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2023.09.19
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多様性理解の第一歩は思い込みに気づくことから
~視覚障害者は誰でも点字を使う?~
水野 映子
- 目次
1.視覚障害のある社員を歓迎会にどう呼ぶか
まずは以下の場面を想像しながら、質問の答えを考えてみてほしい。もし読者が会社員でなければ、自身の状況に合わせて場面設定を変えていただいてもよい。
あなたは歓迎会の幹事です。
もし、視覚に障害のある社員があなたの部署に新しく入ってきたら、その人に歓迎会の情報(日時、店の名前・場所など)をどのような方法で知らせますか?
会って伝える以外の方法を答えてください。
筆者は、この質問の場面設定などを少し変えた(注1)うえで、学生数十名がいる場において簡易なアンケートをおこなった。参考までに、自由回答を分類・集計した結果の中から、上位にあがった回答を以下に示す。
①電話で伝える
②音声のデータ・メッセージを送る
③点字の手紙を送る
④家族・友人などに伝言を依頼する
①②③④の回答割合は、それぞれ5・4・3・2割台だった(1人が複数の方法を回答した場合もある)。なお、このアンケートの後、視覚障害の特性や視覚障害者が使う情報入手手段などについて回答者に説明し、さらにその後、感想などをたずねた。
筆者が確認した限り、回答者自身に視覚障害はなく、視覚障害者との日常的な接点もあまりない。同じような状況にある読者ならば、多くは概ね①~④のどれかを思い浮かべたのではないだろうか。
これらの回答はどれも間違いではないが、②~④に関しては、視覚障害者やその情報入手手段に関するイメージの偏りや思い込み(注2)があることもうかがえる。以下では、一般生活者にこの質問をした場合も類似の回答が得られると仮定して、それぞれの回答の背後にあるイメージの偏りや思い込みについて考察する。
2.視覚障害者に関する思い込み
誰でも点字を読める?
視覚障害者の情報入手手段として多くの人がまず思い浮かべるのは点字だろう。だが、③の「点字の手紙を送る」という方法は、送る側が点字を打てないと実現できない。また郵送するとなると、届くまでに時間がかかる。
加えていえば、この方法は受け取る側の視覚障害者が点字を読めることが前提になっているが、実際には視覚障害者が点字を読めるとは限らない(注3)。もちろん点字の文書のニーズはあり、点字での情報提供が必要な場合もあるが、冒頭であげたような場面で③は現実的といいがたい。
常に誰かの助けが必要?
④の「家族・友人などに伝言を依頼する」方法とは、具体的には電話・メール・SNS(LINEなどを含む)で家族・友人などの第三者に用件を伝え、その人から視覚障害者本人に伝えてもらうという方法を指す。この方法は、視覚障害者本人は電話・メール・SNSなどの連絡手段を使えない・使わないことが暗に前提となっている。視覚障害者は常に誰かのサポートを受けて生活しているというイメージが一部にはあるが、情報入手に関してもそのようなイメージがあるのかもしれない。
パソコンやスマホを使えない?
だが、そのイメージと実態には差がある。視覚障害者を対象にした調査によると、5年以上前の時点で、パソコンの利用率は9割、携帯電話(フィーチャーフォン、いわゆるガラケー)・スマホ(スマートフォン)の利用率はそれぞれ半数を超えていた(図表1a)。また、パソコン・携帯電話・スマホの利用者でメールを使っている人の割合も高い(図表1b)。スマホの利用者がSNSを使っている割合も7割を超えている(全盲73.0%、弱視74.0%:図表省略)。平均的な視覚障害者より情報端末を使える人がこの調査に回答している可能性はあるが、それを差し引いても、かなりの数の視覚障害者が電話はもちろん、メールやSNSも使っていると思われる。
音声データを送れば伝わる?
一方、②の「音声のデータ・メッセージを送る」という方法は、視覚障害者が何らかの情報端末を使うことが前提になっている。実際には、この方法が視覚障害者への連絡方法として広く使われているという話は聞かない。だが、冒頭のアンケートでは回答者が若かったこともあってか、録音したデータをメールなどで送るという方法のほか、メッセージアプリで文字の代わりに音声のメッセージ(いわゆるボイスメッセージ)を送るという方法も多くあがっていた。
これらの方法は、多くの送り手にとっては③の点字の手紙より簡単だろうし、一見すると受け手の視覚障害者にとっても音声を聞くだけなら簡単そうに感じられる。だが、送られた音声を聞くためには、データを選択して再生ボタンや停止ボタンを押す、などの一連の操作が必要である。画面を見ながら操作することが難しい視覚障害者にとって、その操作は必ずしも簡単ではない。視覚障害者への連絡方法として②を想起した人の中で、その操作を視覚障害者がどうおこなうのか、簡単におこなえるかどうかにまで思いを至らせた人は少ないのではないかと考えられる。
文字のメッセージを読めない?
では、視覚障害者はパソコン・携帯電話・スマホ・タブレットなどの情報端末をどのように使っているのか。
情報端末の通常の画面を見ながらマウスをクリックしたり指で操作したりすることが難しい視覚障害者は、さまざまな補助機能を使って操作している。補助機能は情報端末にあらかじめ搭載されている場合もあれば、ソフト(アプリ)などを入れると使えるようになる場合もある。
代表的な補助機能のひとつは、画面上の視覚的な情報を音声で読み上げる機能(音声読み上げ機能)である。この機能を使えば、画面を見なくてもパソコンならキーボードだけ、携帯電話・スマホ・タブレットなら指だけで操作できる(注4)。前述の調査では、パソコン・携帯電話・スマホを使っている全盲の人のほぼ全員が音声読み上げ機能を使っていた(図表1c)。
情報端末の種類やアプリなどによって使い勝手に差はあるが、メールなども音声読み上げ機能を使えば基本的には読める。したがって、この機能を使ってメールなどを読んでいる視覚障害者に連絡する際には、文章の書き方や画像の使い方などに関してある程度の注意を払えば、通常と同じように文字を入力して送ればよい。だが冒頭のアンケートで、相手に音声読み上げ機能を使ってもらうと回答した人はごくわずか(1割未満)だった。一般の人の中でも、この方法が思い浮かぶ人はそれほど多くないと思われる。
視覚障害=全盲?
ところで、視覚障害とひと口にいっても、その程度や見え方は多様である。全く見えないことが全盲と呼ばれるのに対し、見えにくいことは弱視(またはロービジョン)と呼ばれる。弱視の人の中には、情報端末の音声読み上げ機能のほか、文字のサイズを拡大する機能や色の設定を変更する機能などを使っている人も多い(図表1c)。
だが、筆者がおこなった冒頭のアンケートでは、弱視の人が使うそれらの機能に触れた回答は皆無だった。質問文において全盲の人をよりイメージしやすい「目の見えない人」という表現を用いたことが一因と思われるが、もし「視覚に障害のある人」と表現したとしても、全盲の人に比べると弱視の人は思い浮かびにくかったのではないかと推測される。実際、このアンケートの後には、視覚障害イコール全盲というイメージがあったという感想も寄せられた。この回答者に限らず、視覚障害といえば全盲というイメージは一般的に強いが、人数としては全盲の人より弱視の人のほうがはるかに多い。

*1:利用率の高い補助機能を掲載。
*2:パソコンの補助機能は「スクリーンリーダ」と表記されている。
*3:-印は該当する選択肢がなかった項目。
*4:調査の実施時期は2017年2~3月、有効回答数は303人。
資料:研究代表者:渡辺哲也、分担研究者:小林真、南谷和範、厚生労働科学研究費補助金(障害者政策総合研究事業(身体・知的等障害分野))平成28年度~平成29年度 課題名:意思疎通が困難な人に対する人的及びICT技術による効果的な情報保障手法に関する研究「視覚障害者のICT機器利用状況調査2017」2020年3月
3.多様な人とのコミュニケーションは「知ること」「聞くこと」から
以上は、視覚障害者とのコミュニケーション方法に関する知識やイメージには偏りがあるかもしれないという例だが、これと似たケースは他にもある。たとえば、日本人がもちやすいイメージとしては、英語ができないと外国人とのコミュニケーションは難しい、というものがある。実際には、相手が英語を理解するとは限らないし、英語以外にもコミュニケーション方法はあるにもかかわらず、である(注5)。そのような思い込みは、多様な人々とのコミュニケーションを阻む原因になる。そればかりか、対応を誤れば意図せず差別を生むことにもなりかねない。
そうならないためにまず重要なのは、自分とは異なる特性がある人々に関する基礎的な知識をあらかじめもっておくこと、またときには自分がもっている知識やイメージに偏りや誤りがないかを疑ってみることである。今回の例でいえば、視覚障害者がふだんどのような情報入手手段を使っているかに関して一定以上の知識があれば、文章でメールやメッセージを送るという選択肢も思い浮かぶようになるだろう。
加えて、実際に自分とは異なる特性の人に接することになった際には、どのような対応が相手にとってよいかを本人に聞くことも不可欠である。今回の例であれば、相手(視覚障害者)がどのような連絡手段を望むかをたずねることがそれにあたる。文字を音声読み上げ機能で聞いたり拡大して読んだりすることができる人であればメール連絡を望むかもしれないし、電話連絡を好む人もいるかもしれない。そのようなプロセスを経れば、苦労して点字の文書を作ったのに相手がそれを読めない、というような的外れな事態は避けられるはずである。
相手に関する基本的な知識を得て思い込みをなくす、そして相手の意向を聞いたうえで対応を考えるというプロセスの重要性は、視覚障害者に連絡をするという場面に限らず、あらゆる相手・場面のコミュニケーションに共通している。まずは相手を「知ること」、そして相手に「聞くこと」、そこから多様な人々とのコミュニケーションは始まる。
【注釈】
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「視覚に障害のある」を「目の見えない」、「社員」を「学生」に、「部署」を「ゼミまたはサークル」と変更した。
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無意識の思い込みや偏見は「アンコンシャス・バイアス」とも呼ばれる。
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以下の調査によれば、日常的な情報入手方法として「点字」を選択した視覚障害者の割合は、65歳未満では8.2%、65歳以上では7.4%。
厚生労働省「平成28年 生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」 -
スマホ・タブレットの場合、機種などによって、使う指の本数やその動かし方(たとえば軽く1回/2回叩く、上/下/左/右に滑らせるなど)によって、どのような操作ができるか(たとえば項目を選択する、読み上げを停止・再開する、次の項目に進むなど)が決まっている。
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この問題については以下のレポートなどで論じた。
水野映子「インバウンド回復を機に考える『おもてなし』 ~まずは外国人への声かけ・手助けから~」2023年8月
水野 映子
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。