内外経済ウォッチ『米国~行き過ぎた景気後退懸念~』(2022年7月号)

桂畑 誠治

目次

景気後退懸念の台頭

金融市場では、インフレ高進を受けたFRBの大幅利上げの継続によって、米国経済が景気後退に陥るとの見方が増えている。ブルームバーグのエコノミスト調査に基づくと、1年以内に景気後退に陥る確率予想は6月に31.5%まで上昇している。

FRBが目標である前年比+2%強にインフレ率を低下させるために、金融引締めを強化しすぎ、需要を失速させることが警戒されている。

景気の堅調、労働市場の逼迫が継続

足元で、長期金利の上昇によって、住宅販売が減少に転じているが、全面的な需要の抑制にはつながっていない。実際、景気全体を示すISM景気指数は、製造業、非製造業ともにピークから低下傾向にあるものの、5月も高い水準を維持、景気の堅調持続を示している。

労働市場では、5月の非農業部門雇用者数が前月差+39.0万人(4月:同+43.6万人)と高い伸びを続け、3カ月移動平均で前月差+40.8万人(4月:同+51.6万人)と速い回復基調を維持している。また、労働参加率が62.3%にとどまるもと、5月の失業率は3.6%(4月:3.6%)に止まり、労働市場の逼迫が続いている。このような労働市場の逼迫により、4月の給与所得は前年比+11.7%(3月:同+12.7%)と高い伸びを続け、消費は好調さを維持している。

ISM景気指数の推移
ISM景気指数の推移

米経済の金融引締まりへの耐性は向上している

米経済は、金利上昇への耐性が強い状態にある。労働市場の逼迫度合いが強いため、多少の需要鈍化では、労働需給が十分に緩和するには至らない。このため、賃金上昇の伸び鈍化も緩やかになり易く、給与所得は比較的高い伸びを続ける可能性が高い。また、コロナ禍でも、家計、企業、商業銀行のバランスシートは健全性を維持しており、金融環境の引き締まりへの耐性が強くなっている。

資産面では、株価が調整幅を拡大しているものの、コロナ禍で大幅に上昇したことを考慮すれば、逆資産効果は過去と比較して小さいだろう。また、不動産価格は上昇を続けており、株式資産による逆資産効果を緩和している。今後も株価の調整が続く可能性があるものの、住宅市場では需要に対する供給不足が深刻であり、住宅価格の上昇が続くと予想され、逆資産効果は小さくなろう。

政策面でも、FRBは、労働市場の逼迫、高い経済成長にみられるような景気過熱を抑えるために、政策金利の中立金利への引き上げを急いでいるが、中立金利を上回る引締めに前のめりになっているわけではない。また、仮に戦争などによって、景気が急激に悪化すれば、インフレが高止まりするなかで中立金利に達していなくとも利上げを停止するだろう。金利は急激に低下し、株価は大幅に上昇することで、需要を押し上げ、米景気を支える公算が大きい。

米国失業率とインフレの推移
米国失業率とインフレの推移

桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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