ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

診療科枠を超える総合診療の専門性に注目

~診療科別専門医療への橋渡し機能も~

後藤 博

目次

2018年4月より開始された新専門医制度により、専門医の基本領域に「総合診療」が追加された。2021年秋には総合診療専門医が誕生し、徐々に増えつつある。背景には、高齢化による複数疾患罹患者の増加への対応、自然災害や感染症拡大時における医療提供体制の確保がある。現代の医療は専門分化・高度化しているが、上記のような背景もあって総合診療の必要性が高まっている。

1. 総合診療専門医」の位置づけと役割

まず、総合診療専門医の位置づけと、その役割(専門性)について確認する。

総合診療専門医の位置づけについては、2013年4月の厚生労働省「専門医の在り方に関する検討会」報告書において、総合的な診療能力を持つ医師の必要性が明示され、それを新たな専門医の仕組みに位置付けることが妥当とされた(図表1)。

図表 1 総合的な診療能力を持つ医師の必要性
図表 1 総合的な診療能力を持つ医師の必要性

新たな専門医制度は、19の基本領域とサブスペシャルリティ(専門)23領域の2階建ての制度になっている(図表2)。基本領域とは専門医資格の基本となる専門領域であり、全ての医師が基本領域の専門医資格を取得することが基本となっている。専門医資格を取得するには、研修医を経て基本領域の「専攻医」として3年間以上の研修プログラム(注1)を受講しなければならない。

サブスペシャルティ領域とは、必須ではないが基本領域の専門医資格を取得した医師が目指すことができる、より専門的な資格(サブスペシャルティ)の領域である(注2、注3)。

図表 2 新たな専門医制度の基本設計
図表 2 新たな専門医制度の基本設計

2.「総合診療専門医」の養成に注力

学部教育(6年)を経て国家試験に合格した医師は2年の初期研修を終え、その後専門医資格の取得を目指して専攻医となるが、「総合診療」を目指す専攻医はそれほど増えていない。当該専攻医は専攻医全体の約2%程度で推移している(注4)。制度の不透明さやキャリア形成への不安が原因とみられている。

そこで厚生労働省は、総合診療医を増やすために、2020年度より「総合的な診断能力を持つ医師養成の推進事業」をスタートした。地域枠の入試制度を採用している地域の大学に総合診療医を養成する「総合診療医センター」を設置し、一貫した教育とキャリア形成の支援を行っている。医学部卒業後、総合診療専門医の研修プログラムを受講することを条件にした入学者割合を地域枠全体の半数以上にすることを目指す仕組みとなっている。

専門診療科は医学部卒業後に選択できるが、予め「総合診療医」を志望する学部生を入試前から確保し、地元で活躍できるよう十分な支援と養成をしていく仕組みであり、「総合診療」へのこれまでにない力のはいりようがうかがえる。

3.「総合診療専門医」普及への期待

総合診療の普及は、生活者が必要な時に適切な医療を受けやすくなるための生活基盤になる可能性を秘めている。生活者としては、身近な地域において総合診療専門医の機能発揮と総合診療の普及に注視していきたい。

総合診療専門医の育成プログラムは開始したばかりで専門医は少ないが、新専門医制度以前の専門医等の活躍によっても総合診療を受けられる場は広がっている。大学など病院に総合診療部門の設置が進展し、救急医療部門でも総合診療の導入が進んでいる。また、地域医療においても中小病院や診療所でも機関連携の中で総合診療の提供がなされている。一方、都会においては、駅構内に総合診療を提供する診療所の開設も見受けられるようになった。

総合診療専門医は総合診療の専門性を高めるとともに、中小病院や診療所、保健所や行政機関を含む地域医療連携を通じて総合診療の普及と底上げを図る役割を担っている。ただ現状では、総合診療専門医の情報やアクセス体制については整備が進められているところである。

これまで、都道府県などで別々に運営されていた医療機関の検索システムも2024年4月からは、全国共通の厚労省「医療情報サイト」になり、病院等を検索し、総合診療専門医の在籍数などの把握ができるようになるという(図表3)。

総合診療に関して「専門医」と「認定施設」については、日本プライマリ・ケア連合学会、日本病院総合診療学会の各HPにおいて検索可能となっている(図表4、図表5)。

図表 3 システム構築に向けた工程表
図表 3 システム構築に向けた工程表

図表 4 専門医一覧 検索
図表 4 専門医一覧 検索

図表 5 認定施設一覧
図表 5 認定施設一覧

長寿化が進む中で総合診療は、高齢者に対する外来診療・訪問診療・看取りへの対応も期待されており、総合診療専門医の役割は重要性を増すと見込まれる。ただ、新たに養成できる医師全体の数も限られ、他の診療科を志望する医師もいる中で、総合診療専門医についてはニーズに応じた十分な陣容が確保され、地域へどれだけ配備されるかは未知数だ。しかし、これからの配備と環境整備は、医療・介護の必要度が高まる人にとっては、安心した持続的な暮らしに関わってくる。

複数疾患を持つ人の増加、自然災害や感染症拡大による医療逼迫の緩和、基礎疾患保有者の重症化防止など総合診療へのニーズは高まっている。総合診療専門医のさらなる拡充と当該医へのアクセスの利便性向上が求められている。


【注釈】

1)日本専門医機構が中立的な第三者機関として認定を行っているプログラム。これまでは、各学会が独自にカリキュラムを策定し、認定専門医を運用していたが認定基準に統一性を持たせ、専門医の質を担保するようにした。
2)総合診療専門医のサブスペシャルティは「新・家庭医専門医」(プライマリケア団体連合会プログラム策定)、日本病院総合診療専門医」(日本病院総合医療学会プログラム策定)がある。
3)日本専門医機構「日本専門医制度概報」(2022.3)
4)日本専門医機構ホームページ 年度採用状況 https://jmsb.or.jp/senkoi/

【参考文献】

  • 厚生労働省「専門医の在り方に関する検討会」報告書(2013.4)
  • 厚生労働省「第1回医療政策研修会」(200.10)
  • 第17回医療情報の提供内容のあり方に関する検討会(2021,6)

後藤 博


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

後藤 博

ごとう ひろし

ライフデザイン研究部 シニア研究員
専⾨分野: 保健・介護福祉、障害者アドボカシー

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ