ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

「地域をおこす」という生き方

~地域おこし協力隊、それぞれの立場で制度を生かしていくために~

稲垣 円

目次

1. 14年目の「地域おこし協力隊」、コロナ後の期待

一定期間移住して地域活性化につながる活動を行う「地域おこし協力隊」への認知は、年々高まってきている。

2009年度に始まった本制度は、スタート当初、隊員数89人、受け入れ自治体数31団体であったが、12年後の2021年(令和3年度)には隊員数は6,015人、受け入れ自治体も1,085団体まで増加した(図表1)。政府は、2024年度(令和6年度)までに隊員数を8,000人に増やす目標を掲げており、これに向けて地域おこし協力隊等の強化を行っている。「関係人口」(「何らかの形でその地域に関わってくれる人」「特定の地域に継続的に多様な形でかかわる人」を指す)の創出という観点からも、一定期間居住して、その地域に深くかかわる地域おこし協力隊の活動は重要視されている。加えて、新型コロナウイルス感染症の影響で、この2年ほど停滞している社会・経済活動の再開や人の往来のきっかけづくりとしての期待もある。

一方、協力隊の派遣対象となる1,457自治体のうち、約17%の自治体が受け入れ実績がないという報告もあり(注1)、制度をうまく活用している地域とそうでない地域との差が出ていることも分かっている。認知度が上がってきたからこそ、応募する側は、公募内容、募集要件、報酬、活動や生活の支援、そしてOB・OGの経験談などの情報を収集しながら各自治体を比較・吟味しているということだろう。自治体の裁量が比較的に認められている制度であるため、自治体が本制度をどのように捉え、応募する側が期待する活動や要件を提示できるのか、という点で、より精査が必要になっている。

図表 1 地域おこし協力隊 隊員数・団体数推移
図表 1 地域おこし協力隊 隊員数・団体数推移

2. 「地域おこし協力隊」制度の整理

地域おこし協力隊制度は、コロナ禍を含めたこの数年の間に、地域おこし協力隊への関心の程度に応じて体験できる段階的な制度や、より専門性の高い人材の獲得を目的にした制度など、多様なバリエーションをもって制度設計されてきた。しかし、現状でも多くのパターンがあり、応募者にとってわかり難い側面もある。改めてこれらの制度を確認していこう(図表2)。

(1) 地域おこし協力隊

まずは、2009年から始まった地域おこし協力隊について説明する。地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に住民票を異動し、生活の拠点を移した者を地方公共団体が「地域おこし協力隊員」として委嘱する。隊員は、一定期間地域に居住して、「地域ブランドや地場産品の開発・販売・㏚等の地域おこしの支援や、農林水産業への従事、住民の生活支援などの地域協力活動」を行いながら、地域への定住・定着を図る(注2)。活動期間は、概ね1年以上3年以下であるが、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、受入自治体が「任期の延長が必要」と認めた場合には、2年を上限として任期の特例を認めることとし、特別交付税措置が取られている(2019年度から2021年度までに任用された隊員を対象)。協力隊の給料は「報償費等」と呼ばれ、2020年度(令和2年度)から増額され、2021年度は470万円、2022年度は480万円となっている(注3)。

(2) 段階的な措置:おためし地域おこし協力隊、地域おこし協力隊インターン

企業に就職または転職した際、理想としていた働き方や職場へのイメージと現実とのギャップからミスマッチが起こるように、地域おこし協力隊の場合も、隊員と受け入れ側(自治体)で双方の姿勢や方向性の「ズレ」は課題である。総務省の調査によれば、委嘱時に想定していた期間よりも早く退任した隊員数が2019年1月~2020年12月31日では合計604名、うち106名が受け入れ地域・受け入れ自治体・隊員の三者のミスマッチが原因と報告されており(注4)、意思疎通がうまくいかなかったがために離職してしまう隊員が一定程度いることが分かっている。こうしたミスマッチを防ぐためにも、協力隊として自治体で活動するイメージを持ったり、自治体との相性を確認したり、自治体もどのような人が興味を持ってきてくれるのか、実際に地域で活動することが出来そうなのかを、事前に知っておくことは有効だ。こうした背景から、「段階的」な措置として2020年度に「おためし地域おこし協力隊」が、翌2021年度には「地域おこし協力隊インターン制度」が始まった。

「おためし地域おこし協力隊」は、住民との交流を含む2泊3日以上の地域協力活動の体験プログラムである。一定期間地域協力活動を体験し、受入地域、受入自治体、地域おこし協力隊希望者をはじめとする地域協力活動に興味のある人の三者のマッチングを図ることを目的とする。

「地域おこし協力隊インターン」は、2週間以上3ヵ月以下の期間で「地域おこし協力隊」の業務に従事できる。おためし協力隊は体験制度であるため、活動や生活をイメージするには短い。より長期の設定とすることで、夏休みなどを利用した学生や社会人等の参加や将来的な隊員数の増加を見込んだ取り組みである。

(3) プロフェッショナル採用:地域プロジェクトマネージャー

そして、即戦力を求めてより専門性の高い人材を雇用する制度として2021年からスタートしたのが「地域プロジェクトマネージャー」である。

先述の通り、地域おこし協力隊は全国に広がりを見せており、その数も右肩上がりだ。一方で、報酬面をみると30代以降の一定程度のキャリアを築いてきた人にとっては、志だけで応募するには難しい側面もあった。地域プロジェクトマネージャーは、地域の関係者(行政、地域、民間等)をつなぎ、関係構築を促し、あらたな事業や既存のプロジェクトを円滑に進めていくための「ブリッジ人材」としての立ち位置や役割が期待される。雇用する場合には、650万円/人を上限に自治体に対して特別交付税措置(1市町村あたり1人を上限)が用意される。

また、地域おこしに携わるということは、その土地のことを把握し、人間関係の構築や実際に地域に関わった経験があるかどうかによって、その人の専門性を十分発揮できるかが左右される。そのため、本制度は協力隊OB・OGが協力隊で培った経験・スキルをより高いレベルで発揮していくための再雇用を想定した制度でもある。 

図表 2 地域おこし協力隊制度
図表 2 地域おこし協力隊制度

3. 企業のノウハウを生かして地域おこしに携わる

企業が専門知識やノウハウを持つ人材を地域へ派遣して、地域の課題解決の事業に従事させることで社会貢献と社員の人材育成・キャリアアップの両方を実現する制度もある。「企業版ふるさと納税(人材派遣型)」(2020年度~)と「地域活性化起業人」(2021年度~)制度だ(図表3)。

(1) 企業版ふるさと納税(人材派遣型)

企業版ふるさと納税はこれまでも行われてきたが、人材派遣型は金銭のみを寄付するのではなく、文字通り「人材を派遣する」ことで税額控除が受けられるという仕組みだ。企業から企業版ふるさと納税に係る寄附があった年度に、当該企業の人材が、寄附活用事業に従事する自治体の職員として任用される場合、または地域活性化事業を行う団体等で寄附活用事業に関与する場合に適用される。

自治体にとっては実質的に人件費の負担なしに人材を受け入れることができ、地方創生に関わるプロジェクト等の充実・強化が期待できる。企業は、派遣した人材の人件費(相当額)を含む寄付により、寄付金の最大約9割に相当する税額控除を受けることができる。また、企業のノウハウの活用による地域貢献や派遣人材の育成の効果も期待できる。派遣される人材にとっては、任期終了後の仕事について心配することなく、企業に籍を置きながら地域で自分の力を試すことができる。

(2) 地域活性化起業人

そして2021年にスタートしたのが「地域活性化起業人」制度である(2020年度までは「地域おこし企業人交流プログラム」という名称で実施されてきたが、2021年度から名称が変更された)。3大都市圏に所在する企業等に勤務する者または、3大都市圏に本社機能を有する3大都市圏外の企業等に勤務する者が対象となる。起業人は、6ヵ月以上3年以内の期間、継続して自治体に派遣され、地域活性化に向けた幅広い活動に従事する。制度そのものは2014年度から行われており、受け入れ自治体と派遣人数は着実に増加している(2014年度:受け入れ自治体17、派遣人数22人→2021年度:受け入れ自治体148、派遣人数395人)。企業版ふるさと納税と同様、企業にとっては社員の人材育成と共に企業のノウハウの活用による地域貢献が期待できる。また、経験豊富なシニア人材への新たなライフステージの提供としても期待されている。

図表 3 企業から地方公共団体への人材派遣制度
図表 3 企業から地方公共団体への人材派遣制度

4. さまざまな施策の意味すること

これまで概観したように、地域おこしに携わりたい個人や専門性を持つ人材への間口は広がり、充実が図られてきた。それは、13年の間で見ず知らずの土地に飛び込んだ人材が、どのように地域住民との関係を築き、力を発揮することができるのか、その人なり、地域なりの成果を上げることができるのか、そのためにどのような支援が必要なのか、全国各地で試行錯誤が繰り返されてきた成果とも言える。

他方、先述の通り、ミスマッチが原因となり任期途中で退任する隊員も未だ少なくない。地域おこし協力隊員は、報酬面からみれば決して余裕のある生活ができるわけではない。移住施策という面で見るのであれば、任期の3年間をあくまで「その次の新しい生活のための準備をする」(起業を目指してスキルを身に付ける、新規事業を企画して実証してみる、地域にネットワークを構築する、自分に合った仕事を見つける等)期間と位置づけ、制度を活用していく視点が必要であろう。受け入れる地域側も、自治体が求める隊員像を明確にし、どのような3年間を過ごすのか隊員自身が具体的なイメージを持って応募/活動を始められるよう、事前にすり合わせをすることが欠かせない(注5・6)。

企業人材を派遣する場合も、あくまで企業のノウハウを活用して地域の魅力を高めたり、課題解決に努めたりすることが主題である。そうした中で、自社のノウハウが生きる事業をいかに生み出し、地域のニーズに応えられるか、行政や地域の多様な人びとと共に動き、生み出すことのできる人材(そうした力を身に付けたい人材)が求められるだろう(注7)。民間企業と行政組織とでは、得意とする領域、担う役割は異なる。その土地に暮らし、人びとと関わりながら双方の視点を持って活動できる人材が期待されている。

今後は、多様なバリエーションで展開されているこれらの制度が、定住や関係人口という側面だけでなく、当該地域にとって社会的・経済的にどのような具体的効果を生み出し、それが持続的かどうかという点も踏まえて成果を示していくことが、本制度の地域活性化に対する本質的な評価につながるのではないだろうか。それは同時に「地域をおこす」生き方に少しでも関心のある人に対して、間口をより広げていくことにつながるはずだ。

【注釈】
1)例えば、読売新聞「『地域おこし協力隊』人気自治体に応募集中、対象17%が受け入れゼロ」(2022年4月19日掲載)。こうした結果を受けて、政府も地域おこし協力隊の推進に要する経費として「募集者数・魅力ある募集案件の増加に向けた自治体支援」を掲げている。
2)活動は主に「ミッション型」「フリーミッション型」に分けられる。「ミッション型」は、自治体が取り組んでほしい業務が用意されている。「フリーミッション型」は、明確な事業はないが、地域が掲げる方針(ビジョン)に沿った事業を隊員が立ち上げて実践する。
3)この背景には、会計年度任用職員の制度が始まったことがある。自治体で働く非常勤職員は、フルタイムに近い仕事をしても正規職員に比べ待遇に違いがあった。こうした待遇改善の一環として、広く公務員と見た際に不公平を是正するために、地域おこし協力隊も期末手当を踏まえた金額が国の地方特別交付税に盛り込まれている。
4)総務省 地域力創造グループ 地域自立応援課「地域おこし協力隊の受け入れに関する手引き(第4版)Ⅰ地域おこし協力隊の受入れに当たっての留意点、7. 『おためし地域おこし協力隊』について」2020年8月
5)例えば、「Withコロナの地域ブランディング(1)」で紹介した花巻市のように、オンラインサロンという場で地域住民と議論する機会があると、協力隊になった際にも地域住民と関係が構築されている状態でスムースに活動を始めることができる。
6)冒頭で述べたように、自治体の裁量が比較的に認められている制度であるため、活動費の利用範囲も自治体ごとに異なる。協力隊が必ずしもこの予算が利用できることや利用範囲を知って応募するわけではないため、こうした点のすれ違いも未然に防ぐ必要がある。
7)地域活性化起業人の場合、実質的に民間企業は人件費を負担する必要がない制度だが、あくまで地域のニーズを汲み取り、新たな事業を創出する人材が必要であり、単なる雇用維持の制度ではない点を踏まえて活用する必要があろう。

【参考資料】

稲垣 円


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

稲垣 円

いながき みつ

ライフデザイン研究部 客員研究員
専⾨分野: コミュニティ、住民自治、ソーシャルキャピタル、地域医療

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