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ESGインサイト『kWとkWhの違い~「原発○基分」という表記の誤解~』

牧之内 芽衣

目次

はじめに

電力やエネルギーの話題でよく目にする「kW」と「kWh」という単位。これらは一見似ているものの、意味は大きく異なる。この違いを理解することは、電力の仕組みやエネルギー政策を考える上で非常に重要だ。

この二つの単位に関連して、よく「原発○基分」という表現が使われる。再生可能エネルギー(以下、再エネ)に対して用いられるが、簡潔さゆえに誤解を招きがちだ。本稿では、kWとkWhの違いを解説しつつ、「原発○基分」という表現が抱える問題点に迫る。

kWとkWhの違い

まず、kW(キロワット)とkWh(キロワットアワー)の違いを確認する。簡単に言えば、kWは「発電能力」や「消費電力」の大きさを表し、kWhは「エネルギー量」を表す。水道の例に置き換えると、kWは蛇口から出る水の勢い、kWhはその蛇口から出た水を溜めた量に相当する(資料1)。蛇口を全開にして勢いよく水を流し続ければ多くの水(kWh)が溜まる。溜める時間が同じならば、蛇口を少ししか開けなければ溜まる水の量も少なくなる。発電設備が1kWの出力を1時間続けると1kWhの電力が供給される、という関係性がある。

図表
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メガソーラーのような再エネ施設を「原発○基分」と表現するのは、人々に規模感を伝えるために使われることが多い。しかし、この比較には重大な問題がある。それは、設備容量(kW)と実際の発電量(kWh)を混同しかねない点だ。

設備利用率

ここで設備利用率について説明する。設備利用率とは、発電設備がフル稼働していた際の発電量(設備容量)のうち、実際の発電量が何パーセントであるのかを示す。

図表
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原子力発電所の設備利用率は高く、震災前の30年間の平均は70%前後だ(なお、建設中や計画中を除いて33基ある原子力発電所のうち21基が稼働していない影響で、2023年度の国内原子力発電所の平均設備利用率は30%未満に留まる)。米国や韓国、フィンランド等では90%に達する。一方で、太陽光発電の設備利用率は約15~20%、風力発電でも30%程度だ。これは、実際の発電量が自然環境に左右されるためだ。

具体例を挙げると、設備容量が同じ100万kW(いわゆる「原発1基分」)の発電設備があった場合の1日あたりの発電量は次のようになる。

  • 原子力発電(設備利用率70%):

100万kW × 24時間 × 70% = 1680万kWh

  • 太陽光発電(設備利用率15%):

100万kW × 24時間 × 15% = 360万kWh

同じ「設備容量」でも、実際の発電量にはこれほどの差が生まれる。「原発○基分」という表現は設備利用率を考慮せず、実際の発電量や特性を正確に反映していないため、再エネを過大評価する可能性が高い。

在庫を持てない電力の特殊性

電力には「在庫」を持てないという特性がある。これは電力の物理的な性質に由来する。電気は発電された瞬間に送電網を通じて流れ出し、必要な場所で消費される。つまり、生産された電力は即座に消費されなければならず、使わなかった分を保存しておくことは基本的にできない。

例えば、パン屋では多めにパンを焼いて棚に並べておくことで、客が多く来るタイミングに備えることができる。このように、通常の商品には「在庫」を持つ仕組みが存在する。一方、電力はリアルタイムで需要と供給のバランスを取る必要がある。発電所が作った電気は、電線を通じて瞬時に消費者に届けられる仕組みのため、「多めに用意して備えておく」ことが難しい。

再エネで発電した電気を貯めるとすれば、大型の蓄電池(バッテリー)を用意する必要がある。そのコストは2023年度でおよそ7.6万円/kWhである。設備容量100万kW、設備利用率15%の太陽光で1時間発電した発電量(15万kWh)を蓄電可能な設備を導入した場合、単純計算で114億円かかる。

そのため、発電設備は需要が増えるタイミングに合わせて電気を作り、減るタイミングには出力を絞るなど、非常に細かい調整が求められている。

発電方式と設備利用率

在庫を持てないという電気の特性を踏まえ、電力需要に即応するためにどの発電方式が活用されているのだろうか。

太陽光や風力発電は自然条件に左右されるため、発電できる分は全部利用して、調整は他の電源に任せるという運用が一般的だ。それでも設備利用率は低く留まる。

石炭火力は燃料費が安いため、常時運転されることが多い。原子力発電も1年ごとの定期検査以外は全く止めずに動かし続けるのが普通で、前述の設備利用率は高くなる。原子力発電は日本では一年のうち三か月ほどメンテナンスで止める必要はあるものの、需要の少ない時期にメンテナンスを行うことで影響を抑えている。これらはベースロード電源と呼ばれる。

LNGは電力広域的運営推進機関が示した2024年度の電力供給計画では、2033年には設備利用率が34%に下落するとの見通しが示されている。しかし、ジェットエンジンのような原理で動いているため出力の調整がしやすく、再エネの自然変動性を支える調整用の電源として重要な役割を担っている。

設備利用率はどのような使われ方をするのかに大きく依存するため、必ずしも大きい方が優れているというものではない。しかし、他の発電設備ではいつ動かしていつ止めるのかをある程度人間の都合で決められるのに対し、再エネでは自然任せなので、発電量が多すぎるときは捨て、足りないときは他の発電方式で補うといった工夫が求められる。

同じ設備容量でも設備利用率によって発電量は異なる

kWとkWhの違いを正しく理解することは、発電設備や発電方式を把握するための第一歩だ。「原発○基分」という表現は簡便だが、設備利用率の違いは反映されず、再エネの過大評価につながりかねない。

しかし、発電量のコントロールが効かないとはいえ、気候変動の進行や化石燃料資源の枯渇、エネルギー安全保障などの観点から、再エネの利用拡大は不可欠だ。そのため、再エネの特性を理解し、効率的に運用する仕組みを整えることが、これからのエネルギー政策の鍵となりえる。

エネルギー問題は非常に複雑であり、正解が一つに絞れるものではない。再エネか原子力か、という対立を乗り越えて適材適所の発電方式の在り方を議論するためには、一人ひとりが正しい知識を身につけ、日常生活の中でエネルギーについて考えることが重要である。

牧之内 芽衣


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。