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よく分かる!経済のツボ『電気料金と脱炭素~エネルギー貧困とは~』

牧之内 芽衣

目次

家計を圧迫する光熱費

エネルギー価格の高騰などの影響により、冷暖房や調理、照明など、生活に必要なエネルギーサービスを十分に享受できない状態のことを「エネルギー貧困(Energy Poverty)」といいます。この言葉を定義したユーロ圏を見てみると、2021年半ばからエネルギー価格が高騰しています(資料1)。世界的な原油価格の高騰や、コロナ禍からの回復で欧州での電力需要量が増加したこと、風が弱かったために風力発電量が落ち込んだこと等が要因です。ウクライナ情勢の影響で、さらなる需給のひっ迫が懸念されています。

ユーロ圏消費者物価(エネルギー)の推移
ユーロ圏消費者物価(エネルギー)の推移

日本はエネルギー自給率が11.2%(2021年)しかないため、燃料価格の上昇と無関係ではいられません。光熱費は世帯年収が低いほど支出シェアが高くなるという逆進性があり、低所得層ほどその影響を受けて「エネルギー貧困」に陥りやすくなります(資料2)。

日本の世帯年収別に見た世帯収入に占める 光熱費の負担割合(2021年時点)
日本の世帯年収別に見た世帯収入に占める 光熱費の負担割合(2021年時点)

電気料金上昇の可能性

日本の発電コストは2020年時点で13円/kWh程度ですが、発電量の約4分の3を火力で賄っていることもあり、燃料価格の影響を強く受けます。たとえば、石油火力は発電コストの約半分が燃料価格のため、燃料価格が倍になれば発電コストは1.5倍になります。一方、公益財団法人地球環境産業技術研究機構による2050年カーボンニュートラルのシナリオ分析では、電力のすべてを再生可能エネルギーで賄った場合、発電コストは4倍超まで跳ね上がってしまいます。比較的バランスの取れた政府参考値でも2倍近くまで上昇します(資料3)。

日本の世帯年収別に見た世帯収入に占める 光熱費の負担割合(2021年時点)
日本の世帯年収別に見た世帯収入に占める 光熱費の負担割合(2021年時点)

脱炭素に向けて再生可能エネルギーへの転換は必須ですが、その道筋には、「エネルギー貧困」という国民の生活に密接した問題が横たわります。技術革新を通じて発電コストの削減を図るとともに、エネルギー転換の在り方について、客観的なデータや見通しをもとに国民への丁寧な説明が求められます。

牧之内 芽衣


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。