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- 内外経済ウォッチ『欧州~嵐の船出となった英トラス新政権~』(2022年11月号)
新政権の大型減税案に金融市場が動揺
9月に誕生した英国のトラス政権は、物価高騰による国民生活への打撃軽減と経済活性化を目指し、就任早々にエネルギー料金の凍結と大型減税の方針を打ち出したが、財政規律の軽視と受け止められ、金融市場の激しい動揺に見舞われた。ポンドの対ドル為替相場は9月下旬にかけ、1ポンド=1ドルのパリティ(等価)割れ寸前まで下落し、史上最安値を更新した。10年物国債利回りは一時4%を突破し、欧州主要国では債務不安を抱えるギリシャやイタリアに次ぐ水準に上昇した。
インフレ加速を警戒し、昨年12月以来、7会合連続で利上げを行ってきた英イングランド銀行(BOE)は9月下旬、市場の安定に向け、時限的な国債買い入れを開始し、予定していた量的引き締め(保有国債の売却)の開始を延期した。「アクセル」と「ブレーキ」を同時に踏む異例の政策対応で、金融市場の動揺封じ込めと政府の財政運営の方針転換を促した。
大型減税と規制緩和による経済活性化は、トラス政権の目玉政策だ。新政権は当初、大型減税の方針を固辞したが、金融市場の動揺と政治的な圧力の高まりを受け、10月初旬、金持ち優遇との批判が多かった所得税の最高税率の引き下げを撤回した。BOEの市場介入と政府の方針転換を受け、金融市場では英国関連資産が買い戻されている。

減税の部分撤回では信頼回復にはつながらず
撤回した最高税率の引き下げは、総額450億ポンドの減税パッケージのうち、10~20億ポンド程度を占めるに過ぎない。エネルギー料金の凍結による財政負担の増加と相俟って、英国の財政赤字が大幅に悪化する構図は変わらない。BOEによる市場介入も、国債購入が10月14日まで、国債の売却延期が10月末までの時限措置に過ぎない。その間の市場安定と政府の方針転換の時間稼ぎをする所期の目的は達成したが、時限措置終了後の国債需給の再悪化は避けられない。
近く具体策を発表予定の規制緩和による景気浮揚と、11月23日に予定する中期財政計画の発表を通じて、中期的な財政健全化を達成することは難しそうだ。更なる減税方針の撤回が難しいのであれば、将来の歳出削減などで財政資金不足を穴埋めする以外にない。信頼回復には新政権による更なる財政運営の軌道修正が不可欠とみられる。
政権発足直後の政策迷走とUターンにより、トラス政権の政治基盤は弱体化し、政策の信頼性も大きく損なわれてしまった。今回の最高税率引き下げ撤回で党内の不満の声を封じ込められたとは思えない。野党は今後も責任追及の手を緩めないだろう。減税や規制緩和に関連した今後の議会審議が難航し、政府の政策遂行能力が不安視される状況が当面続きそうだ。

田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

