テレビの楽しみを広げるサービス

~字幕放送・解説放送等の動向と課題~

水野 映子

目次

1.総務省が定めた普及目標

テレビ放送には、字幕放送・手話放送・解説放送というサービスがある。字幕放送・手話放送は聴覚障害によりテレビの音声を聞くことができない人、解説放送は視覚障害により映像を見ることができない人などが、テレビから情報を得たりテレビを楽しんだりするためのものだ。総務省は、「放送分野における情報アクセシビリティに関する指針」を策定し、2018年度から10年間のそれぞれの普及目標を定めている(図表1)。

図表1
図表1

これらの放送は、聴覚や視覚に障害がある人はもちろん、そうでない人がテレビを視聴する上でも役立つ面があるが、知られていないことも多い。そこで以下では、それぞれの放送の現状や使われ方、課題などについて述べる。

2.増える字幕放送 ~番組にもCMにも~

まず、字幕放送に焦点をあてる。

字幕放送とは、ニュースやドラマのセリフやナレーション、BGMや効果音などの音声情報を文字にして画面に表示するサービスである。字幕放送の付いた番組(字幕番組)であれば、リモコンの「字幕」ボタンで表示・非表示を切り替えることができる。リモコンを操作しなくても表示される文字、いわゆるテロップやスーパーとは異なる。字幕放送の有無は、番組表の「字」などのマークで確認できる。

2021年度の字幕放送の実績をみると、冒頭で述べた指針の普及目標の対象となる放送番組における字幕番組の割合は、地上波のNHKや民放キー局などでは目標の100%かそれに近い数値になっている(図表2)。また、10年間の推移をみると、以前は字幕番組の割合が低かった県域局、いわゆるローカル局やNHK(教育)も含め、増加傾向にある(図表3左)。字幕放送が地域的にも分野的にも広がったといえる。

以上で述べた字幕番組の他に、字幕放送に関して見逃せないのは、字幕付きCM(字幕放送付きのCM)である。字幕付きCMは、字幕番組と同様、リモコンの字幕ボタンで表示の有無の切り替えができる。CMは字幕放送の普及目標の対象ではなく、かつては字幕付きCMが全くなかったが、業界団体などによりその普及が進められてきた(注1・2)。その結果、現在では多くの字幕付きCMが見られるようになった。聴覚障害者を対象にした調査からは、字幕付きCMを見たことによってCMの内容の理解度、企業・商品に関する興味、購入・利用意向、企業イメージなどが上がったという結果が示されている(注3)。

3.映像を音声で伝える解説放送 ~進まぬ普及~

次に、視覚障害者などのための解説放送の現状をみてみよう。

解説放送とは、出演者の表情や動作、情景描写、場面設定などの映像の内容を、副音声によるナレーションで伝える放送サービスである。番組表では「解」などのマークで表示されている。解説放送は、ドラマやバラエティ番組など、主に録画された番組で実施されている。

その実績(図表2・図表3右)をみると、普及目標の対象となる放送番組における解説番組の割合は、地上波のNHKや民放キー局などでも10数%であり、100%かそれに近い字幕放送に比べるとかなり低い。また、近年は以前ほど増加傾向がみられない。「解説放送は、番組が完成した後に新たに解説放送用の台本を作り、解説を付与・収録することから(中略)解説付与が時間的に困難であることが多い」(注4)という記述にも示されているように、解説を付けるために要する時間が、普及を妨げる一因になっている。

なお、字幕放送・解説放送以外の障害者向けの放送サービスには手話放送もある。字幕放送とともに手話放送に対する聴覚障害者のニーズは高いが、その放送時間はNHKでも週に数時間、民放(県域局以外)では1時間に満たず(図表2)、字幕放送に比べて格段に少ない。

図表2
図表2

図表3
図表3

4.誰もがテレビの情報を享受できる社会に向けて

聴覚・視覚に障害のある人や聴力・視力の低下した高齢者が、テレビから迅速かつ正確な情報を得たり、テレビを楽しんだりできることは、誰もが暮らしやすい社会(ユニバーサル社会)の一要件である。その実現のためには、上記の字幕・解説・手話放送の量的・質的な普及が不可欠である。

総務省が2017年にまとめた前述の報告書(注5)では、今後の課題として、それぞれの放送の充実と、高齢者等の認知度の向上があげられている。それらの課題に加え、より多くの人がより幅広くテレビの情報を入手でき、楽しめるようになるための課題を以下で述べる。

①動画配信サービスも視野に

近年では、テレビで放送された番組を、インターネットの動画配信サービスで視聴できることも多くなった。だが、テレビでは字幕や解説が付いていた番組でも、動画配信サービスではそれを視聴できないこともある。

コロナ禍に伴う巣ごもり需要などを背景に、動画配信市場は急速に伸びており、今後も拡大することが予想されている(注6)。動画配信サービスにおける字幕や解説の付与は、今後注目すべき新たな課題といえる。

②字幕・解説放送等の活用方法の周知を

以上で述べた放送サービスは、テレビの音声を聞くことや映像を見ることが困難な障害者・高齢者はもちろん、それ以外の人がテレビを楽しむ上でも有用な面がある。例えば字幕放送は、近隣や家族にテレビの音声が聞こえないようにしたいときや、反対に近隣・家庭内が騒がしいときなどに役立つ。また家庭外では、病院の待合室のように大きな音声を出せない場所に設置されたテレビでも活用されていることがある。一方、解説放送において映像の情景や表情などを音声で描写する方法は、視覚に障害のない人が聞いても興味深く、参考になることがあると思われる。

だが、そうしたことは一般の生活者には十分認知されていない。それどころか、字幕放送・解説放送があることや、それらをリモコン一つで視聴できることを知らない人もいる。字幕放送や解説放送の存在やその視聴方法・活用方法を、障害者・高齢者以外の生活者にもっと知らせることも課題であろう。特に、高齢者の認知度を上げるためには、その家族などの周囲の人の認知度も上げることが効果的と考えられる。

また生活者の側も、字幕放送・解説放送などを視聴してみて、テレビの音声が聞こえない人や映像が見えない人のことを想像したり、自身や身近な高齢者などの生活での活用方法や楽しみ方を考えたりしてはいかがだろうか。皆がその有用性を認識するようになれば、普及がより進み、テレビ視聴を楽しめる人も増えるだろう。

【注釈】

  1. 日本民間放送連盟「よりよい放送のために 字幕付きCM」
    https://j-ba.or.jp/category/broadcasting/jba101840
  2. 日本広告業協会「字幕付きCMポータルWebサイト」
    https://www.jaaa.ne.jp/jimaku_cm_portal/
  3. 字幕付きCM普及推進協議会(調査実施機関:ビデオリサーチ)「字幕付きCMに対する評価、効果等に関する調査2022 報告書」2022年5月
    https://www.jaaa.ne.jp/wp-content/uploads/2022/07/20220721_jimaku_01.pdf
  4. 総務省「視聴覚障害者等向け放送に関する研究会 報告書 ~すべての人に優しい放送のために~」
    https://www.soumu.go.jp/main_content/000524108.pdf
  5. 出典は注4と同じ。
  6. 総務省「令和4年版 情報通信白書」
    https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nd236600.html

水野 映子


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