株高不況 株高不況

株高の裏にある半導体 (25 年9月鉱工業生産)

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均株価は先行き12ヶ月49,000円程度で推移するだろう。

  • USD/JPYは先行き12ヶ月150円程度で推移するだろう。

  • 日銀は利上げを続け、2026年前半に政策金利は1.0%に到達しよう。(修正検討中)

  • FEDはFF金利を26年前半までに3.5%へと引き下げ、その後は様子見に転じるだろう。

目次

金融市場

  • 前営業日の米国市場は、S&P500が▲1.0%、NASDAQが▲1.6%で引け。VIXは16.9へと低下。

  • 米金利は小動き。予想インフレ率(10年BEI)は2.298%(▲0.1bp)へと低下。
    実質金利は1.798%(+2.5bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は+48.5bpへとプラス幅拡大。

  • 為替(G10通貨)はJPYが軟調。USD/JPYは154前半へ上昇。コモディティはWTI原油が60.6㌦(+0.1㌦)へと上昇。銅は10917.0㌦(▲266.5㌦)へと低下。金は4015.9㌦(+32.2㌦)へと上昇。

注目点

  • 筆者が日本経済と株式市場の行方を読む上で定点観測している日本の鉱工業生産は2025年9月に前月比+2.2%と3ヶ月ぶりの増産であった。経産省経済解析室の予測値(同+2.3%)に概ね一致し、市場予想(同+1.5%)よりも強い結果で着地した。増産となったのは半導体製造が含まれる生産用機械、無機・有機化学、金属製品など13業種。減産となったのは輸送機械工業(除く自動車)、鉄鋼・非鉄金属工業の2業種であった。

  • 鉱工業生産の水準はコロナ期以降、趨勢的に低下している。それは鉱工業生産指数が生産の「数量」を捕捉する統計であり「付加価値」ではないことが関係している。高付加価値を狙った品質向上によって生産数量が減少する場合、鉱工業生産統計はそれを減産と見做し、付加価値を過小評価してしまうこともある。鉱工業生産統計が示すほど日本経済(製造業)の付加価値創出力が停滞していない可能性を念頭に置く必要があるだろう。事実、過去数年は付加価値の合計である実質GDPとの水準・方向感の乖離が大きくなっている。

  • 10月初旬に実施された生産予測調査に基づけば、製造工業の生産計画は10月が前月比+1.9%、11月が同▲0.9%と均してみれば増産を見込まれている。もっとも、経産省経済解析室が生産予測指数の上振れバイアスを補正した予測値は10月の生産が同▲0.5%の減産になることを示唆している。ここから判断すると実際の生産は横ばいか僅かな減産となる蓋然性が高い。

  • 鉱工業生産全体の方向感を決める自動車工業の生産は前月比+0.9%と増産となった。新車需要の弱さを疑いたくなるが、米国向けに関してはトランプ関税(対自動車)が発動されて以降、日系メーカーは輸出価格の引き下げによって、現地の販売価格を据え置くことで販売数量の減少回避に努めている。駆け込みとその反動を除くと、米国向け需要に大きな変化はないと推察される。事実、米国の新車販売台数は9月に年換算1,639万台と安定している。自動車ローンの延滞率上昇が耳目を集める一方、中高所得者は資産効果を追い風に高額消費に前向きとみられる。この間、国内では認証問題に起因する供給制約が緩和したこともあって持ち直しの動きがみられている。筆者が試算した季節調整済み年換算値の基調は460万台程度となっている。そうした下で、輸送機械工業の生産計画は10月に前月比+3.4%となった後、11月は同+2.1%となっている。

  • 株式市場における重要度が高い半導体関連については、電子部品・デバイス工業が前月比+4.2%と4ヶ月連続の増産となった。5月の大幅減産(同▲14.8%)によって一時的に基調は下向きになったが、2023年前半を大底とする回復局面は続いている。過去数ヶ月、大幅な変動を主導した集積回路(IC)は5月に同▲30.4%となった後に反発を続け10月は同+0.2%となり、落ち込みを完全に埋めた。なお、2024年12月に稼働したと伝わっているTSMC熊本工場の生産分が鉱工業生産統計に反映されているのかについて経済産業省からの情報発信はないが、令和7年度経済財政白書は「内訳として把握可能なメモリ等に比べ、その他の集積回路の回復が相対的に強くなっている」ことを指摘し、「一部の先端半導体工場が稼動開始したことに伴う効果が発現している可能性もある」としている。この間、生産用機械に分類される半導体製造装置も復調の気配があり、10月の生産は同+15.7%の増産であった。もっとも、関連指標の機械受注統計(機種別集計)における電子計算機等の受注額はやや下向き基調になっている。

  • 電子部品・デバイス工業の動向を仔細にみると、上述のとおり9月の生産は前月比+4.2%、前年比では+5.5%となった。生産計画は10月に前月比+7.6%となった後、11月は同▲8.6%と大幅な振れが予想されており、先行きの不確実性は大きい。次に出荷と在庫に注目すると、9月は出荷が前年比+1.1%へとプラス圏で推移し、在庫が同+3.8%と一気にプラス圏に浮上したため、出荷・在庫バランス(両者の前年比差分から算出)は▲2.7ptへとマイナス圏に押し戻された。もっとも、3ヶ月平均では+4.5ptとプラス圏を維持しており、製品需給が引き締まり方向にあることが示唆されている。

  • ここで長期的に電子部品・デバイス工業の出荷・在庫バランスと、日経平均株価が連動性を有してきたことを再確認したい。株価指数において半導体を直接手掛ける企業の存在感は必ずしも大きくはないが、電子部品、半導体製造装置、化学品など「広義半導体」で見ればその存在感は大きく、結果的に日本株全体のうねりを作り出す構図があると筆者は理解している。足もとの出荷在庫バランスに底打ちの兆しが出てきたことは、7月下旬から10月下旬に至るまでの日本株高を正当化しているようにみえる。

  • 先行きの出荷・在庫バランスを見極めるために在庫循環図の位置取りを確認すると、直近12ヶ月は、右下領域(在庫減・出荷増)から左下領域(在庫減・出荷減)へと逆走した後、中心点付近で渦を描いている。もっとも過去の経験則に従えば、今後は東方に進路をとった後、徐々に右上領域(在庫増・出荷増)に向けて北上すると予想される。AI向け半導体以外のPC、スマホ、自動車向け需要が復調すれば、その確度は一層高まる。

藤代 宏一


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