年金改革2025シリーズ「国民年金(基礎年金)の見方」

~財政検証の理解に向けて その2~

小川 伊知郎

要旨
  • 本シリーズは、普段年金制度に関わっていない方々向けに、極めて基礎的なことから順次知識を深めて、今夏に予定されている財政検証を少しでもよく理解して頂くことをねらいとしています。

  • 年金制度が分かりにくい理由の一つは目に見えないためであり、その見方には工夫が必要で幾つかのポイントがあります。

  • 見方のポイントのうち、主なものは「加入」「掛金支払」「脱退」「給付」です。

  • 国民年金(基礎年金)の給付・掛金支払は、確定給付企業年金で言うところの「勤続年数別定額制」と同様の仕組みです。

目次

1.本シリーズのねらい

2024年度は、5年に一度の公的年金制度のチェックである「財政検証」が実施されます。本シリーズ「財政検証の理解に向けて」では、普段年金制度に関わっていない方々向けに、極めて基礎的なことから順次知識を深めて、今夏に予定されている財政検証を少しでもよく理解して頂くことをねらいとしています。詳しくは「その1 わが国の年金制度」をご覧ください(小川(2024)参照)。また、一部厳密でないと感じる部分もあるかもしれませんが、わかりやすさを優先していますので、ご容赦願います。

2.年金制度の見方

その1では、まずわが国の年金制度の全体像を見ました。厚生労働省がまとめたわが国の年金制度の体系を再掲しておきます(資料)。このうち今回取り上げるのは公的年金制度のうち、1階部分の「国民年金(基礎年金)」です。

資料 年金制度の仕組み
資料 年金制度の仕組み

年金制度が分かりにくい理由の一つは目に見えないためであり、その見方には工夫が必要で幾つかのポイントがあります。年金と並んで老後の生活を支えるものとして退職金がありますが、企業に勤務している会社員にとっては退職金の方が比較的馴染みがあって分かりやすいのではないでしょうか。直接退職金と関係していない自営業者や学生にとっても、退職金の方がイメージし易いと思います。わが国では3階部分の私的年金制度のうち、公的年金制度と同じ給付建てで企業に勤務している会社員が加入する「確定給付企業年金(以下、DBといいます)」の多くは、もともとは企業の退職金で、その全部または一部を移行しています。公的年金制度はわが国の年金制度の中でも標準的ではない側面があるので、先ずはこのDBで年金制度の見方のポイントをつかんでおきましょう。

3.DBの見方

見方のポイントのうち、主なものは「加入」「掛金支払」「脱退」「給付」です。

(1)給付

最初に最も重要な給付から見てみましょう。

①受取方法

年金制度ですから基本は年金受け取りで、回数は年1回、2回、6回などがあります。加えて、退職時に一括で受け取ることができるようになっています。これはDBの多くが企業の退職金の全部または一部を移行しているためです。

②給付額

多くが企業の退職金からの移行であるため、その制度内容に応じてDBの給付額も決められています。大きく3つに分かれ、一つは勤続年数に応じて金額が決まるタイプです。例えば、勤続10年で100万円、勤続40年で1,000万円のように決められ「勤続年数別定額制」と呼ばれます。

もう一つは、算定用の基準給与と支給率に応じて金額が決まるタイプです。例えば、勤続10年で基準給与が50,000円、支給率が20の場合、金額=50,000×20=100万円、勤続40年で基準給与が100,000円、支給率が100の場合、金額が1,000万円のように決められ「給与比例制」と呼ばれます。

更に、毎月の給与と退職金を切り離すために毎年ポイントを付与し、退職時までに付与されたポイントの累計に単価を掛けて金額を決めるタイプがあり「ポイント制」と呼ばれます。

(2)加入と脱退

通常は企業に入社すると同時にDBに加入しますが、一部は例えば「勤続3年を経過してから加入」というケースがあります。また「正社員のみ加入する」といったケースもあります。

一方、脱退は少し複雑です。企業から「退職」するとDBからは「脱退」します。退職と同時に給付を一時金で受け取るケースでは、その時点でDBとも縁が切れますが、一方例えば55歳で中途退職して60歳から年金を受け取るケースでは、60歳までの年金開始を待っている期間、60歳以降の年金を受け取っている期間ともに、DBと無関係とはいえません。DBでは就業中、退職後年金開始前、年金開始後の者をそれぞれ「加入者」「待期者」「受給者」と呼んで区別しています。

(3)掛金支払

DBでは掛金は企業が負担するのが原則です。これは(1)のとおり多くが企業の退職金がもとになっているためです。通常、掛金の決め方は給付額の決め方と同じで、「勤続年数別定額制」の場合は掛金も従業員一人当たり一定額、「給与比例制」「ポイント制」の場合は掛金もそれぞれ給与或いはポイント単価の○○%のように比例で定めます。また、掛金は入社から退職までの(2)の「加入者」である間、払込むのが一般的です。

4.国民年金(基礎年金)の見方

では、いよいよ国民年金(基礎年金)を見ていきましょう。

(1)加入と脱退

就業・非就業、専業主婦・主夫、学生など、その状況にかかわらず、全ての国民は20歳になると加入します。そして60歳になると原則として脱退します。つまり最長でも40年間しか加入できないということです。但し、60歳を過ぎても加入期間が40年に満たない場合は、その満たない年数分だけ加入し続けることが可能です。

また、給付を受けるためには最低10年は加入しなければなりません。学生は特例で(3)で後述する掛金を、就職してから遡って支払うよう申請することができます。申請しておくことで、20歳以上の学生であった期間を、この給付を受けるために必要な期間に算入できます。

(2)給付

①受取方法

DBと異なり原則年6回の年金払いのみで一時金受け取りはできません。偶数月にその前々月・前月の2か月分が支払われます。加入できるのは60歳までですが、給付を受けられるのは原則として65歳からとなるのも、押さえておくべきポイントです。繰り上げて例えば60歳から受け取ることも可能ですが、この場合は65歳からの給付に比べて24%少なくなります。

②給付額

「2024年度では」「満額」で月額「68,000円」です。ポイントとなる「 」内について順次説明します。

まず「2024年度では」ですが、金額は毎年変わります。変動のルールは極めて複雑ですが、ここでは一旦「物価変動-年金額の増加を抑える調整」で変わるということだけ押さえておいてください。年金制度は終期の無い超長期の制度であるため、例えば物価が上昇した際にはそれに合わせて年金額も増加させないと、年金額が実質的に目減りしてしまうことになります。一般的に私的年金制度にはないこの物価変動への備えが、公的年金制度の大きな特徴です。一方、少子高齢化によって将来制度運営が厳しくなってくることも考えられますので、物価上昇分全てでなくそれより少ない幅での増価に留めるよう調整しています。この調整によって生まれた余裕分は、将来世代の年金額の水準の確保につなげています。なお「年金額の増加を抑える調整」についてより詳細に知りたい方は、厚生労働省の「マンガで読む公的年金制度」をご覧ください(厚生労働省参照)。

次に「満額」ですが、20歳から60歳の40年間加入して初めて、この金額を受け取れます。例えば進学などで25歳就職時に加入し60歳退職時に脱退した場合は、加入期間が35年ですから「月額68,000円×35年/40年=59,500円」に減額されます。

最後は「68,000円」です。見てお分かりのとおり、これは給与・報酬等の多寡にかかわらず一定額です。また40年加入で満額の68,000円でしたので、加入1年あたり1,700円増加することになります。つまりこれは2(1)①のDBで言うところの「勤続年数別定額制」と同様の仕組みです。

(3)掛金支払

自営業者・学生などは「2024年度では」月額「16,980円」です。ポイントとなる「 」内について順次説明します。なお、会社員・公務員などは2階部分の「厚生年金保険」と合算して支払いますので、この1階部分の国民年金(基礎年金)部分を別途支払う必要はありません。

まず「2024年度では」ですが、金額は毎年変わります。過去には毎年段階的に引き上げられましたが、2019年度からは17,000円で固定されました。これに賃金変動を加味して、毎年の金額を決定します。(2)②給付額が「物価変動」を、掛金が「賃金変動」をそれぞれ加味するのが一見ちぐはぐに見えますが、受け取る給付額が物価に、支払う掛金が賃金に連動するのは、直感的には合理的に感じられると思います。また極めて複雑なので(2)②給付額では割愛しましたが、「賃金変動<物価変動」の場合は、給付額も掛金と同じ「賃金変動」を加味します。これは、年金制度の支え手である現役世代の就労者の掛金負担能力に応じた給付額とするという考え方であり、これによって給付額・掛金間の整合性が図られています。

次に「16,980円」です。見てお分かりのとおり、これは給与・報酬等の多寡にかかわらず一定です。これは2(3)のDBで言うところの「勤続年数別定額制」と同様の仕組みです。

5.おわりに

いかがでしたでしょうか。国民年金(基礎年金)の見方が、少しは分かって頂けたでしょうか。次回は今回の続きで、2階部分の「厚生年金保険」の見方について説明します。

以 上

小川 伊知郎


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。