ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

「高校」再生は、地方創生の鍵(3)

~高校魅力化から、地域総ぐるみによる「まちの魅力化」へ~

稲垣 円

目次

前稿(「「高校」再生は、地方創生の鍵(2)」)では、廃校の危機をきっかけに「高校魅力化・活性化事業」(以降、魅力化事業とする)に取り組み、地域と連携した独自の探究型教育プログラムを開発・実践する「島根県立津和野高等学校」について紹介した。この実績を基に、津和野町では「まち全体が学びの場」として保育所・学校、家庭、地域、行政が一体となって取り組む、「0歳から大人になっても自ら学び続けるひと」の育成に向けた取り組みが行われている。

1. 魅力化事業から見えた課題

津和野町では、魅力化事業によって、町民との協力体制の構築、県外から留学する学生の増加や卒業生との持続的な関係づくりなど一定の成果を上げてきた。一方、この取り組みを続ける中で、新たな課題が浮かび上がった。

子どもの成長や発達は身を置く環境に影響される。しかし、保育所、小学校、中学校、高校では、それぞれが独自の教育観を持って異なる指導方法をとるため、子どもたちは進学するたびに、新たな環境に適応することが求められる。したがって、子どもの心理的な不安や負担を減らすには、教育に携わる機関の間での意思疎通を明確に図ることができる状態をつくり、次のステージ(校種、学年)への移行が滑らかであるほど良い。

また、これまで津和野高校の魅力化事業の取り組みにより、生徒と生徒を応援したい地域住民との関係が作られてきた。しかし、当然ではあるが、こうした学びは高校在学中に限られる。津和野町は、魅力化事業の教育効果を踏まえるならば、学校(子ども)が地域と関わることは、高校生になってから経験するのではなく、幼少の頃から積み重ねていくことが重要なのではないか。加えて、地域社会に関わる当事者として、子ども以上に大人が体現していかなければならないのではないか、と考えたのである。

そこで、津和野町では、0歳という早期から校種を越えて学びに連続性を持たせること、そして学校を卒業して終わりではなく、大人も(大人になってからも)津和野町というフィールドで学び、実践する「ひとづくり」へと舵を切ることになった(図表1)。

図表5
図表5

2. 学校(教育)を中心としたひとづくりの仕組み

具体的施策を検討する上で、次の3点、①「タテの連携」(0歳から 18 歳まで系統性のある教育環境づくり)、②「ヨコの連携」(開かれた保育所・学校と家庭・地域・行政が連携した教育環境づくり)、③「0歳からの学び」(人生の基礎となる0歳から就学前の幼児教育の充実と、親になるための学びの環境づくり)を柱としたプログラムが策定された。

しかし、保育所・小学校・中学校・高校の校種を越えて・・とは言うものの、初めから順調に進んだわけではない。町立か県立か、管轄は文部科学省か厚生労働省なのか、それによって町役場の部署も変わる。異なる仕組みを持つ者同士が連携することは容易ではない。そこで役割を果たすのが「魅力化コーディネーター」(以降、コーディネーター)だ。「前稿」の津和野高校の事例で紹介したように、コーディネーターは学校という教育現場に入り、教員の要望や生徒の希望に応じて地域資源を発掘し、教育現場と結びつけることで自己探究的な学びの機会を創出する役割を担う。津和野町は、全ての教育機関にコーディネーターを据え、学校や行政、そして地域の各所をつなぐ起点として、縦割りを超えた系統的な学ぶ体制を作った(図表2)。

図表6
図表6

現在、保育所から高校まで7名のコーディネーターが配置されている。保育所間と地域の連携を担当する幼児教育担当コーディネーター、保育所と小学校をつなぐ保小連携担当のコーディネーター、小学校・中学校連携を担当する小中魅力化担当のコーディネーター、そして津和野高校を担当する高校魅力化コーディネーターである。コーディネーターは、町行政の担当課(保育所:健康福祉課、小学校・中学校:教育委員会、高校:つわの暮らし推進課)と連携し、地域が総ぐるみで取り組むことの意義を互いに理解しながら活動する。

3. ひとづくり事業の実態

具体的なプログラム実施にあたっては、全体を貫く三つの「育てたい力」として、①「課題を見抜く力」(課題との接点・発見、社会との関わり、知識の関連付け)、 ②「行動する力・創造する力」(体験活動、問題解決演習、失敗できる場の提供、失敗から学ぶ)、③「対話する力」(人との関わり、多様性の受容、合意形成、情報獲得・判断)を据え、コーディネーターを中心に各年代の成長に合わせたプログラムを作成している。本稿では、保育所-小学校、小学校-中学校での取り組みを紹介する。

1). 保小連携

幼児教育では、津和野町に所在する7保育所間の連携の要として保育所領域専門の幼児教育コーディネーターが活動する(注1)。保小連携コーディネーターは、園長会、各保育所の保育参加や各小学校の授業参加・実践や「保小連絡会」(新1年生が通っていた保育所の先生が小学校へ出向き、様子観察や意見交換を行う会)への参加を通じて、保育所と小学校の現状を俯瞰し、保育所と小学校の狙い・目標を見える化し、プランを策定している(写真1)。幼児・児童の連携という面では、保育所の年長児と小学校1・2年生による「合同体育授業」(写真2)や「地域にヒマワリ畑をつくろう」などの幼児・児童が一緒に取り組めるプログラムが行われている。そしてこうした実践の後には、担当の先生方とコーディネーターによる振り返りの場を設け、教員が互いの保育・教育観を共有し、子どもたちへの理解を深めている。直近では、「親の学び事業」を進めており、特に未就学児の子がいる保護者を対象にした、おとなの学びの場づくりについても体制づくりを進めている。

図表7
図表7

写真 1 保小連絡会の様子
津和野町提供
写真 1 保小連絡会の様子
津和野町提供

写真2 保小合同体育授業の様子
津和野町提供
写真2 保小合同体育授業の様子
津和野町提供

2). 小中連携

小中魅力化担当コーディネーターは、津和野町の小学校4校、中学校2校において学校間、地域と学校をつなぎ、学びの機会をつくる。小学校では、地域の人との出会いを通じて課題を知り、それらの課題に対して自分たちの考えを持ち行動することができるようになることを目指し、「総合的な探究の時間」の一環として実施される(写真3)。具体的には、3・4年生は、地域の豊かな「ひと・もの・こと」に五感で触れる体験活動、5・6年生では、津和野町の抱える課題に触れ、自分たちにできることを考え、実践するというものだ。

中学校では「対話する力」の育成を軸として、自分の考えを言葉で表現したり、多様な人とのかかわりを通して視野を広げたりすることを目指している。具体的には、地域住民と1対1で語り合う「ツワトーク」(写真4)や、全国の大学生とオンラインで対話する「トークフォークダンス」(注2)が実施されている。こうした学びをきかっけに学外でも興味や関心を持った課題を「マイプロジェクト」として実施する生徒が増えており、地域の大人との交流を深めながら自発的に取り組んでいる。

図表8
図表8

写真 3 小学校での活動の様子
津和野町提供
写真 3 小学校での活動の様子
津和野町提供

写真 4「ツワトーク」の様子
津和野町提供
写真 4「ツワトーク」の様子
津和野町提供

4. 「学び」を地域の持続的な発展の主軸に

2021年、津和野町は100%出資で教育魅力化と地方創生を推進する「一般財団法人つわの学びみらい」を発足させた。教育を核とするコンソーシアムを構築し、人材育成を軸とした地域内の好循環と町の持続可能性の向上に寄与することを目指すものである。これまで行政が雇用管理していた魅力化コーディネーターや公営塾講師は同法人の正職員として雇用することで、経験を積んだ人材が安定して働き続けられる環境を整えた。行政から独立した民間の組織として地域の様々な産業と連携することで、今後は津和野町で暮らす全ての人々に開かれた学び・成長の機会を提供する環境づくりに取り組む。

子どもの成長や教育効果は、すぐに分かりやすい形で現れるわけではない。時間をかけながら、子どもの「好き」や「楽しい」といった興味を出発点に、環境をつくり伴走する必要がある。こうした時に、コーディネーターの役割が生かされる。コーディネーター自身も、自分たちが設計した取り組みによって児童・生徒の成長を日々目の当たりにできること、そして子どもたちの活躍に地域の人が賛同する瞬間に立ち会い、地域の変化を実感することで役割に意義を見出すのではないだろうか。しかし、コーディネーターは地域おこし協力隊制度を活用して雇用されているために、任期終了後の活動や生活の見通しが立たなければ、たとえ経験を積んでいたとしても他の地域へ人材が流出するという課題も孕んでいる。独立した組織になることは、有能な人材が任期にとらわれず挑戦し、津和野町で暮らし続けることができる仕組みを確立しようとする動きともいえる。子どもたちにとっても、日常的に生き生きと働く大人を目にしていれば、生まれ育った地域で働き暮らすロールモデルとなるはずだ。そして、町内で人の動きが活発化すれば、域外の人にとっても魅力的な地域となり、新たな人材を引き寄せる循環が生まれる。

以上、前稿・本稿で紹介した津和野町の事例は、学校(教員と子ども)、地域と連携・協働するコーディネーターの存在や町外から留学する子どもの存在が、「地域社会に開かれた教育」のもたらす効果を端的に示しているといえるだろう。他方で、高校魅力化事業に取り組む自治体やコーディネーターの数は年々増加している。今後は、より「選ばれる」「住み続けたい」地域になるための工夫されたコンテンツの開発、そして学生だけでなくコーディネーターを希望する人材にとっての環境づくりも重要な要素となる。

「0歳児からのひとづくり事業」や「一般財団法人つわの学びみらい」立ち上げによって、次のステージに立つ津和野町の「まちの魅力化」という新たなチャレンジが、まちにどのようなインパクトをもたらすか期待したい。

【注釈】

  1. 保小連携の取り組みは、令和4年度の文部科学省「幼保小の架け橋プログラムに関する調査研究事業」として、全国19自治体のモデル地域の1つとして採択されている。
  2. 生徒と地域住民が同数集まり、あるテーマについて生徒と住民が向かい合って話すこと。相手の意見を聞いたり自分の意見を述べたりして、信頼関係を築く。この1対1の対話を繰り返していく。

【参考文献】

  • 稲垣円「『高校』再生は、地方創生の鍵(1)~加速する、高校の「魅力化」「特色化」への動き~」2022年8月
  • 稲垣円「『高校』再生は、地方創生の鍵(2)~高校生に期待するまち(島根県津和野町)~」2022年10月
  • 一般財団法人つわの学びみらいホームページ 「https://tsuwano-mm.org/
  • 津和野町役場ホームページ 「https://www.town.tsuwano.lg.jp/www/index.html
  • 津和野町「0歳児からのひとづくり事業コーディネーター活動報告会」資料2021年2月

稲垣 円


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。