ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

「かかりつけ薬局」の機能に目を向けよう

~将来を見据えた健康増進対策に備えて~

後藤 博

目次

はじめに

長寿化に伴って、複数の病気に罹患し薬の飲み合わせが増える、いわゆる「多剤服用」のケースが増えている。医薬品の効果を享受しつつ健康を可能な限り維持していくためにも、かかりつけの薬局や薬剤師の重要性は今後さらに増すと考えられる。本稿では、いわゆる「かかりつけ薬局」の機能・期待される役割を踏まえ、日常生活での薬局の活用について考察する。

1. かかりつけ薬局が推奨される背景

「かかりつけ薬局」という言葉を耳にする機会が増えた。その背景には、かかりつけ医の確保と同様に、国民の健康増進を進めて医療費の抑制を図ろうという政府の後押し(注1)がある。しかしながら、自分の「かかりつけ薬局」を決めて、活用している人は今のところ多くない。

日常生活で薬を購入するケースは、大きく分けて二通りある。一つは傷病を患い医療機関で薬を処方された時、もう一つは自身の判断で市販薬を求める時である。

過度の服用、アレルギーなどを起こす不適切な飲み合わせは健康被害につながる可能性がある。特に高齢になると、いくつかの病気を抱え、服用する薬の種類が増えたり、複数の医療機関から重複した処方を受ける傾向にある。実際に医療機関で定期的に処方してもらう薬がある人を対象に、一日に服用する薬についてみると、80歳以上の7割超が6種類以上の薬を服用していることが明らかになった(注2)。一般的に6種類以上の薬の服用は、薬物有害事象(副作用)のリスクが高まるとされている(注3)。こうした健康被害を避けるためにも、薬の専門家、薬剤師や登録販売者(注4)の助言は有用となる。

薬の使用について正しい判断を仰ぐには、日常の服薬状況、副作用などの情報が不可欠であり、それを一元的かつ継続的に管理していくことが望ましい。また、多種の薬を一度に服用しにくい、飲み忘れる、湿布など外用薬を使いきれないことなどで生じる残薬の問題も重視されるようになってきた。これは本人の健康問題だけでなく、社会全体の医療費の問題としても重視されている。

こうした問題を改善するため、かかりつけの薬局・薬剤師をもつことが推奨されている。

2. 強化される薬局の新たな機能 ~患者のための薬局ビジョンに沿って~

近年、健康サポート、かかりつけ機能、医療機関連携といった新たな機能を備えた薬局が広がりつつある。高齢社会の進展、医療ニーズへの対応、医療的社会資源のあり方も視野に入れた中長期観点から薬の供給と情報発信の体制が変化し続けており、この方向は厚生労働省が公表した「患者のための薬局ビジョン」2015.10(以下「薬局ビジョン」)で明らかにされている。このビジョンは、患者本位の医薬分業に向けて、かかりつけ薬局・薬剤師の今後の姿を明らかにしている。また、団塊の世代が後期高齢者になる2025年、さらに2035年に向けて、既存の薬局をかかりつけ薬局に再編する道筋を提示している(図表1)。

図表 1 患者のための薬局ビジョン
図表 1 患者のための薬局ビジョン

本ビジョンの策定の背景には、医療機関の周辺に門前薬局が乱立し、患者は受診した医療機関の近くの薬局で調剤を受ける傾向があり、患者の服薬情報の一元管理が進まず、患者本位の医薬分業になっていないという実態がある。

本ビジョンで注目すべきは、2025年までにすべての薬局がかかりつけ機能を備えるよう目指している点だ。このビジョンの基本的な考え方は、「立地から機能へ」、「対物業務から対人業務へ」「バラバラから一つへ」の3点となっている(図表2)。

図表 2 「患者のための薬局ビジョン」の基本的考え
図表 2 「患者のための薬局ビジョン」の基本的考え

3. 新たな機能を持つ薬局とは

本ビジョンに基づいて、かかりつけ機能など新たな機能を備えた薬局の整備が進んでいる。2016年10月から健康サポート薬局の公表制度が、2021年8月から特定の機能をもつ地域連携薬局と専門医療機関連携薬局の認定制度が開始された(図表3)。

図表 3 新たな機能を持つ薬局
図表 3 新たな機能を持つ薬局

それぞれの薬局の具体的なイメージを表したものが、図表4~5となる。

健康サポート薬局については、基本的機能と健康サポート機能をもつことがイメージされている(図表4)。

健康サポート薬局の支援概要(図表3)にある「積極的な支援」とは、患者・利用者に対する服薬の助言だけでなく、相談対応、適切な医療機関の紹介の他、他の薬局への支援など幅広いものになっている。具体的には、患者・利用者に対して「医薬品や健康食品等の安全かつ適正な使用に関して助言する」「地域住民の身近な存在として健康の維持・増進に関する相談を幅広く受け付け、適切な専門職種や関係機関に紹介する」、さらに「率先して地域住民の健康サポートを実施し、地域の薬局への情報発信、取組支援も実施する」となっている(注5)。

図表 4 健康サポート薬局のイメージ
図表 4 健康サポート薬局のイメージ

図表 5 認定薬局のイメージ
図表 5 認定薬局のイメージ

地域連携薬局については、薬の処方に関する複数の医療機関と連携しつつ、必要に応じて在宅訪問にも対応することとなっている。健康サポート薬局はいつでも気軽に立ち寄って、幅広く健康をサポートしてもらえることが特徴だが、地域連携薬局は、地域の医師等との連携の下、利用者の服薬情報等の情報共有を行いながら、薬の管理・服薬指導を行う。そのうえで、地域の他の薬局に対する医薬品の提供、情報発信や研修等を通じて、他の薬局の業務を支える取組も行う。さらに介護関係施設とも連携することで、総合的なケアの案内を受けられるといったこれまでにない特徴をもつ。

専門医療機関連携薬局は、一般の薬局では対応できない調剤を行う。また、がんや難病の治療薬と併用する他の薬との相互作用など、特段の注意を要する高度な薬学的管理に対応するために専門医療機関と連携する。さらに、他の薬局に対する専門性の高い情報発信や研修を通じて専門的な薬学管理への支援を行うなど、地域全体への薬物療法の提供体制に寄与する。

なお、いずれの薬局も法令で規定する一定の要件を満たし知事の認定を受ければ、当該薬局を名乗ることができる。

4. 薬局のかかりつけ機能は順調に普及するか

それでは、かかりつけ機能を備える薬局数はどのようになっているのだろうか。現状では、図表6のとおり保険薬局の施設数自体は増えている。

図表 6 保険薬局施設数の推移
図表 6 保険薬局施設数の推移

保険薬局とは、公的医療保険の適用を受ける調剤薬局であり、「保険薬局」の表示が義務づけられている。薬局も様々であり、一般のドラッグストアなどでは必ずしも薬剤師が配置されているとは限らない。さらに、新たな機能をもつ3つの薬局は保険薬局の一部に留まっており、専門的な指導ができる「かかりつけ機能」の役割を果たせる薬局は限られる。ただ、健康サポ―ト薬局は、開始初期の523施設(2017年9月末)から、2021年9月末には2,724施設にまで拡大しており、地域連携薬局も2021年12月末現在で1,509施設、専門医療機関連携薬局は79施設となっている。

新たな機能を備えた薬局の普及に問題がないわけではない。内閣府「薬局の利用に関する世論調査」(2021年2月)によると、健康サポート薬局を「知らなかった」と回答した患者・利用者は91.4%を占めた。新たな機能を備えた薬局は利用者の認知が全く進んでいないのが実情だ。

また、利用者からすれば、利用する薬局が一カ所に限定されるのが不便という問題がある一方で、薬局には、薬剤師の人員不足で24時間対応などの在宅医療に十分対応できないという問題がある。行政としても、薬局にかかりつけ機能の動機付けを行い、設置をどう推進していくのかが課題であり、新たな機能を備えた薬局の普及にはこれらの解決が求められるだろう。

5. おわりに ~かかりつけ薬局の活用を意識する~

薬局・薬剤師は地域包括ケアの一員としての役割も大きい。新たな機能を備えた薬局は、住み慣れた地域で安心して薬を入手できる環境を整備することを目的に設置が進められている。入院・通院・在宅を通じて安全かつ円滑に薬を継続使用するためには、医療連携による調剤と指導が不可欠だ。薬剤師が専門性を発揮して、利用者の服薬情報を一元的・継続的に把握し、薬学的管理・指導を実施することで、多剤・重複投薬の防止や残薬解消などが期待される。これは、薬剤使用の安全性・有効性向上に加えて、医療費の適正化にもつながる。

利用者にとっては、薬に留まらない健康に関する幅広い情報を得る場となり、それらの情報に関する助言を得る手段にもなる。適切な医療支援を得るための仲介機能も期待できる。さらに、ショッピングモールや量販店など生活店舗に設置されれば、高齢者等の通いの場にもなりうる。

医療提供の場が在宅に移行する傾向にある中で、薬剤も在宅で提供される場面が増えるだろう。長寿化を見据え生活の質を維持・向上していくためにも、薬への理解を深める手段を持ち合わせておくことが望ましい。新たな機能を持つ薬局は、都道府県のホームページなどで検索できるようになっている。生活圏にある「かかりつけ薬局」の活用を考えてみてはどうだろうか。


【注釈】
1)内閣府「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2015」で、かかりつけ薬局の推進のため、薬局全体の改革について検討するとともに、薬剤師による効果的な投薬・残薬管理や医師との連携による地域包括ケアへの参画を目指す」とした。2015年以降の骨太の方針でも一貫して、その取組推進が盛り込まれている。
2)2016(平成28)年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査(平成29年度調査)『医薬品の 適正使用のための残薬、重複・多剤投薬の実態調査並びにかかりつけ薬剤師・薬局の評価を含む調剤報酬改定の影響及び実施状況調査報告書』(2019.)
3)『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』日本老年医学会、日本医療研究開発機構研究 費・高齢者の薬物治療の安全性に関する研究 研究班(2015.12)
4)2006年の薬事法改正によって設けられた資格、「登録販売者」。それまで、一般用医薬品の の販売には、薬剤師が必須であり、薬剤師の不足により薬剤の購入者に十分な情報が伝達されない実態を受け、登録販売者は、購入者に適切な薬を助言することや薬の成分や効能をわ かりやすく説明し、副作用など注意すべき情報を伝える役割を担っている。薬剤師と比べ①処方箋に基づく薬の調剤ができない②第一類医薬品が販売できないといった違いがある。
5)厚生労働省「第3回 厚生科学審議会 医薬品医療機器制度部会」(2017.11)

【参考文献】

  • 厚生労働省「健康サポート薬局のあり方について」(2015.9)
  • 厚生労働省「患者のための薬局ビジョン」(2015.10)
  • 内閣府「薬局の利用に関する世論調査」(2021.2)
  • 厚生労働省「かかりつけ薬剤師・薬局推進指導者協議会」(2019.2)
  • 厚生労働省[第3回 厚生科学審議会 医薬品医療機器制度部会」(2017.11)
  • 厚生労働省「第1回薬局薬剤師業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ資料(2022.2)

後藤 博


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

後藤 博

ごとう ひろし

ライフデザイン研究部 シニア研究員
専⾨分野: 保健・介護福祉、障害者アドボカシー

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