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2025.06.04
欧州経済
日本経済
フランス経済
人口減少・少子化
出生率低下、打開策はあるか?
~日本がお手本とするフランスでも出生率の低下が続く~
田中 理
- 要旨
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- 2024年の日本の出生数が70万人を割り込んだが、日本が少子化対策のお手本としてきたフランスなど欧州諸国でも近年、出生数の減少が続いている。一時は2.0前後に回復したフランスの合計特殊出生率は、2024年に1.62に低下し、過去100年余りの最低水準を更新した。
- 近年の出生率低下の背景には、育児費用の増加や不安定な就業形態の増加など経済不安、出産や家族生活に対する価値観の変化、教育期間やキャリア形成期間の長期化による出産年齢の後ずれ、女性の経済的自立の向上、計画外妊娠の減少、出生率の高い移民の流入減少などの要因が考えられる。
- フランスの出生率は近年の低下後も日本やEU平均を上回る。手厚い家族手当などの政策支援がなければ、出生率の低下がさらに進んでいた可能性があり、少子化対策の政策効果がなかった訳ではない。
2024年の日本の出生数は68.6万人と、1899年の統計開始以来で初めて70万人を割り、合計特殊出生率も1.15で過去最低を更新した。日本政府はこれまで様々な少子化対策を講じてきたが、2016年には出生数が100万人を割り込み、その後も出生数の低下に歯止めが掛からない。国立社会保障・人口問題研究所の最新の将来推計人口(中位推計)よりも14年前倒しで70万人を割り込んだ。
実は日本が少子化対策のお手本としてきたフランスやスウェーデンなどの欧州諸国でも、出生率の低下が続いている。フランスでは、多子加算型の手厚い家族手当や減税措置、様々な家庭環境やニーズに合わせた保育サービスの充実、妊娠健診・出産費用の無償化、教育費の無償化、仕事と家庭の両立を支える環境整備などの少子化対策が奏功し、1990年代に1.6台まで低下した合計特殊出生率が2000年代には2.0前後まで回復した。だが、その後は再び低下基調に転じており、2024年は1.62と過去100年余りで最も低い水準を更新し、第一次世界大戦直後で成年男子が少なかった1919年以来の水準に低下した(図折れ線グラフ)。
2024年の出生数は日本をやや下回る66.3万人で、2010年の直近ピーク時対比で20%以上も減少し、第二次世界大戦後の最低を更新した(図棒グラフ)。同国の出生数は、コロナ後の2021年にやや回復したのを除けば、2011年以降、毎年減少している。出産適齢期の女性人口は概ね横ばいで推移しており、このところの出生数低下は、出生率の低下によるものだ。初めて子どもを出産する女性の平均年齢は、20年前の29.5歳から2024年には31.1歳に上昇している。
近年の出生率低下に危機感を抱くマクロン大統領は昨年1月、育児休暇制度の見直しと不妊治療の強化を通じて、出生率の再浮上を目指す方針を明らかにした。現行の育児休暇制度は、出産後、子どもが3歳になるまで利用できるが、給付水準が月額429ユーロ(約7万円)にとどまり、女性の14%、男性の1%しか利用していない。新たな制度では、現在よりも給付期間が短くなるが、給付水準が引き上げられる。だが、その後の政局混迷と相次ぐ首相交代、与党の議会基盤の弱体化もあり、両施策ともに具体的な進展はみられない。
出生率の低下の背景には、①家賃、教育費、医療費など子育て費用の増加、不安定な就業形態の増加や住宅事情の厳しさ、最近の物価高騰などに起因する先行き不透明感、②結婚、出産、家族生活、ワークライフバランスに対する価値観の変化、③教育期間やキャリア形成期間の長期化による出産年齢の後ずれ、④女性の教育と経済的自立の向上に合わせた仕事と家庭を両立する施策が不十分な点、⑤効果的な避妊手段の普及による計画外妊娠の減少、⑥出生率の高い移民の流入減少などの要因が指摘される。
フランスの出生率は近年の低下後も、EU内で最も高い部類に入り、日本やEU平均を上回る。手厚い家族手当などの政策支援がなければ、出生率の低下がさらに進んでいた可能性があり、少子化対策の政策効果がなかった訳ではないだろう。今後の日本の少子化対策の在り方を考えるうえで、フランスなど欧州諸国の出生率低下の背景について、より精緻な研究成果の蓄積が待たれる。

田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

