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経済財政諮問会議(2026年10月29日)解説

〜予算編成の抜本見直しの具体化、AIによる経済・社会の変革を見据えた政策形成に向けて~

永濱 利廣

要旨
  • 令和9年度予算を「責任ある積極財政元年」と位置づけ、成長投資の予見可能性と政策効果を高めるための以下の3つのアプローチが示された。①『「強く豊かな日本」投資枠』の活用、②当初予算中心の運営への転換、③税収見積もりの精緻化と財源確保。

  • AIを前提とした社会仕組みの再構築に向け、以下の4つの視点から包括的な対応が提案された。①生産性向上と労働市場対応、②セキュリティの強化、③自律性・独立性の確保、④変化への対応と教育改革。

  • 筆者提言は以下の通り。

 ① 税収推計手法の抜本的精緻化: 成長型経済への構造変化に伴い税収が決算で大きく上振れている実態を踏まえ、乖離要因を正確に分析して精度を高めるべき。

 ② 外為特会の余剰金・留保資金の活用: 円安等でバッファーが十分なため、古い留保ルールを見直し、フローの剰余金全額を一般会計財源へ継続活用する。過剰な留保資金の扱いについても海外事例を参考に再検討すべき。

 ③ マクロ生産性の向上と分配構造への目配り: AI導入だけでなく組織改革・労働移動を促す。また、資本深化による労働分配率低下や富の集中に伴うリスクを警戒すべき。

 ④ 日本型AI雇用対策の構築: 日本では新卒層よりも「事務職の女性」「非正規雇用層」「ミドル・シニア層」がAI省力化の影響を受けやすいため、これらの層を重点対象としたリスキリングやセーフティネットの構築を推進すべき。

目次

1.はじめに

2026年10月29日に開催された経済財政諮問会議では『予算編成の抜本見直しの具体化』と『AIによる経済・社会の変革を見据えた政策形成に向けて』について議論が繰り広げられた。

そこで本稿では、会議資料を基に、諮問会議で展開された内容と筆者の意見を紹介する。

2. 予算編成の抜本見直しの具体化

令和9年度予算を「責任ある積極財政元年」と位置づけ、骨太方針2026で示した予算編成の抜本見直しを具体化・実行するために3点提言された。これは、危機管理投資や成長投資の予見可能性を高め、持続的なイノベーションと経済成長を引き出すことを目的とする。

1点目が、『「強く豊かな日本」投資枠』を成長戦略の実行につなげる予算システムとすることである。

具体的には、複数年度の財政措置と実行計画の一体化として、年末に策定される「日本成長戦略実行計画」の重点分野を起点とし、初年度だけでなく後年度の官民投資規模や支援方針を明らかにして民間投資の予見可能性を確保すべきとされた。そして、特に経済安全保障上重要な分野等は、特別会計等で複数年度の十分な財源を確保すべきとされた。

また、「金額を削る」から「政策設計を磨く」予算査定への転換として、単なる単年度の要求額調整にとどめず、民間投資の誘発効果や複数年度の必要性、後年度の財政負担などを検証して政策の質を高めるべきとされた。

さらに、専門的知見の活用とポートフォリオ運営の観点から、政府の専門性を高め、外部の専門的知見も活用しながら進捗管理や効果検証を行うべきとされた。そして、投資枠全体や補助金・税制等の政策手段を「政策ポートフォリオ」として運営し、効果の乏しいものは縮小・退出して効果の高い分野へ再配分すべきとされた。

2点目が、補正予算への恒常的な依存から脱却し、複数年度の予算運営への転換である。

具体的には、当初予算中心の運営として、継続的に必要な施策は当初予算で措置し、補正予算は災害・突発的事態や経済・物価情勢の急変への対応に限定すべきとされた。

また、複数年度の予見可能性を支える制度として、国庫債務負担行為や基金などを事業の性質に応じて適切に活用すべきとされた。

そして3点目が、当初予算中心の運営を支える税収見積もりと財源の確保である。

具体的には、税収見積もりの精緻化として、過去の乖離要因を検証し、内閣府のマクロ経済見通しとも連携しながら見積もりの精度と透明性を高めるべきとされた。

また、税外収入の確実な確保の観点から、外為特会の財務状況などを踏まえ、活用可能な税外収入を的確に把握・確保して財源に充てるべきとされた。

3.AIによる経済・社会の変革を見据えた政策形成に向けて

AIの普及が経済社会構造に大きな変革をもたらすことを踏まえ、AIを単なる一分野としてではなく、社会の仕組みそのものを設計し直す前提として捉え、包括的な議論と政策対応を進めるために4点提言された。

1点目が、AIによる生産性の向上と労働市場への対応である。

具体的には、生産性の最大化の観点から、売上拡大・費用縮小による付加価値の拡大と労働時間の縮小の両面からAIを活用し、日本が「AI利用先進国」となることを目指すべきとされた。そして、AI for Scienceの強化やスタートアップの育成を加速させるべきとされた。

また、雇用・人材育成・セーフティネットの観点から、労働環境の変化に応じた処遇への反映や、裁量労働制の拡充を含む労働法制・規制改革の議論を急ぐべきとされた。そして、Job Tagの活用によるマッチング機能の強化や、離職者向けの経済的補償制度の導入など流動性の高い労働市場に適したセーフティネットを整備すべきとされた。

さらに、制度・指標の整備の観点から、AIエージェント等の新しい市場慣行に対応した取引・法制度の検討を進め、AI利用コストを含めて付加価値を適切に評価できる指標を整備すべきとされた。

2点目が、セキュリティの強化についてである。具体的には、AIを使ったサイバー攻撃や不正アクセスによる個人情報漏えいなどに備え、事案情報の国家サイバー統括室への集約やウェブシステムの適切な管理、サプライチェーンを通じた侵害対策、データ管理など、官民一体でサイバーセキュリティを強化すべきとされた。

3点目が、自律性・独立性確保についてである。具体的には、「フロンティアモデル」を保有する国・企業に従属しないよう、半導体やフィジカルAI等のキーコンポーネントにおいて日本企業が必要不可欠な存在となるような強化を行うべきとされた。同時に、国内での一定の技術力維持や、特定のAIモデルに依存しない代替性の確保、BCP対応を進めるべきとされた。

そして4点目が、AIがもたらす変化への柔軟な対応と教育改革についてである。具体的には、ダボス会議やグローバルAIサミットなど海外の産学官の議論に積極的に参加し、経済財政諮問会議でもマクロ経済への影響や中長期の姿について包括的な議論を加速させるべきとされた。

また、学校教育においては、知識の習得や演算などAIの得意領域を学ぶ従来の枠組みを抜本的に見直し、「新しいスキルを学ぶ力」や自ら目的を設定する力を育む教育へと改革すべきとされた。そして、OECD加盟国中最下位となっている学校でのAI利用頻度を改善するため、ガイドラインの不断の更新等を通じてAIを活用できる環境を整えるべきとされた。

4.筆者提言

以上を踏まえ、本会議において筆者は「予算編成の抜本見直し」と『AIによる経済・社会の変革を見据えた政策形成』の観点から提言を行った。

まずは、税収見積りと決算の乖離解消についてである。具体的には、直近4年間の平均で、所得税は2.3兆円、法人税は1.6兆円も当初の見積りに対して決算が上振れていることを指摘し、2020年代以降、賃金・物価が上昇する成長型経済へ移行したことで、経済と税収の関係に構造変化が起きていると指摘した。そして、この実績を単なる特殊要因とせず、経済構造の変化を正確に把握した上で、現行の税収推計手法を抜本的に精緻化すべきと主張した。

図表
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続いて、外為特会からの繰入れと財源の継続活用についてである。具体的には、これまでの累積積立額が3割に達するまで剰余金を留保するルールについて、円安等による外貨資産の円建て評価上昇により、含み益を含めた実質的なバッファーは45%と3割を大きく超えていると指摘した。そして、こうした古い基準にこだわらず、フローの剰余金はその一部ではなく全額を一般会計の財源として、来年度予算だけでなく以降も継続的に活用すべきと提案した。また、中長期的には実質4割を超えている過剰な留保資金の扱いについても再検討し、G7各国の資産・債務管理の在り方を研究して抜本的な見直しを行うよう促した。

図表
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一方、AIによる経済・社会の変革を見据えた政策形成については、マクロの生産性向上に向けた構造変化を促した。具体的には、データセンターや半導体への設備投資が爆発的に増えている中、それが個別の業務効率化にとどまらずマクロレベルの生産性向上につながるかどうかが分岐点であると指摘し、そのため単なるAI導入だけでなく、組織改革や労働移動といった構造変化をどう促すかが重要であると述べた。

また、長期的な分配構造の変化への懸念として、AIによる資本深化が進むことで、長期的には付加価値が労働よりも資本に集中的に分配され、労働分配率がさらに低下する懸念を指摘した。そして、富の集中による将来的な消費低迷や自然利子率の押し下げ圧力に注意が必要であると訴えた。

さらに、AI時代における雇用・リスキリングのセーフティネット構築として、海外では若年層・新卒者の雇用がAIで圧迫される傾向が見られる一方、日本においては状況が異なると分析し、日本では、事務職を担う女性や非正規雇用層、社内で余剰感のあるミドル・シニア層がAIによる省力化・自動化の影響を最も強く受けるリスクが高いと指摘した。そして、AI時代に向けた制度再設計では、新卒や高度人材の育成だけでなく、影響を受けやすい女性や非正規雇用層等に対するリスキリング支援や労働移動のセーフティネット構築にも目配りする必要があると主張した。

永濱 利廣


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

永濱 利廣

ながはま としひろ

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析

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