武器になる経済指標 武器になる経済指標

夏の風物詩 弱い雇用統計

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均株価は先行き12ヶ月72,000円程度で推移するだろう

  • USD/JPYは先行き12ヶ月155円程度で推移するだろう

  • 日銀は政策金利を10月に1.25%とした後、27年末までに2.0%とするだろう。

  • FEDはFF金利を、年内は3.75%で据え置くだろう。

  • 7月米雇用統計は軟調な結果となった。インフレ警戒感が燻るなかで、雇用情勢が弱いことが示され、リスク性資産全般にネガティブな結果であった。もっとも、株式市場は上昇で反応。ひとつは、Bad News is good news として取り扱われたことがある。事実、FF金利先物が織り込む9月の利上げ確率、年内の利上げ確率はそれぞれ低下した。もうひとつは、夏場の雇用統計は弱含むという経験則が市場参加者の間で意識された可能性があろう。

  • まず数値を整理すると、雇用者数は前月比▲2.3万人と+8.0万人増加を見込んでいた市場予想に反して減少した。同時に過去2ヶ月分の数値は合計10.3万人が下方修正され、雇用者数の3ヶ月平均値は2.0万人へと急減速した。雇用者数の基調は2026年入り後に復調の気配が強まっていたものの、7月分の弱さによってその強さは大部分が失われた。民間部門の雇用者数は同+3.0万人、3ヶ月平均値では同+4.0万人に減速した。7月単月の雇用者数を業種別にみると教育・ヘルスケアが前月比+2.5万人、建設が同+2.2万人、専門職が同+1.8万人とまずまずの伸びを示した一方、サッカーワールドカップの反動もあってかレジャー・ホスピタリティが同▲4.0万人、小売が同▲1.9万人と軟調で民間部門の足を引っ張った。そして7月のネガティブサプライズの主役となったのは政府部門であり、ここだけで▲5.3万人の雇用者数が失われた。

図表
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  • ここで雇用者数変化を1次速報値に限定して月別の傾向を測ってみると、夏場に弱含む傾向が浮かび上がる。もちろんデータ公表の労働省統計局は季節要因を取り除いた季節調整値を公表しているのだが、季節要因が残存している可能性が指摘されており、実際、2000年以降の平均値をとってみると、夏場に弱含む傾向が観察されている。夏場のハリケーンや冬場の豪雪、クリスマスシーズンの繁忙期とその後に訪れる閑散期など、毎年繰り返される季節的な事象は統計的にある程度の調整が可能になる。一方でリーマンショックやコロナなど通常の季節パターンで取り除けない要因もあり、季節調整は難しい。また教員の夏休み開始時期が微妙に変動することで7月に弱さが観察されることもしばしばあり、今年も地方政府の教育部門が前月比▲5.0万人の減少となった。

図表
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  • 直近では2024年、2025年の夏場にそうした弱さがみられた。2024年は、雇用者数の増加ペースが落ち込むなかで失業率が上昇した。それを受けて世界的にリスク性資産は弱含み、日本では8月5日に発生した令和のブラックマンデーの原因となった。2025年も同様に7月の雇用者数が減速し、なおかつ過去2ヶ月分の数値が25.8万人も下方修正され、労働市場の見方が一気に弱気に傾いた。Fedが2024年、2025年ともに9月FOMCから利下げを開始するに至ったことは記憶に新しい。今年の雇用統計が単なる統計的なクセであるかは判然としないが、秋口に向けて労働市場の弱さが解消される可能性はあろう。

  • 2026年7月の雇用統計に話を戻して失業率に目を向けると、こちらは4.1%で安定している。労働参加率が低下したため、純粋に労働需給が引き締まったとはいえないものの、労働需給は安定している。求職を止める人が増加したことなどで、非労働力人口は6月から38.1万人増加していた。統計の定義上、職がなく求職もしていない人は失業者ではなく、非労働力人口に分類される。高齢者の増加、移民政策の厳格化など潜在的な労働供給量の減少も背景にある。

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  • 次に平均時給に目を向けると、前月比+0.1%、前年比+3.2%と減速した。前年比の市場予想は+3.5%であり、はっきりとした下振れであった。瞬間風速を示す3ヶ月前比年率でみると、僅か+2.3%、その3ヶ月平均値は+2.5%と明確に下を向いている。これは非常に複雑な結果である。というのも、個人消費の源泉として賃金上昇率を考えた場合、その鈍化は景気の下振れ要因にほかならないからである。一方で、インフレの原因として考えた場合はその鈍化によってFedの利上げ観測後退に繋がる。

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  • 現在の株式市場は、どちらかというとFedの利上げ観測後退が好感される局面にある。事実、雇用統計発表直後にFedの利上げ観測が後退し、主要株価指数は上昇で反応した。9月FOMCまでには2回分の消費者物価統計と1回の雇用統計がある。労働市場が大崩れせず、インフレの落着きが確認されれば、株価はEPS増加見合いで堅調に推移しよう。

藤代 宏一


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