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失われた30年の主因は人口減少か?

~主因はバランスシート不況に伴う国内設備投資の低迷~

永濱 利廣

要旨
  • 日本の人口減少が中長期にわたって続くことは確実であるが、日本企業や国民の悲観論の根本には人口減少への不安がある。国立社会保障・人口問題研究所の中位推計から2040年頃迄を見通すと、今後の人口は生産年齢人口も含めて減少が加速することは不可避。

  • しかし、90年代後半以降の潜在成長率の鈍化は、圧倒的に資本投入量の伸び悩みによるものであり、潜在成長率鈍化の主因は人口減少ではないことがわかる。TFPが時代を通じて押し上げに寄与している一方で、労働時間が80年代後半以降に一貫して潜在成長率の押し下げに寄与していることからすれば、今後も人口減少が続いたとしても、労働時間の減少に歯止めをかけ、TFPと資本投入量の伸びを高めることができれば、潜在成長率を維持できる可能がある。

  • 資本投入量の伸びが急速に低下したのは、資産インフレによるバブルが崩壊し、マクロ安定化政策を誤ったことに伴うバランスシート不況が主因。特に、90年代後半に生じたデフレにより実質債務が上昇したことで、バランスシート改善のために設備投資の縮小が必要になった。

  • 失われた30年における日本経済は、日本企業が安定した国際秩序の下で立地競争力が高い海外拠点を活用したコストカット型の経営を行ってきた。今後もこれまで同様の経済運営や企業経営が継続されれば、実質賃金や経済成長に大きな期待はできず、すでに一人当たりGDPが新興国にまで追いつかれるように、海外に比べて豊かではない状況が深刻化する可能性が高い。

  • 持続的成長に不可欠なのは、需要と供給の循環であり、それを結びつけるものは投資やイノベーションである。そのためには、社会課題解決に貢献するなど将来役に立つ分野で需要を喚起するとともに、それを満たす供給側の投資やイノベーションを後押しする政策が重要。

  • 国際経済秩序や人口動態の変化を正しく理解し、日本国民がその課題に挑戦していけば、人口減少下でも個々のニーズに対応した細やかなサービスが少ない人員で提供されることで一人一人の所得が増加し、国民生活がよりスムーズで心地よく新たなものに発展し、豊かな社会が実現する余地はある。

目次

1. 失われた30年の主因といわれる人口減少

日本の生産年齢人口(15~64歳人口)は1995年をピークに減少しており、総人口も 2008年をピークに減少過程に入っている。そして、国立社会保障・人口問題研究所の中位推計によれば、2020年時点で1億2615 万人存在した日本の総人口は、2070年には8700万人へと3割以上も減少することになっている。

このように、日本の総人口及び生産年齢人口の減少が中長期にわたって続くことは確実であり、日本企業や国民の悲観論の根本には人口減少への不安がある。

そこで本稿では、過去の日本経済のいわゆる「失われた30年」の主因が人口減少によるものなのかを分析し、日本経済は人口減少の中でも豊かになれるのかを考察する。

図表1
図表1

2. 今後の人口動態の想定

まずは、今後の人口動態の想定をしてみた。使用するデータは、前述の国立社会保障・人口問題研究所の中位推計とする。そして、想定する期間はデータが存在する2025~2070年の期間とした(図表1)。

まず少子化については、仮に今後最重要課題とされる少子化対策の効果が表れ、足元で生まれる子供が労働力人口として期待される成人になるのは、今から約20年後の2040年台半ば頃である。

一方、高齢化については、人口構成上大きな塊である団塊ジュニアかつ就職氷河期世代が、後期高齢者入りするのも2040年代半ばである。また、総人口から労働力を担う20~69歳人口を除いた、いわゆる支えられる側の人口比率は2040年ごろまで横ばいとなる。

他方で外国人労働者が数倍規模で増加する見通しとなっており、高度な知識やスキルを持つ人材を増やすことができれば、生産性向上に大きく貢献する可能性がある。しかし、アジアを中心とした新興国からみて賃金が魅力的な水準を保てなければ、外国人労働者を呼びにくくなり、人口構成に大きく影響するような規模までには至らない可能性もあろう。

こうしたことから、2040年ごろまでを見通すと、今後の人口は生産年齢人口も含めて減少が加速することは不可避といえよう。

3. 失われた30年の主因は資本投入量の低迷

ただ、成長会計(文末脚注)に基づけば、そもそも一国経済の供給力を示すとされる潜在GDPは、人口動態が大きく影響する労働投入量(就業者数+労働時間)のほかに、資本投入量と全要素生産性(以下、TFP)によって決まることになる。

このため、以下では内閣府が推計する潜在成長率とその要因分解を用いて、いわゆる「失われた30年」において、人口動態が最も影響する就業者数の変化がどの程度影響してきたかを分析した。

図表2
図表2

潜在成長率のデータが存在する81年を始点とした5年ごとの平均潜在成長率を要因分解した結果を見ると(図表2)、90年代後半以降の成長率の鈍化は、圧倒的に資本投入量の伸び悩みであることがわかる。そして、人口動態が直接影響する就業者数も成長率の足を引っ張っているものの、潜在成長率鈍化の主因は人口減少ではないことがわかる。

なお、TFPが時代を通じて押し上げに寄与している一方で、労働時間が80年代後半以降に一貫して潜在成長率の押し下げに寄与していることからすれば、今後も人口減少が続いたとしても、労働時間の減少に歯止めをかけ、TFPと資本投入量の伸びを高めることができれば、潜在成長率を維持できる可能がある。

4. 資本投入量の伸びが急速に低下した背景

そこで続いては、なぜ日本でここまで資本投入量の伸びが低下したのかについて考察する。ここについては、やはり90年代後半から資本投入量の寄与が急低下していることからもわかる通り、資産インフレによるバブルが崩壊し、マクロ安定化政策を誤ったことに伴うバランスシート不況が主因といえよう。特に、90年代後半に生じたデフレにより実質債務が上昇したことで、バランスシート改善のために設備投資の縮小が必要になったといえる(図表3)。

図表3
図表3

そして、こうした投資の縮小が需要の低迷を誘発して価格転嫁が困難となる中、企業がコストカットによる収益改善を図る一方で、労働規制の緩和に伴い就業制約のある女性や高齢者の労働参加拡大により比較的低賃金な非正規労働者が増加し、結果として賃金の低迷が発生した。加えて、少子高齢化の進展を背景とした社会保障負担の継続的上昇が相まって、個人消費が低迷したことは重要な要素といえよう。

さらに、金融緩和の遅れなどにより円高水準が継続する中、生産拠点の空洞化が進むことで日本経済の輸入浸透度が高まり、結果として国内の設備投資がさらに低迷し、資本投入量の低迷が継続することとなった。そして、こうした個人消費の低迷と国内設備投資需要の減退といった企業によるコストカット中心の経営戦略が定着する中、企業の価格転嫁メカニズムが破壊され、消費者もデフレ期待が定着することで、家計のデフレマインドが定着するようになったといえよう。

以上の考察に基づけば、確かに日本の生産年齢人口が1996年、総人口が2009年にそれぞれ減少に転じたことが、多少なりとも企業の期待形成に影響を与えた可能性はあるが、潜在成長率の低下はマクロ的には資本投入量の低迷が主因であり、必ずしも人口減少という長期トレンドがデフレや潜在成長率低下の主因ではないといえよう。

5. 失われた30年の脱却に必要な環境

失われた30年における日本経済は、海外投資による逆輸入品などの安い中間財を利用することで収益力を得て、主要先進国並みの労働生産性を維持してきた。その一方で、国内投資は減少し、実質賃金も減少する中でGDPは微増にとどまってきたことがある。

背景として、日本企業が安定した国際秩序の下で立地競争力が高い海外拠点を活用したコストカット型の経営を行ってきたことがある。結果として、国内市場が顧客数も物量も減少することで縮小するととらえて敬遠されてきた。このため、経常収支は所得収支を主因に黒字だが、国内投資需要が乏しく、海外投資収益は現地で再投資され、貿易サービス収支は赤字となっている(図表4)。

図表4
図表4

こうした経常収支とコインの表裏関係にあるIS(貯蓄投資)バランスの面からみると、企業部門は貯蓄超過となり、政府が社会保障費の増加を中心とした財政赤字を通じて資金需要主体を担ってきたが、足元では貯蓄超過主体となっており、経済を支える力は弱まっている(図表5)。結果として日本の経済・社会は変化を起こして成長するという状況に至っておらず、今後もこれまで同様の経済運営や企業経営が継続されれば、実質賃金や経済成長に大きな期待はできず、すでに一人当たりGDPが新興国にまで追いつかれるように、海外に比べて豊かではない状況が深刻化する可能性が高い。

図表5
図表5

さらに国民が貧しくなれば、経済的な資源やインフラ不足に加え、技術的発展の遅れなどが深刻化して、社会の安定性すら失われるとの見方もある。

しかし、こうした悲観シナリオを見通すだけでは、日本国民の挑戦を促し、豊かな社会を実現するのは難しいだろう。これまで見てきた通り、持続的成長に不可欠なのは、需要増加を通じて国内供給が強化されて、さらに需要が増えるという好循環であり、需要と供給の循環を結びつけるものは投資やイノベーションである。そしてそのためには、社会課題解決に貢献するなど将来役に立つ分野で需要を喚起するとともに、それを満たす供給側の投資やイノベーションが必要である。

もちろん、こうした好循環に裏打ちされた持続的な所得向上は、個人消費の拡大という国内需要喚起にもつながろう。このためには、政府が社会課題に対して一歩前に出て大規模で長期的な投資を民間に促すことで、国内投資とイノベーションと所得向上といった3つの好循環を加速させることが必要であろう。そして、国際経済秩序や人口動態の変化を正しく理解し、日本国民がその課題に挑戦していけば、人口減少下でも個々のニーズに対応した細やかなサービスが少ない人員で提供されることで一人一人の所得が増加し、国民生活がよりスムーズで心地よく新たなものに発展し、豊かな社会が実現する余地があるだろう。

<参考文献>経済産業省「経済産業政策新機軸部会第三次中間整理」(2024年6月)

【注釈】

  1. 一般に、経済成長(付加価値の増加)は、生産要素である資本及び労働の増加、並びに、TFP(Total Factor Productivity:全要素生産性)の増加による部分に分解できる。付加価値の増加に対して、資本及び労働が投入量の効果を表すのに対して、TFPは生産の質による効果を表している。TFPは、生産要素以外で付加価値増加に寄与する部分であり、具体的には、技術の進歩、無形資本の蓄積、経営効率や組織運営効率の改善等を表すと考えられる。中長期的には、労働供給は人口の制約を受け、資本ストックを形成する投資は付加価値の範囲内となることを考えると、一国の経済を成長させていくには、TFPを高めることで付加価値を大きくする必要がある。

永濱 利廣


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

永濱 利廣

ながはま としひろ

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析

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