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- ESGインサイト『「パートナーシップ構築宣言」は 強い経済と社業発展の礎』
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経済3団体は「価格転嫁」を呼びかけている
パートナーシップ構築宣言(以下、「宣言」)とは、事業者が、サプライチェーン全体の付加価値向上、大企業と中小企業の共存共栄を目指し、「発注者」側の立場から、「代表権のある者の名前」で宣言するものである。
2025年春闘に先立ち、2025年1月に経済3団体(経団連、日商、経済同友会)が「社会全体における『価格転嫁の商習慣』の定着に向けて」と題する共同要請を公表した。共同要請では、サプライチェーン全体を強靭化し、付加価値を拡大するためには、日本の強みである大企業と中小企業の共存共栄関係の再構築が不可欠との認識が示され、宣言の趣旨の徹底と実行、未宣言企業への参画を呼びかけた。
価格転嫁を進めるためには、宣言拡大が重要
2025年2月に、内閣府と中小企業庁が宣言に関するフォローアップを行っている。政府資料によると、2025年1月末時点で5.9万社が宣言し、直近1年間で2万社程度増加した(資料1)。2025年3月末では6.3万社となっている。

一方で、同じ政府資料によると大企業の宣言率は22%程度に留まるほか、経団連の資料によると業界団体別の宣言率は約5~100%とバラツキが大きい。また政府は、宣言済と未宣言の企業を比べると、宣言済企業のほうが価格交渉や価格転嫁への対応が良好であると分析し、価格転嫁を更に進める観点で、宣言拡大に向けた取組の継続が重要であるとしている。これらを踏まえると、大企業の未宣言企業の主体的な参画や、関連省庁や業界団体等による未宣言企業への働きかけが期待される。
宣言するメリットは今後拡充される予定
政府は、宣言するインセンティブとなるよう、宣言企業に対する補助金での加点措置や優遇税制等を行ってきている。一例として「賃上げ促進税制」がある。これは、賃上げや人材育成への投資を積極的に行う企業に対し、雇用者給与等支給額の前年度からの増加額の一定割合を、法人税額又は所得税額から控除する税制である。政府はこうしたインセンティブを今後も随時拡充していく方針であり、2025年6月を目途に宣言ポータルサイト上でわかりやすく周知していく予定としている。
宣言の掲載が取りやめとなることがある
企業として、インセンティブは活用したい。しかし、インセンティブの活用ありきで、宣言を形式的に手続きすることや、ましてや宣言にもとる行為をすることは問題である。残念ながら一部の宣言企業は、下請法への抵触により、パートナーシップ構築宣言のポータルサイト上での宣言公表が取りやめとなっている。2020年度1社、2023年度3社、2024年度は7社ある。不適切な取引を行う企業が宣言を継続することは適切ではなく、企業の宣言内容の遵守意識を高めるため、2025年2月に「パートナーシップ構築宣言公表要領」が改正された。具体的には、宣言の掲載取りやめ事由として、従来の「宣言企業が宣言を履行していないとき」に加え、今回「下請法の勧告や独占禁止法の排除措置命令を受けたとき」や「宣誓内容の遵守に疑義がある場合で、業所管省庁からの説明の求めに対し十分な説明を行わないとき」等も追加された。
ところで、宣言企業の社員は、自社が宣言していることを知っているだろうか。約1年前のデータだが、中小企業庁「パートナーシップ構築宣言取組状況アンケート結果概要」(2024年1月)によると、「社内全体に対する宣言の周知(複数回答)」を多くの企業が何らかの方法で実施している一方で、「周知方法を検討中」と答えたのが大企業で13.7%、中小企業で25.8%、「周知していない」が同8.9%、同18.2%あった。宣言が社内で周知されていなければ、宣言の遵守はそもそも期待できない。
「賃上げ促進税制」を例に宣言を考えてみる
賃上げ促進税制を適用するためには、一定規模以上の法人等は「マルチステークホルダー方針」の公表等が必要になる。「マルチステークホルダー方針」とは、賃金の引上げ、教育訓練等の実施、取引先との適切な関係の構築等の方針を記載するものである。方針の中に宣言に関連して「パートナーシップ構築宣言の内容遵守に、引き続き、取り組んでまいります」「なお、パートナーシップ構築宣言のポータルサイトへの掲載が取りやめとなった場合、マルチステークホルダー方針の公表を自主的に取り下げます」と記載する必要がある。つまり、人事部門や経理部門が本税制を活用しようとしても、調達部門が下請法に抵触する等で宣言が取りやめになると、本税制を適用できない。視点を変えて、労使交渉の場を考えてみる。例えば労働組合は、本税制を経営が活用しているか、そもそも宣言しているか、宣言を遵守し誇りを持って働くことのできる職場・会社となっているか等を点検し、必要に応じて経営への提言や経営からの説明を求めることも可能だろう。
宣言の社内での周知徹底は社業発展の礎に
いち早く宣言しパートナーシップ構築に取り組んできている企業も、代表者が交代しているかもしれない。宣言で求められる内容も、2024年11月に「振興基準」の改正を踏まえ、宣言のひな形の改正がなされている。経営トップをはじめ社員全員が宣言に常に意識を向けることは、組織の縦割りや部分最適をなくし、労使関係を含めた社内の一体感の醸成、社員の誇りや働きがいの向上、取引先からの信頼の確保など、社業発展の礎を築くことにもつながろう。
透明でフェアな取引を
公正取引委員会と中小企業庁は、適切な価格転嫁を我が国の新たな商慣習としてサプライチェーン全体で定着させていくための取引環境を整備する観点から、優越的地位の濫用規制の在り方について、下請法を中心に検討することを目的として、2024年7月以降「企業取引研究会」を開催し、同年12月に報告書を取りまとめた。現在、報告書を踏まえた下請法の改正等が進められているが、宣言の趣旨や背景等の理解の一助として、報告書の「おわりに」を抜粋して紹介し、本稿を終えたい(資料2。下線は筆者)。

加藤 大典
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 加藤 大典
かとう だいすけ
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総合調査部 主席研究員
専⾨分野: 環境
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