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強まらない円高圧力、潜在的円安の懸念

~追加利上げ観測を打ち消す「影の重石」~

熊野 英生

要旨

米国では追加利下げが行われたが、ドル円レートはそれほど円高に振れて行かない。12月は日銀会合での追加利上げも濃厚になっている。「なぜ、もっと円高にならないのか?」という点は、日本の財政運営に絡んだ別のリスクが重石になって、潜在的な円安圧力が働いているという見方もできる。

目次

米国利下げの反応

米国では、12月10日のFOMCで▲0.25%ポイントの追加利下げを決定した。ドル円レートは、いくらか円高ドル安に動いたが、それでも12月11日は1ドル155円台を維持している(図表1)。これでFFレートの誘導目標は、3.50-3.75%まで下がった。FOMCメンバーの2026年中の利下げ予想はあと1回(▲0.25%p)に止まった(9月予想と同じ)。中立金利とされる3.0%まではもう少し距離感がある。

図表
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「どうしてドル円レートがもっと円高に振れないのか?」という疑問に対して、自問自答すると、FFレートの先行きがインフレ・リスクによってそれほど極端に大きな利下げになりそうもないという説明はできるだろう。米長期金利も、このところは4.0-4.2%のレンジで下がらなくなっている(図表2)。

図表
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しかし、FRBの政策予想はもっと利下げを織り込んでもよいという見方はある。なぜならば、2026年5月にもパウエル議長が交代し、後任の人物はさらなる利下げを2026年中に推進する可能性があるからだ。この人物は、トランプ大統領の意を受けて、さらなる追加利下げに邁進していく公算が高い。

このトランプ大統領の意向に対しては、まだその通りになるとは限らないという反論もできる。12月のFOMCでは、利下げに対する反対票が3票(利下げ反対は2票)もあった。さらに、ドットチャートのFF金利の予想に関しては、メンバーの約半分がこれ以上の利下げに慎重な見方で占められていた。この状況から察すると、次期議長の下で利下げを強行しようとすれば、相当に波乱含みの展開になることが予想される。おそらく、米長期金利が下がりにくいのは、2026年中にインフレ圧力が高まって、中長期的には政策金利が下がりにくくなることを示唆しているのだろう。債券価格はインフレ予想が強まれば下落して、長期金利は上がっていく。長期金利が高止まりしてドル安の勢いを大きく殺いでしまい、円高圧力を生みにくくしているという見方も成り立つ。

日銀の利上げ見通し

もう1つ不思議に思うのは、日銀の12月利上げが濃厚になっているのに円高が進まないことだ。次の利上げが行われれば、日本の政策金利は0.75%と久々の高い水準になる。一時は、10月から高市政権に交代して、日銀への緩和維持の圧力が強まり、今でも中長期的に追加利上げはペースダウンするという見方は根強い。それが円高圧力を封じているという見方だ。

目先の12月18・19日の決定会合では、日銀が+0.25%ポイントの利上げに踏み切る予想である。1ドル160円近くの為替介入警戒ラインに接近していることが背景である。日本の長期金利についても、2.0%の大台に乗ることはもはや時間の問題のように目に映る。長期金利上昇は、この日銀の利上げ観測を受けていると言われる。

ならば、これは明らかな円高要因であるとみられるが、一方でドル円レートが1ドル155円前後に止まっている。ここは矛盾していると感じられる。筆者は、先に「米長期金利が高止まりしていることが、ドル安の勢いを殺いでいる」と説明したが、日本の長期金利が上昇していることは円高圧力なのではないかという反論には答えにくい。つまり、「日本の長期金利が上昇しても、十分な円高圧力にならない」ことの別の説明が必要になる。

実のところ、筆者もこの点の明確な回答を持っている訳ではない。仮説としては、日本に潜在的な円安圧力があって、見かけ上は日本の長期金利が上昇しているが、潜在的な円安圧力の方がまだ強く働いているという理解はできる。

参考になるデータは、2025年夏頃まではドル円レートの推移は、日米の名目長期金利差でうまく説明できていたのに、夏以降はそのトレンドよりも円安バイアスが働くようになっていることだ(図表3)。これは、この時期から石破政権が交代して、次は高市政権になるという政治環境の変化を受けて、マーケットが円安に動いた可能性はある。金融政策だけではなく、大規模な財政出動を伴ったリフレ政策が動き始めると、それは日本の通貨価値を減価させる要因になる。おそらく、日本の実質長期金利は潜在的に大きく下がっているのだろう。金融政策に関しては、日銀がたとえ12月利上げを実施できたとしても、さらに追加利上げをしようとすれば、2026年中のどこかの時点で高市政権から「待った」がかかって、先々の政策金利の引き上げができなくなるという仮説も成り立ち得る。また、財政放漫によって日本国債の格付けもダウングレードされてもおかしくないという見方も根強くある。だから、見かけ上の長期金利が上がっていても、円高にならないのかもしれない。日本の長期金利には見えないリスクプレミアムが上乗せされて、実質的な利回りが低下しているという別の仮説になる。そうしたリスクは、CDSのような指標にも部分的に表れている可能性はある。

図表
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イベント・リスク

日銀の追加利上げが12月会合で実施されれば、それは明らかな円高要因になる。しかし、12月中のイベントを考えてみると、それだけで為替レートが決まらない事情もありそうだ。それは、追加利上げ観測を打ち消す「影の重石」として、日本の財政運営に関するリスクがあるからではないか。

今後の日程として、クリスマス前後には2026年度当初予算案が閣議決定されて、その概要が明らかになる見通しである。そこで、予算の大型化が強く打ち出されれば、それが円売り要因になる。たとえ日銀の追加利上げ観測が浮上しても、その作用が大きくて円高圧力を打ち消してしまっているということも考え得る。この仮説は、先に述べた日本国債のリスクとはニアリー・イコールだという解釈もできる。

その後のイベント・リスクとしては、2026年1月になると、高市政権が今後数年間の基礎的財政収支の見通しを発表することもある。仮に、そこで基礎的財政収支の黒字化の見通しが大きく先送りされるとすれば、それはやはりリスク増大になる。結論としては、現在の為替レートは、それほど遠くない未来にやってくる複数のリスク・イベントが重石になって、日銀の追加利上げの影響力を減殺しているとみられる。

熊野 英生


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熊野 英生

くまの ひでお

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 金融政策、財政政策、金融市場、経済統計

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