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- ここが知りたい『オーバーツーリズム対策の行方』
わが国のオーバーツーリズム対策
政府の観光立国推進閣僚会議は2023年10月、「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を決定した。基本的な考え方は、①観光客の集中による過度な混雑やマナー違反への対応を図るとともに、②都市部への集中を緩和するために、地方部への誘客を推進すること、③地域住民と協働した観光振興を進めるというものである。
このうち、①観光客の集中による過度な混雑への対応では、混雑する路線バスから地下鉄への分散促進、手ぶら観光の実証導入、タクシー不足に対応する緊急措置の導入、実情に応じた入域管理や異なる需要に対応した運賃・料金の柔軟な設定など、短期的に考えられる対応策が概ね出揃っている点は大いに評価できる。また、マナー違反行為の防止・抑制の観点では、違反の防止策としての私有地・文化財等への防犯カメラの設置支援のほか、統一的なピクトグラムの策定、看板やデジタルサイネージ等の設置・多言語での情報提供等、旅マエからの意識啓発や旅ナカの取組も非常に重要となる。
「先駆モデル地域」 26地域
続いて、2024年3月、観光庁は「オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業」の第1次公募を行った。地方公共団体が中心となり、住民を含めた地域の関係者による協議に基づく計画の策定や地域の実情に応じた対策を実施し、「先駆モデル地域」として20地域を採択した。また、同年7月には新たに6地域を採択している(資料1:点線枠は第2次公募)。各地域の関係者による協議の場において具体的な対策に係る計画を策定し、取組を実施するところである。本稿では先駆モデル地域の主な取組として富士山と京都を取り上げる。
富士山では、将棋倒しの危険や登山者の満足度の低下をもたらす登山道の過度な混雑、一気に山頂を目指す弾丸登山や軽装登山、登山道以外への立入り等のマナー違反が喫緊の課題とされている。自然環境保護の取組としては、新たな入山管理制度として、山梨県側では通行ゲートを設置し、登山者数の上限を4,000人/日とする新たな通行規制を2024年の開山日(7/1)より導入し、安全対策等の費用として、通行料2,000円の徴収を開始した。静岡県側では登山計画や山小屋宿泊予約の有無を事前登録するシステムを導入し、ルール・マナーの事前学習を必須化した。マナー違反対策としては、訪日客への周知の強化として、「富士登山オフィシャルサイト」および日本政府観光局(JNTO)のグローバルサイトで、弾丸登山や軽装登山の危険性を訪日客向けに4言語で発信した。
京都では、バスターミナルや、主要観光地へ向かうバス車内の混雑、 大型手荷物の持ち込みによる円滑な運行への支障、無断撮影やごみのポイ捨て等のマナー違反等が課題となっている。公共交通等の混雑緩和対策としては、全国初の「観光特急バス」の運行のほか、輸送力の大きい地下鉄への乗り換え促進等を実施した。マナー違反対策としては、マナー啓発・周知の強化として祇園地区など市内中心部にマナー啓発のための看板・デジタルサイネージを設置した。需要の分散・周遊促進等の対策としては、主要観光スポットの混雑状況・予測をリアルタイムで確認できる京都観光快適度マップをKANSAI MaaSアプリ上に掲載した。

オーバーツーリズム対策の世界的潮流
日本だけでなく、海外の観光地でも早いところでは1990年代から観光客が急増し、過度な混雑や住宅価格の高騰、地元住民との軋轢などが問題となっている。各国で様々なオーバーツーリズム対策が取られており、種々の対策は5つの類型に分けることができる(資料2)。今後、わが国の対策を考える上で参考となろう。
1番目は、入場制限や予約システムの導入による観光客数の管理である。ヴェネツィアでは、2024年4月より、週末など特定の日に、日帰り観光客から5ユーロの入域料を徴収する制度を試験的に導入した。2番目は、新観光ルートの開発や交通インフラの改善である。アムステルダムでは観光客を特定の地域に集中させず、他観光地へ分散させる新たな観光ルートを開発した。3番目は、観光税の導入や料金の段階的設定である。パリやバルセロナでは、観光税を導入し、観光客からの収益を地域のインフラ整備や観光地の保護に活用するほか、シーズンオフに安い料金を設定して観光客を分散させる地域もある。4番目は、環境保護キャンペーンや自然保護区の整備である。一部の観光地では自然保護区を設け、特定のエリアへのアクセスを制限することで環境保護を図っている。5番目は、観光マナーの啓発や行動規制である。ローマでは、歴史的建造物や公共の場所における観光客の行動を規制する法律を制定している。世界のいずれの観光地でも最低限のマナー啓発を徹底的に実施すべきだ。
上記に関連して近年、地域住民向けと比較して内外から来る観光客向けの料金体系を高く設定する「二重価格制」の議論がある。観光客向けの料金を高く設定してオーバーツーリズム対策費用(各種のインフラ整備や観光地の保護など)に充てることは、過度な混雑やマナー違反等による地域住民の生活への悪影響がある現状に鑑みて前向きに議論すべきものと考える。ただその際、需要を冷やさない観光客向け価格水準をどう設定するかなど、「二重価格制」を導入するための十分な議論を尽くす必要があろう。

今泉 典彦
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

