていると回答した日本人はわずか5.8%、聞いたことがあると回答した人も10.5%のみだった。

6. 対応の必要性

食品業界におけるアニマルウェルフェアの取組を評価するベンチマークとして、BBFAW(Business Benchmark on Farm Animal Welfare)があり、日本企業も評価の対象とされている。また、2023年には企業の責任ある行動(RBC:Responsible Business Conduct)の国際スタンダードとしてOECDが発表している「OECD多国籍企業行動指針」が改訂され、アニマルウェルフェアについての記述が加わった(注6)。今後、アニマルウェルフェアが多くの企業の経営課題となり、ステークホルダーから対応を求められるようになる日が日本においても遠からずやってくるだろう。

農林水産省は2023年に「アニマルウェルフェアに関する飼養管理指針」を策定し、国として初めてアニマルウェルフェアに関する指針を公表した。乳用牛、肉用牛、豚、採卵鶏、ブロイラー、馬それぞれについて管理者等のアニマルウェルフェアへの理解等の促進の必要性が記されているが、一頭または一羽あたりに必要な飼養スペースなどの具体的な記述や罰則規定はない。

人間によって命を奪われる動物の苦痛を、人間の側が計測しようとすることから、アニマルウェルフェアは時として人間至上主義と批判されるが、先述のOECD多国籍企業行動指針に反映されるなど、世界的な潮流となりつつあることに疑う余地はない。人間至上主義からの脱却の試みとして展開されてきたアニマルウェルフェア自体が実は人間至上主義と批判されるのは実に皮肉なことだ。科学的アプローチで動物の苦痛を計ろうとする努力がされているものの、アニマルウェルフェアの概念は発展途上だ。とはいえ、家畜を含む動物の生活環境を整えるという、日本で盲点になりやすいポイントは参考にする価値は十分にある。欧州の事例を参考にしつつ、日本の文化や慣習に合った手法を開発していくとともに、アニマルウェルフェアの認知度を向上させる努力が必要である。大手外資企業がアニマルウェルフェアの一定基準を達成していない食材の使用を禁止する動き(注7)もあり、日本企業の対応が遅れればビジネスへの悪影響も考えられる。認知度向上に加えて、幅広い層での理解促進と意見醸成、認証ラベルや認定制度の創設、アニマルウェルフェア向上を目指す畜産業者への経済的支援など、多方面から対応を検討することが必要ではないか。

以 上

【注釈】

  1. オーストラリアでは2017年、ロブスターを生きたまま解体していたレストランが有罪判決を受けた。スイスでは2018年に動物保護規定が見直され、甲殻類を生きたまま熱湯で茹でる調理法が禁止された。イギリスでは2021年に甲殻類や軟体動物にも苦痛を感じる知覚があるとする報告書がまとめられ、これらの動物が動物福祉の保護対象に加えられた。今後同国では生きたまま茹でるなどの調理法が禁止される可能性がある。

  2. 1973年に「動物の保護及び管理に関する法律」が成立した背景は、当時犬による咬傷事故が多発し社会問題化していたこと、天皇の訪英を前にイギリスの新聞等で「日本には動物愛護に関する法律がなく、犬が虐待されている」と非難する記事が掲載され、日本の動物愛護施策の遅れに外国の批判が相次いだことなどがある。1999年には、愛玩あるいは伴侶としての動物の重要性の高まりなどを反映し、「動物の愛護及び管理に関する法律」として改正された。

  3. 平成9年度の「農業白書」では、「いただきます」は「私達がいただいている食事は、いかに多くの人達の手間と労力がかかっているか、その労苦を思うとともに、天地自然の恩恵を忘れてはならない」という意味であると説明されており、感謝の対象のウエイトは「天地自然の恩恵」よりも食事に関わる人々の労力に置かれている。「いただきます」の挨拶が今日のように「命をいただくことへの感謝」と説明されるまでに変遷があった可能性がある。なお、昭和初期の時点では「いただきます」という挨拶は一般的ではなかったとする調査もあり、「命をいただくことへの感謝である『いただきます』の挨拶は日本古来の伝統」とするには一定の留保が必要である。

  4. 「さんせんそうもくしつうぶっしょう」と読む。山や川、草や木、この世にあることごとくはみな仏である、つまり、この世に存在する全てに仏性が宿るという考え方。

  5. ブラッドスポーツとは、動物に危害を加えたり、動物同士を戦わせたりして楽しむ娯楽のことをいう。本文中の闘鶏や牛掛けのほか、闘犬や闘牛、馬に乗ったハンターが犬を使ってキツネを追う「キツネ狩り」などが挙げられる。日本では1947年に動物愛護管理法が制定されて以来、ブラッドスポーツは基本的に禁止されている。

  6. 「企業は、国際獣疫事務局(WOAH)の陸生動物衛生規約と整合するアニマルウェルフェアの基準を尊重すべきである。動物は、それが健康かつ快適で十分な栄養が与えられ、安全であり、また、痛み、恐怖及び極度の不安などの不快な状態に苦しむことなく、心身の状態にとって重要な行動を表すことができる場合に、良好な福祉状態にある。良好なアニマルウェルフェアには、疾病予防並びに適切な獣医のケア、シェルター、管理及び栄養、刺激を受けられかつ安全な環境、思いやりある取扱及び思いやりある屠殺又は殺処分が求められる。また、企業は、関係する国際機関が策定した生きた動物の輸送についての指針を遵守すべきである。」(2023年改訂版仮訳より抜粋)

  7. 大手コーヒーチェーンでは、米国とカナダでは100%平飼い卵(ケージに入れっぱなしにせず、地面の上を歩けるようにした鶏から採れた卵)に移行済みで、大手ハンバーガーチェーンも2050年までに米国店舗では100%平飼い卵に移行するとの方針を策定した例もある。ある大手ホテルも日本を含む世界で2025年までに100%平飼い卵へのシフトを表明するなど、外資系の食品業界やホテルにおいて続々とアニマルウェルフェア重視の動きがある。

【参考文献】

牧之内 芽衣


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。