時評『米不足の向こうに見える食料安全保障』

寺本 秀雄

米の品薄感と価格上昇が続き、メディアでの報道も相次いでいる。米の在庫は毎年7-8月の夏場をボトムに新米が本格的に流通し始める9月頃から増加し、11-12月頃をピークに翌春先から減少していく季節性を持っている。農水省のデータでは、2024年6月の全国民間在庫(出荷及び流通段階)は115万トンで前年同期比38%の減少、直近7年間で過去最低水準となっている。これを受け、米の相対取引価格(卸値。全銘柄平均)も6月は15,865円/60kgと2012年以来の高値となっている。在庫水準は近年最低レベルではあるが、農水省の需給見通し推計では、主食用米等年間需要量700万トン前後に対して年間生産量は660万トン前後であり、在庫と合わせ、直ちに需給バランスが崩れる水準でないことが示されている。ただ、近所のスーパーでは、棚に欠品も目立ち、「品薄のため9月一杯までは一家族一袋の購入にご協力を」との掲示がなされている(9月初旬現在)。8月末から新米も流通しだしており、冷夏の影響で深刻な米不足に陥った1993~94年の平成米騒動のような事態につながるものではなさそうだ。なお、米の在庫減少の要因については、様々な分析があるが、底流にある生産調整(いわゆる減反政策は2018年に廃止)に加え、昨年夏の猛暑で23年産米は小粒になり歩留まりが低下、近年のインフレでパンや麺類の値上がりに比べ相対的に米の値上がりが低く消費シフトが発生、旺盛なインバウンド需要による消費の底上げ等が指摘されている。

筆者は今回の米在庫減少を機に改めて日本の食料をめぐる状況を幾つかデータで確認してみた。日本の食料自給率は、最新の2023年度データ(農水省)によればカロリーベースが38%、生産額ベースが61%で、その水準は長期的な低下トレンドにある。因みに米の自給率は99%だが、特に低いのが小麦(17%)、大豆(7%)、飼料(27%)などである。飼料用を含む穀物全体の自給率は30%弱であり、1965年の62%からの低下は著しい(いずれも数値は重量ベース)。サプライチェーンが平時の状態であれば問題は短期的には少ないが、大規模な気候変動や地政学リスク顕在化など事態が一変すれば、日本の状況は脆弱である上に、円安進行やインフレ率の内外格差など、長期的に買い負けしかねないマクロ経済の状況も気になるところである。

こうした自給率や経済安全保障意識の高まりなどの下、食料安全保障の強化などを目的に「食料・農業・農村基本法」の改正法が今年6月に成立している。同法は農政の憲法と言われるもので25年ぶりの改正である。改正法では、基本理念に食料安全保障の確保が新たに加えられた他、農業法人の経営基盤の強化、スマート技術を活用した生産性の向上などが盛り込まれている。日本の現状を踏まえた問題意識のもと法律改正がなされたことは前進であり、今後具体化される基本計画策定に期待したいが、日本の食料安全保障、そのベースにある産業としての農業の課題は依然大きい。

農業は、国内人口減少の下で、多くの産業と同様に世界市場に商品供給していくことで成長戦略を描く必要がある。生産基盤たる農地の減少を食い止め、出来れば増大させ、高齢化と零細化の下にある生産者・労働者を新たに確保して大規模化を図り、デジタル技術も含め生産性をさらに向上させ、世界市場での付加価値提供で持続的競争力を持たせる必要がある。

シーレーン封鎖等で食料輸入がストップした場合、自給率が高くカロリーもある米やイモ類でその間(何か月?)をしのぐことになるが、季節次第では在庫や新物流通までの時間で大きな支障も発生する。安全保障には農業の産業競争力確保が大前提だと感じる。

寺本 秀雄


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