暮らしの視点(19):変わりゆく「子どもをもつこと」への意識

~「自然なこと」と考える人は少数派へ~

北村 安樹子

目次

1.家族形成をめぐる意識の変化

別稿(「暮らしの視点(13) 独身男女の恋愛・結婚観~男女がともに重視する「相手からのアプローチ」~」)では、結婚(同棲)や恋愛をめぐる考え方に関し、若い世代の間で、結婚(同棲)や恋愛は必ずしも必要ではないという意識が広がっていることについて述べた。

国立社会保障・人口問題研究所が行っている「出生動向基本調査」によると、日本の若い独身男女では自身の将来の結婚の意思について「いずれは結婚するつもり」とする人が9割弱で推移するなど、その多くが結婚の希望をもつとされる(注1)。一方で、内閣府が行った別の調査では、日本の独身者には人生における結婚(同棲)や恋人の必要性に対する考え方について、「結婚・同棲・恋人はいずれも、必ずしも必要ではない」(男性 45.4%、女性 53.1%)とした人が最も多く、「結婚は必ずするべきだ」「結婚はした方がよい」の合計割合(男性 40.8%、女性 31.1%)を上回っている(注2)。これらの結果をふまえると、日本の若い独身者には結婚の意向をもつ人が多いものの、人生における結婚の必要性をめぐる価値観としては、結婚した方がよいとする人を必ずしも必要ではないと考える人が上回っているということになる。

結婚に対する価値観が多様化するなかで、子どもをもつことに対する若い世代の意識にも、様々な変化がみられる。本稿では内閣府が行った上記調査における20~40代男女の「自分の子どもをもつこと」への意識に関するデータから、家族形成をめぐるライフデザインの捉え方の変化について考えてみたい。

2.「自分の子どもをもつこと」への考え方

内閣府では20~40代の男女を対象に、結婚や家族・世帯形成にかかわる意識をたずねる調査を行っている。このなかには「自分の子どもをもつこと」に対する意識をたずねる項目がある(注3)。

結果をみると、直近の調査で最も多くあげられているのは「子どもがいると生活が楽しく豊かになる」という回答で、約6割がこの考え方を支持している(図表1)。また、「子どもをもつことは自然なことである」(43.8%)、「好きな人の子どもをもちたいから、子どもをもつ」(30.8%)といった考え方も上位にあげられている。

一方、「経済的な負担が増える」(24.6%)、「自分の自由な時間が制約される」(13.3%)など、子どもがいない生活と比べた場合の、お金や時間の使い方にかかわる考え方をあげる人も一定の割合を占める。このほか「自分の子孫を残すことができる」(15.6%)、「子どもは将来の社会の担い手となる」(12.1%)、「子どもは夫婦関係を安定させる」(10.3%)といった伝統的な考え方も、1~2割弱の人があげている。

これらのうち、ライフデザインの観点からみて最も注目されるのは、「子どもをもつことは自然なことである」とする人が大幅に減少していることだろう。2005年にはこのような考え方を回答者の7割弱が支持していたが、直近の調査結果では20ポイント以上も減少して4割強と、少数派になった。

図表 1
図表 1

3.20~40代女性の約6割が「子どもをもつ・もたない」をライフプランとして意識

このような変化には、2つの見方ができるのではないか。1つは、自分の子どもをもつことを自然なことと捉えるのではなく、子どもをもたない生き方を含めて、多様な生き方のなかの1つの形と捉える人が増えたという見方である。様々な理由から自分の子どもをもたない人生を選択する人、子どもを授かることが難しい人、血縁関係のない子どもの親として生きる人など、人生には自分の子どもをもつ生き方以外にも多様な生き方がある。様々な生き方への理解が広がっていることも、「子どもをもつことは自然なことである」と考える人が減少していることに関連していると思われる(注4)。

もう1つは、子どもをもつことは、自然なことではなく、意識的に検討するものだと考える人が増えているという見方である。出産してからも働き続ける女性が増えるなか、子どもをもつこと、そのタイミング、人数等について、計画的に考えようとする人、考えてみたことのある人も多いのだろう。実際、「将来、自分が子どもをもつのかもたないのか」といった観点からの人生設計(ライフプラン)について、考えたことがあるとする人は男性で約半数、女性では子どもの有無にかかわらず約6割を占める(図表2)。

「子どもをもつことは自然なこと」と考える人が減少してきたことは、自分の子どもをもつことが多くの人に共通する経験ではなくなり、様々な要素を考慮して計画的に家族形成を図りたいと考える人が増えていることにかかわる現象といえるのではないだろうか。

図表 2
図表 2


【注釈】

1)ただし、「一生するつもりはない」と答える割合の微増傾向も確認される。

2)設問文は「人生における結婚や同棲の必要性に対する以下のような考え方のうち、あなたの意見にもっとも近いものを1つだけ選んでください」。選択肢には他に「結婚はしなくてもよいが、同棲はした方がよい」「結婚・同棲はしなくてもよいが、恋人はいた方がよい」がある。

3)子どものいる人には、子どもをもつ前の考えについて聴取している(設問文は図表1の注を参照)。

4)設問では「自分の子どもをもつこと」について、子どもとの血縁関係との関連性にはふれていない。

【関連レポート】

1)北村安樹子「暮らしの視点(16) (続)独身男女の恋愛・結婚観 ~他国を上回る「相手からのアプローチ」重視の姿勢と恋愛への躊躇 ~」2021年11月。

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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