障害者の新たな活力を引き出すピアサポート

~持続的な活力向上のヒントに~

後藤 博

目次

1. 専門性が評価された障害者ピアサポート

2021年4月から、障害福祉サービス等の報酬が改定され、ピアサポートの専門性を評価したうえで報酬のポイントを算定することとなった。厚生労働省では、ピアサポートを「自ら障害や疾病の経験を持ち、その経験を生かしながら、他の障害や疾病のある障害者のための支援を行うもの」と定義している。ピアサポートの「ピア(英語:peer)」には仲間・同輩・対等者などの意味があり、ピアサポートは仲間・同輩同士の相互支援を意味している。

今回報酬制度上で加算されるようなったサービスは、地域移行支援や地域定着支援などの支援サービスだ(注1)。この加算について、厚生労働省は、調査結果(注2)を踏まえ障害者同士の支援について、「利用者と同じ目線で相談・助言等を行うことで、利用者本人の自立に向けた意欲向上、地域生活を続ける上での不安解消などに効果が高いと考えられる」(注3)としている。また厚生労働省は、図表1のとおり、ピアサポーターによる支援の効果を「他の職員の病気や障害の理解」などに分類して示している。

いずれも頷ける視点であるが、最大のポイントは「体験の共感・共有と適切なニーズ把握」にあると筆者は考えている。専門職や上司による支援では得難い安心感や自己肯定感が得られるからである。

新設されたピアサポート体制加算の概要は次の通りである。相談支援などを行う事業所で、被雇用障害者と協働者による支援が行われると、その支援の利用者数に応じて加算算定される。具体的には、所定の「障害者ピアサポート研修(基礎研修と専門研修)」を修了した人を雇用し、対象のピアサポートを実施した場合に、当該支援を受けた利用者の数に応じ、各月単位で所定のポイントを加算し、事業所を評価する(注4)。

また加算には、対象となる支援や所定の人員配置、施設運営などの要件がある。その支援は、計画相談支援・障害児相談支援・自立生活援助・地域移行支援・地域定着支援に限られ、所定の人員は所定の研修を修了した被雇用の障害者と施設管理者やその障害者と協働して支援を行う人も含まれる。その他に、所定の研修を修了した被雇用障害者や協働して支援を行う人が事業所の従業員に対し、障害者に対する配慮等に関する研修を年1回以上行っていること、および所定の研修を終了した支援提供者を事業所に配置していることを公表していることが要件となる。

障害者の相談支援事業所等では、被雇用障害者と施設管理者・スタッフに研修を通じ知識を習得させ、ピアの力を活用して利用者との意思疎通を高め、適切な支援に結びつけることで、そのサービス向上を目指す体制となっている。

2. 進展してきたピアサポートの力

ピアサポートの概念は、第二次世界大戦以降、欧米の社会情勢の影響を受けながらわが国でも広がってきた。2000年以降は、ピアサポート体制奨励金制度の創設、相談支援体制でのピアサポート強化事業などが展開されている。さらに2012年6月に閣議決定された「第二次がん対策推進基本計画」では、「ピアサポート」の充実が明記された。

こうした中で、患者や障害者自身とその家族など当事者によるピアの力を活かした支援は、疾患、身体・知的障害といった障害の種別・支援制度の枠を超えて横断的に拡がった。現在ピアサポートは様々な場面で展開され、ピアサポーターとしての位置づけと活躍する環境の場も整いつつある。たとえば、病院や学校、ひきこもりに対応する施設などでの相互支援、少年院などでの矯正教育の場でも活用されている。特にがんや、難病などの疾患領域では積極的に導入されているようだ。

厚生労働省「障害者相談支援事業の実施状況の調査について」をみると、ピアサポートの進展状況がうかがえる。ピアカウンセリングを実施している市長村の割合は近年37%程度にとどまるものの、ピアサポート体制加算に関係する障害者福祉の相談支援事業所数、相談支援専門員数は増加傾向にある(図表2)。

2012年の「障害者自立支援法」改正により相談支援の充実等が図られ、その一環で2015年3月までに、障害者である全ての障害福祉サービス利用者に「サービス等利用計画」の作成が義務付けられた。これまでも所定の研修を修了したピアサポーターとは限らない障害者や家族もピアカウンセラーとして、ピアサポートを担ってきている。そのような中で、この改正に伴い相談支援の対象が大幅に拡大した時期から相談支援専門員も増加している。

一方、障害者相談事業所において相談を担うピアカウンセラーの人員数は、あまり伸びていない(注5)。障害者のニーズに対応し、適切な障害福祉サービスに結びつけるためには、サービス利用の前提となる同計画の作成においては、障害者・家族(利用者)へのピアサポートが有効と考えられるため、相談窓口へのピアサポーター配置が望まれるところだ。

3. ピアサポートの進展は道半ば

現状ではピアサポートが一般に広く理解され、認知されるのは容易ではない。また、ピアサポートの普及啓発や体制整備について、専門家や各関係団体からの様々な指摘もある。主な課題は、ピアサポーターの知識・能力、活動現場の環境整備である。たとえばピアサポーターの事業所定着については、業務内容が不明確であることで仕事上の葛藤が生じたり、職場で孤立を感じることで退職につながりやすい。ピアサポーターが定着しやすい体制の整備が不可欠である。

そのような中、ピアサポーターの育成体制、活用体制の整備は着実に行われており、研修体制や人材活用のための事業者向けのガイドラインも整備されてきている。厚生労働省は2019年3月にピアサポートの「基礎研修」と「専門研修」のプログラムを策定した(注6)。さらに2020年3月には、それらの研修を総括し、研修を担える人材養成のための「フォローアップ研修」のテキストが策定されたことで、一連の研修体系が整えられた(注7)。

事業者向けのガイドラインについては、2018年のピアサポート人材の活用に関する調査研究をもとに、2019年3月に作成された(注8)。このガイドラインでは、障害者雇用枠でピアサポーターを採用する際の助成金や活用方法を示すとともに、活動事例も紹介している。

今後は、人員、施設などに地域差がみられる中で、それぞれの実情に応じた工夫・取組みが展開されるであろう。取組みの工夫・ノウハウ集積とその共有化から得られたヒントがそれぞれのピアサポート活用に役立つわけであり、課題別・疾患別の事例情報の連携基盤の整備が望まれるところである。

取組みの事例紹介として多いのは、公共・職域の場内におけるピアサポーター自身の「経験」の語りを聴く研修会や当事者同士の茶話会形式の交流である。研修会の参加者は、障害者や病気を抱える人への接し方がわかったという意見や支援される側の視点を学べる良い機会になったという意見が多いという。

ピアサポーターは支援される側の実情と意見を支援側につなぎ、支援側と支援される側のピア意識を醸成しつつ支援効果を上げると同時に、ピアを拡げる一躍を担っている。

4. おわりに~多様性の尊重と調和による活力を~

障害者ピアサポートは、障害者の特性を生かした役割の発見・発揮という側面も持っている。その経験と知恵が、障害を抱えた人と家族や周囲の人がより良く暮らすためのヒントとなりうる。当事者の立場を理解する専門家として、人材不足が見込まれる福祉領域において、貴重な人材となりうるのがピアサポーターなのではないだろうか。体験に基づく利用者の目線でのアドバイスや意見が、今後の需要増が見込まれる福祉サービスの充実に生かされるはずだ。

一人ひとりの立場に対する理解不足が組織や地域社会における誤解や分断を招きかねない。対等の仲間同士による相互支援、すなわちピアサポートには先述の図表1のとおり、エンパワー、再起・回復を促す効果がある。こうした効果は、職場や地域社会でも有効であろう。障害者の新たな活力を引出し持続させるには、安心と信頼によるピアの力を活用・拡大させる余地があるのではないだろうか。


注釈・参考文献はPDFをご参照下さい

後藤 博

後藤 博

ごとう ひろし

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: 社会福祉、保健・介護福祉

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