ライフデザインの視点『「健やかな老い」への視点』

後藤 博

目次

長寿がもたらす身体的・精神的・社会的負担

2021年、日本の平均寿命と健康寿命はともに最長を更新し、高齢化率も過去最高となった。総務省統計局推計(2021年9月)によると、65歳以上の人口割合は29.1%、75歳以上の後期高齢者は14.9%となっている

ここで注目したいのは、後期高齢者の急増である。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2024年ぐらいまで急増し、その後も増加ペースは落ちるものの2030年まで増加は続くとされている(資料1)。

年齢別の人口増加率の推移
年齢別の人口増加率の推移

後期高齢者の健康状態の特性は、認知・身体機能の低下が顕著で、複数の慢性疾患を抱え、重症化しやすくなるということである。

後期高齢者の増加に伴い、医療や介護等の社会保障費用も急増している。2018年度における一人あたりの国民医療費は、前期高齢者の55.5万円に対して、後期高齢者では91.9万円(1.7倍)であり、介護費は前期高齢者の4.9万円に対して、後期高齢者では47.0万円(9.6倍)となっている。

ところで、高齢者の心身機能の低下や疾病の要因(高血圧など)はフレイル(虚弱)に関係することが知られており、要介護となる原因にもなり得る。

フレイルは、厚生労働省によると「加齢に伴う予備能力の低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」であるとされ、要介護状態に至る前段階として位置づけられる(資料2)。

フレイルは、生活面において多面的な問題をもたらす。身体的な問題だけでなく、抑うつ・意欲や認知機能低下が顕著な精神的問題、そして独居や孤立、経済的困窮といった社会的な問題も抱えやすくなる。そこで、早期からの介入・支援が重要とされる。

しかし、フレイルは病気ではないため放置されやすい。フレイル状態であるのに単に年齢のせいにして回復を諦めたり、無関心でいることが負の連鎖であるフレイルドミノにつながりかねない。

高齢者の健康状態の特性等について
高齢者の健康状態の特性等について

フレイルドミノとは、定年や配偶者との死別などを契機に、生活や行動の範囲が狭まり、外出が億劫になるなど心理状態が低下し、栄養や身体状態も悪化していくという、次々とフレイルが進行する現象である。

社会的なつながりを失うことでフレイルに陥ると、回復できない機能障害に至ったり、持病の重症化により死に至るケースもあるので危険である。

医療と介護の一体的提供へ~重視されるフレイル予防・対策~

老いによる暮らしの負担増を抑制するには、利用可能な医療・介護の支援サービスを日常の生活に組み入れることも大切だ。

ここで高齢者の医療・介護支援の円滑な継続懸念と社会的参加(つながり)の有効性について触れる。

まず、医療支援の円滑な継続懸念とは、75歳になると、国民健康保険から後期高齢者医療制度に保険者が変わり、医療面での支援が低下する懸念である。

具体的には、国民健康保険で実施されていた健診・保健指導が、広域連合による後期高齢者医療制度では検診のみとなる場合が多い。実際に、74歳までに実施された特定検診・保健指導の情報も後期高齢者医療制度に共有されていないケースも多いという。

健康増進事業としての医療・介護連携についても、74歳までの制度では市町村区域で連携した支援が提供される。しかし、後期高齢者医療制度では、運営主体の広域連合が市町村に委託しており、重症化予防が行われるような地域は一部となっている。広域連合は都道府県単位と規模が大きく、組織の特性により専門職の配置が困難等の事情があるからだ。

そこで、高齢者の疾病・重症化予防の効果的な実施には、医療と介護の両面での支援確保・連携強化が求められるようになった。実際に地域行政では、医療と介護ニーズが高いフレイル対策について、医療介護の一体的な提供が推進されてきている。

フレイル予防に運動が重要であることは知られているが、近年の研究では、運動と同等以上に文化・ボランティアや地域活動など「人とのつながり」が有効であることがわかってきた。

資料3によると、運動習慣はないが文化活動と地域活動を行っている人の場合、運動習慣のみある人に比べ、フレイルに対するリスクが約3分の1になっている。このことは、文化活動や地域活動がフレイル予防に有効であり、健やかな生活を持続させるには、運動に加え人とのつながりを持ち、社会性を保つことが重要であることを意味している。

フレイル予防には「人とのつながり」が重要
フレイル予防には「人とのつながり」が重要

社会参加の持続によるフレイル予防を

健康というものは、誕生してからの運動や栄養摂取、社会参加などの積み重ねの上に成り立っている。高齢になると複数の慢性疾患に罹患し、治療を受け、薬剤服用を継続する可能性が高くなる。機能障害、要介護状態による生活負担をできるだけ軽減するには、正しい知識を得ながら、健やかな老いを目指す意識が大切ではないだろうか。

フレイルの予防に、文化活動や地域活動などを通じた社会参加、人とのつながりが有効であることが明らかになってきた。身近な地域で日常的に人とつながる「通いの場」を発見し、それを確保していくことが重要である。健やかな老いを目指すため、こうした活動をライフデザインに組み入れてみてはいかがだろうか。

後藤 博

後藤 博

ごとう ひろし

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: 社会福祉、保健・介護福祉

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