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- 内外経済ウォッチ『欧州~英国の未来はスーナク新首相に託された~』(2022年12月号)
財政規律を重視するスーナク政権が誕生
英国で9月に就任したトラス首相は、財政規律を度外視したエネルギー料金の凍結と大型減税が金融市場の動揺を招き、就任から僅か50日で退陣を余儀なくされた。後を継いだのは、ジョンソン政権で財務相を務めたスーナク氏。非白人・アジア系としては、初の英首相となる。インド系移民の子供として英国に生まれ、金融業界で成功した後、2015年に下院議員に初当選、それから僅か7年、42歳の若さで首相に上り詰めた。
スーナク氏はコロナ危機時の財務相として危機対応をまとめ、一時休業時の給与補償や飲食店・娯楽業者支援など、巨額の財政出動を取り仕切ったが、危機一服後は法人税率や国民保険料率の引き上げを決め、健全な財政運営を目指した。新政権の財務相には、トラス減税の全面撤回を決めたハント氏が留任した。財政規律を重視する政権が誕生したことで、金融市場の不安心理はひとまず後退している。だが、政府の経済財政運営に対する信頼回復、景気悪化や生活費高騰への対応、保守党内の亀裂修復、次の総選挙を見据えた保守党の支持回復など、数々の難題がスーナク首相を待ち構えている。なかでも、財政の穴をどう埋めるか、経済をどう立て直すか、保守党の支持をどう回復するかの3つが喫緊の課題となろう。

英国の政策迷走から日本は何を学ぶ?
トラス減税の撤回を決めた後も、中期的な財政健全化には、300~400億ポンドの財政の穴を埋める必要がある。増税や歳出削減を巡って、政権内で意見の隔たりがあるとみられ、今後の法案審議は紛糾が予想される。英国では物価高騰による家計購買力の目減りや企業収益の圧迫が響き、景気に急ブレーキが掛かっている。前政権の政策迷走が金融市場の動揺を招いたこともあり、スーナク政権は財政規律を重視せざるを得ない。インフレ警戒でイングランド銀行(BOE)も金融引き締めを強化しており、当面は財政・金融政策ともに景気の下支え役を期待することはできない。減税撤回と歳出削減で景気が一段と冷え込み、物価高による生活苦が続けば、不満の矛先は政権に向かう可能性がある。スーナク首相が保守党の支持率を回復するのは容易でない。
日本は英国の経験から何を学ぶことができるか。経常赤字国で国内の貯蓄不足を海外からの資金流入に依存する英国と、国内の余剰資金で政府部門の財政赤字を吸収可能な日本では、政府債務を取り巻く環境が異なる。ただ、日本では少子高齢化で中長期的には経常黒字が縮小する方向にある。少子化対策や構造改革を続けるとともに、財政健全化の取り組みを放棄しないことが重要となる。

田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

