日銀金融政策決定会合(2026年10月)

~基調的な物価上昇率の2%到達を認定、次の課題は「定着」~

新家 義貴

要旨
  • 日銀は10月の金融政策決定会合で政策金利を1.25%に据え置いた。一方、基調的な物価上昇率が2%目標と概ね整合的な水準に達したことを認定し、金融政策運営は「2%への到達」から「2%での定着」を重視する局面へと移っている。

  • 2027年度のCPIコア見通しは前年比+2.6%へ上方修正された。物価上振れリスクへの警戒も維持されており、金融緩和の度合いを縮小する必要性は一段と明確になった。

  • ETFの売却ペースを2027年1月から約2.6倍に引き上げることも決定した。市場への影響は限定的とみられ、金融政策の正常化に向けた動きの一環と評価できる。

  • 植田総裁会見では、基調的な物価上昇率の2%到達を今後の利上げペースにどう反映させるか、2%での定着をどのように判断するか、物価上振れリスクをどの程度警戒しているかなどが注目される。

  • 植田総裁会見前の現時点では、次回12月会合で政策金利を1.50%へ引き上げ、その後も3カ月程度の間隔で追加利上げを実施すると予想する。2027年6月には2.00%に達するとの見通しを維持する。

1. 基調的な物価上昇率の2%到達を事実上認定、物価上振れリスクへの警戒を維持

日銀は10月29・30日の金融政策決定会合で、政策金利を1.25%に据え置くことを賛成8、反対1で決定した。9月会合での利上げから1カ月強しか経過していないことを踏まえれば、今回の据え置きは予想どおりである。なお、高田委員は、中立金利に近づけることが必要だとして1.50%への利上げを提案したが、反対多数で否決された。高田委員による利上げ提案も事前に想定されていたものであり、今回の据え置き決定自体に大きなサプライズはなかった。

今回の会合で重要なのは、日銀が基調的な物価上昇率について、「2%の『物価安定の目標』と概ね整合的な水準となっている」との判断を示したことである。従来の「2%に近づいている」という評価から一歩進み、基調的な物価上昇率が2%程度に達したことを事実上認定した形だ。その根拠として、人手不足が続くなかで賃金と物価が相互に参照しながら上昇するメカニズムが働いていることや、中長期的な予想物価上昇率が2%程度となっていることを挙げている。また、基調的な物価上昇率は先行きも同程度で推移すると予想しており、2%程度の物価上昇が持続することにも相応の自信を示している。

こうした判断は、今後の日銀の金融政策運営にとって重要な意味を持つ。日銀は9月会合の段階ですでに、基調的な物価上昇率を2%に近づける局面から、2%程度で安定させる局面へと政策運営が変化したとの認識を示していた。今回の判断も従来の政策方針の延長線上にあるものであり、これを契機に金融政策が一気に転換するわけではない。一方、基調的な物価上昇率が実際に2%程度に達したことで、物価上振れリスクへの対応を重視し、金融緩和の度合いを縮小していく必要性は一段と明確になったといえる。

展望レポートでは、2026年度の実質GDP成長率見通しが前年比+0.7%と7月時点から0.1ポイント上方修正された一方、2027年度は+0.7%と0.1ポイント下方修正された。物価については、2027年度のCPIコアの見通しが前年比+2.6%と0.2ポイント上方修正されたほか、2027・2028年度のコアコアCPI見通しもそれぞれ0.1ポイント引き上げられた。原油価格や半導体価格の上昇、円安などが当面の物価押し上げ要因になるとみており、CPIコアの上昇率は見通し期間の前半に2%をはっきりと上回る水準まで高まった後、期間後半には2%程度に向けて鈍化すると予想している。27年度の成長率見通し下方修正と物価上昇率の上方修正は、ともに原油価格が前回展望レポート対比で上振れていることが背景にあると思われる。

物価見通しのリスクバランスについては、引き続き上振れリスクの方が大きいとの評価を維持した。とりわけ、賃金・価格設定行動の積極化や様々な物価上振れ要因によって、中長期的な予想物価上昇率が高まり、基調物価が2%目標を超えて上振れるリスクを指摘している。基調物価が2%程度に達したことを踏まえると、今後はこうしたリスクへの対応が従来以上に重要になると考えられる。なお、リスクバランスの評価自体は据え置かれており、今回新たに上振れリスクが大幅に強まったと判断されているわけではない。

2. ETF売却ペースを約2.6倍に引き上げ

また、日銀は今回、保有するETFの売却ペースを2027年1月から引き上げることも決定した。こちらは事前に予想されておらず、ちょっとしたサプライズだ。年間売却額は簿価ベースで3300億円程度から8600億円程度へ約2.6倍に拡大する。時価ベースでは年間約2兆4600億円に相当し、株式市場全体の売買代金に占める割合は従来の約0.05%から約0.1%となる。売却完了までに要する期間は約112年から約43年に短縮される計算である。

今回の売却ペース引き上げは、金融政策の正常化という大きな方向性に沿った動きといえる。日銀は、これまでのETF売却が市場に大きな影響を与えずに進んだことや、株式市場の売買代金が拡大したことを見直しの理由としている。売却額が増加しても市場全体の売買代金に占める割合は小さく、株式市場への直接的な影響は限定的とみられる。もっとも、今回の売却ペース引き上げ後の市場動向に加え、将来的に売却ペースがさらに引き上げられる可能性が市場でどの程度意識されるかについても、留意する必要がある。

#3. 植田総裁会見の注目点 ~基調物価2%到達後の金融政策運営をどう説明するか~ 1 5時30分からの植田総裁会見では以下のポイントに注目している。

基調的な物価上昇率の2%到達を今後の政策運営にどう結び付けるか

日銀は9月会合の段階ですでに、基調的な物価上昇率を2%に近づける局面から、2%程度で安定させる局面へと政策運営が変化したとの認識を示していた。したがって、今回の判断は従来の政策方針の延長線上にあるものであり、これを契機に金融政策が一気に転換するわけではない。

一方、今回の2%到達認定によって、基調的な物価上昇率を2%程度で安定させる必要性は一段と明確になった。特に、現在の金融環境がなお緩和的で、物価上振れリスクも大きいことを踏まえれば、緩和的な金利水準を長く維持することが、かえって基調物価の上振れにつながる可能性がある。このため、日銀には、従来よりも早いペースで政策金利を中立金利に近づける誘因が強まっていると考えられる。植田総裁が、中立金利への接近を急ぐ必要性について、どの程度踏み込んだ認識を示すかに注目したい。

2%での定着をどのように判断するか

基調的な物価上昇率が2%程度に達したとしても、その水準で持続的・安定的に推移することが確認されたわけではない。今後は、2%程度での定着をどのように判断していくのかが重要な論点となる。植田総裁が、賃金やサービス価格、予想物価上昇率、企業の価格設定行動などのうち、どのような指標を特に重視するのかを確認したい。

また、定着の判断に当たって一定期間の経過を必要と考えているのか、それとも定着度合いを継続的に評価していく考えなのかも重要である。特に、2027年春闘の結果をどの程度重視するかなど、判断基準や時間軸に関する説明に注目したい。

物価上振れリスクへの警戒をどの程度強めているか

日銀は9月会合の段階ですでに物価上振れリスクを強く意識していたが、その後も原油高が続き、企業による価格転嫁の動きも広がっている。今回の展望レポートでも物価の上振れリスクが大きいとの評価は維持されたが、植田総裁が、その警戒度を従来よりも強めているかを確認したい。

特に、原油高や円安に伴うコスト上昇が物流費や包装資材などを通じて川下へ波及することや、AI関連需要の拡大による半導体価格などの上昇、賃金上昇を背景としたサービス価格への波及によって、基調物価が2%を超えて上振れるリスクをどの程度懸念しているかが重要である。物価上振れリスクへの警戒が一段と強まっていることが確認されれば、比較的短い間隔での追加利上げを後押しする材料となろう。

金融環境をどの程度緩和的と評価しているか

政策金利は9月の利上げによって1.25%に達し、名目中立金利の推計レンジの中に入っている。ただし、現状はまだ下限付近であり、実質金利もなお低いことから、金融環境は引き続き緩和的と考えられる。植田総裁が、現在の金融環境をどの程度緩和的と評価しているかは、今後の利上げ余地を見極めるうえで重要だ。

また、これまでの利上げが企業の資金需要や金融機関の貸出姿勢、住宅投資などに及ぼしている影響をどう評価しているかも確認したい。既往の利上げによる影響は限定的で、金融環境がなお十分に緩和的との認識が示されれば、比較的短い間隔で利上げを続けることを妨げる要因は小さいと考えられる。一方、不動産など金利上昇の影響を受けやすい分野で、想定以上に悪影響が強まっているとの認識が示されれば、今後の利上げペースを慎重に見極める必要が生じる。

12月利上げに向けてどの程度踏み込んだ発言があるか

今回の据え置きは事前に広く予想されており、市場の関心はすでに12月以降の利上げに移っている。植田総裁が12月の追加利上げにどの程度前向きな姿勢を示すか、あるいは利上げ判断に必要な情報の蓄積を重視するかが注目される。

もっとも、12月利上げの可能性はすでに市場で相応に織り込まれている。日銀が特定の会合での利上げを明示する可能性は低いものの、金融環境がなお緩和的であり、物価上振れリスクへの対応から金融緩和の縮小を進める必要があるとの認識を強調すれば、12月利上げ観測を追認するメッセージとなろう。植田総裁が、今後の利上げペースについてどのような考えを示し、12月会合への距離感をどう説明するかが焦点となる。

ETF売却ペースを今後も引き上げる可能性はあるか

今回、日銀はETFの年間売却ペースを簿価ベースで3300億円程度から8600億円程度へ引き上げた。市場全体の売買代金に占める割合は約0.1%にとどまり、売却完了までにはなお約43年を要する計算である。株式市場への直接的な影響は限定的とみられる。

植田総裁会見では、今回の売却ペース引き上げを決めた判断基準や、市場への影響をどのように見極めていく考えなのかに注目したい。また、将来的に売却ペースをさらに引き上げる可能性についても確認したい。

4. 2027年6月に2.0%までの利上げを予想(植田総裁会見前)

植田総裁の記者会見前の現時点では、次回12月の金融政策決定会合で政策金利を1.50%へ引き上げると予想する。その後も2027年3月に1.75%、6月に2.00%へと、3カ月程度の間隔で追加利上げが行われるとの見通しを維持する。

今回、基調的な物価上昇率が2%程度に達したとの判断が示されたことは、日銀が比較的短い間隔で利上げを続けることを後押しする材料となる。日銀は9月会合の段階ですでに、基調物価を2%に近づける局面から、2%程度で安定させる局面へと政策運営が変化したとの認識を示していた。今回の判断はその延長線上にあるが、2%程度での安定を図る必要性が一段と明確になったことで、中立金利への接近を急ぐ誘因は強まったと考えられる。

物価上振れリスクも、追加利上げを後押しする要因になる。原油高に伴うコスト上昇は、物流費や包装資材などを通じて川下へ波及しており、今後は食料品や日用品への価格転嫁がさらに進むとみられる。筆者は2027年初にはCPIコアが前年比で+3%を上回る可能性があるとみている。物価上昇の長期化が企業の価格設定行動や家計の予想物価上昇率に影響し、サービス価格への波及も進めば、基調物価が2%を超えて上振れるリスクが高まる。日銀は、こうしたリスクへの予防的な対応を重視すると考えられる。

9月の利上げによって政策金利は1.25%に達したものの、実質金利はなお低く、金融環境は引き続き緩和的とみられる。今回の据え置きは9月の利上げから1カ月強しか経過していないことを踏まえれば自然であり、今後の利上げペースの鈍化を意味するものではない。経済・物価情勢が大きく下振れしなければ、12月に追加利上げが実施され、その後も3カ月程度の間隔で利上げが続くと予想する。

現時点では2027年6月の2.00%を今回の利上げ局面の最終到達点(ターミナルレート)と予想している。ただし、中立金利の水準には不確実性が大きく、政策金利2%が必ずしも引き締め的な水準とは限らない。基調的な物価の上振れリスクが想定以上に強まる場合や、2%まで利上げしても金融環境がなお緩和的と判断される場合には、さらに政策金利を引き上げる可能性がある。一方、既往の利上げの影響や原油高による景気下押しが想定以上に強まったり、金融市場が大きく混乱したりする場合には、利上げペースが鈍化する可能性もあるだろう。

新家 義貴


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ