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「Web3.0暗号資産」の衝撃

~あなたの知らないWeb3.0の世界を支える成長エンジン~

柏村 祐

目次

1.「Web3.0暗号資産」の登場

Web3.0とは、インターネットにおける革新的なデータ流通構造を表現する概念である。Web1.0では、ホームページや電子メールといった一方通行のコミュニケーションに止まっていたが、2000年代後半に登場したWeb2.0で、検索・SNS・eコマースといった双方向のコミュニケーションが可能となった。そして、現在進行形で発展を続けるWeb3.0の世界では、プラットフォーマーや金融機関等の仲介者を介さずに個人と個人がつながり、取引を行えるデータ流通構造を実現している。

このWeb3.0のデータ流通構造を支える仕組みとして、「Web3.0暗号資産」が登場している。暗号資産はインターネット上でやりとりできる通貨であり、ドルやユーロなどの法定通貨と相互に交換できる。これらの従来の暗号資産の用途に加えて、Web3.0の考え方に基づいて創られた分散型の動画配信ネットワークや分散型のデータ保管庫の中で利用される暗号資産を「Web3.0暗号資産」と呼ぶ。

2.「Web3.0暗号資産」の概要

現存する「Web3.0暗号資産」を確認すると、2022年6月下旬時点で86種類、時価総額50位以内にランキングされているものが5種類ある(図表1)。

図表 1 時価総額ランキング 50 位以内に位置する「Web3.0 暗号資産」
図表 1 時価総額ランキング 50 位以内に位置する「Web3.0 暗号資産」

例えば、時価総額ランキング40位に位置するTheta Network(以下THETA)は、分散型動画配信ネットワークにおいて利用される「Web3.0暗号資産」である。2018年1月の上場当初は、1THETA 21.7円であったその価値は、2022年6月下旬現在1THETA約178円と上昇し、その時価総額は約1,800億円となっている。

現在主流の動画共有プラットフォームは、配信のためのネットワークやそれに付随する機能が一元化されており、中央集権型の動画配信ネットワークと言える。THETAを発行する運営事業体は、これに対抗するために分散型の動画配信ネットワークを創り出している。分散型動画配信ネットワークに貢献する意思をもつ利用者は、THETAネットワークに参加登録を行い、自分自身が普段使いで利用する通信ネットワークを共有する。そして、各自の通信ネットワークの貢献度合に応じた報酬として、「Web3.0暗号資産」THETAを獲得できる。

2022年6月下旬時点で、THETAネットワークに協力する登録者は12万人を超えており(図表2)、公開されている動画配信内容は、eスポーツ・音楽・テレビ・映画・自分自身の投稿動画と幅広い。

図表 2 THETA ネットワーク利用者の分布
図表 2 THETA ネットワーク利用者の分布

次に、暗号資産時価総額ランキング41位に位置するFilecoin(以下FIL)を確認してみよう。FILは、分散型データ保管庫において利用される「Web3.0暗号資産」である。2022年6月下旬現在1FILは約785円であり、その時価総額は約1,760億円で推移している。

文書、画像、動画等のデータを保管する場合、通常は自分のコンピューターの余剰領域かクラウド上に保管するのが一般的だ。FILの発行事業体が提供する分散型データ保管庫の仕組みは、ある利用者が提供するコンピューターのデータ保管領域に、他の利用者の文書、写真、動画などのデータが保管されるというものである。コンピューター資源を提供した利用者は、「Web3.0暗号資産」であるFILを報酬として受け取ることができる。従来の常識では、自分のコンピューター資源を第三者と共有するという発想はなかったが、コンピューター資源を貸し出せば、その報酬として暗号資産が得られるという仕組みにより、FILの分散型データ保管庫の保管領域は拡大している。2021年1月のデータ保管庫の提供数は856であったが、2022年1月には3,600以上のデータ保管庫が提供されている。また、保管庫の提供数の増加に伴い、データ保管容量は1.69エクスビバイトから14エクスビバイト以上に拡大している(注1)。

Web2.0時代に主流であった中央集権型のデータ保管の価格は運営事業体により決定されるため、その価格水準が適正であるかを利用者が確認するには、定期的に別の運営事業体の価格を調査する必要がある。一方、FILを発行する運営事業体が提供する分散型データ保管庫は、様々な価格帯が用意されているため、利用者の希望に応じてデータ保管場所を柔軟に変更することができる。

3.「Web3.0暗号資産」の可能性

以上みてきたような「Web3.0暗号資産」がもたらす価値とは何だろうか。

筆者は、「Web3.0暗号資産」の価値は「革新的な分散型のデータ流通構造を支える決済機能」であると考える。「Web3.0暗号資産」が利用できるデータ流通構造の場は、本稿で見てきた動画配信ネットワークやデータ保管庫にとどまらない。例えば、検索エンジンにおける検索行為やSNSにおいて投稿した場合にも「Web3.0暗号資産」を獲得できるサービスが登場している。

日常生活において既に多くの人々が行っている検索行為、SNSへの投稿、コンピューターの保管領域やネットワークの共有に着目して創られたWeb3.0の世界で流通する「Web3.0暗号資産」は、分散型のデータ流通構造を支える価値として創造された。ドルやユーロなどの法定通貨やビットコインやイーサリアムといった他の暗号資産とも交換可能な「Web3.0暗号資産」は、今後、Web3.0の中核となる分散型のデータ流通構造の発展に伴い、その利用価値を大きく高めていくことであろう。

ただ現時点で日本では、「Web3.0暗号資産」を取り扱うことができない。Web3.0については、2022年6月7日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2022 について(骨太方針2022)」の中で、「ブロックチェーン技術を基盤とするNFTやDAOの利用等のWeb3.0の推進に向けた環境整備の検討を進める」と明記されている。既に世界で「Web3.0暗号資産」を活用した革新的な分散型データ流通構造が発展を続ける中、日本においてもいち早く「Web3.0暗号資産」を取り扱うことは、日本におけるWeb3.0時代のビジネス育成のための第一歩となるのではないだろうか。


柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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