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- 税収の弾性値は本当に高いのか??
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「政府の税収はどんどん増えるのだから、もっと減税せよ」という話を聞く。財政再建はどうするのかと尋ねると、「成長すれば自然増収が見込めるのだからそれで賄えばよい」という論法だ。自然増収の根拠は、名目成長率に比べて税収の伸び率が著しく高いからだという。本当にそうなのかを調べてみた。
2025年度税収のデータ確認
税収の伸び率が、名目経済成長率よりも遙かに高いはずだという議論がある。筆者は本当にそうした考えが正しいのかどうかについて、常々、疑問を抱いてきた。確かに、コロナ禍が終わって、当初の局面ではそうだっただろう。これは、収益が赤字から黒字に転じる企業が多く、家計所得も増え始めたからだ。名目GDPの前年比も、2021年度2.9%、2022年度2.3%、2023年度4.9%、2024暦年2.9%と驚くほどに伸びている。弾性値の話以前に、名目値が高く伸び、それが税収増をもたらしている効果は大きいだろう。
そこで、まずは政府の税収見通しを確認してみよう。2025年度の政府予算案では、78.4兆円(784,400億円)と、24年度補正後予算の73.4兆円を6.8%も上回っている。しかし、この伸びには、定額減税分(国税23,020億円)が2025年度にはなくなる効果が含まれている。それを除くと、伸び率は3.6%まで縮小する。
果たして、2025年度の税収見通しの78.4兆円は妥当なのだろうか。実は、税収の伸び率の3.6%は大きな伸びであるが、それは名目GDP自体の伸び率が高いからだという説明もできる。名目GDPの伸び率の方を調べると、日本経済研究センターのESPフォーキャスト調査では、2025年2月時点での平均的な予測値は2025年度2.99%となっていた。2025年度の税収見通しの伸び率3.6%は、名目GDPの伸び率予想の2.99%に対して、1.20倍になる。「税収の弾性値=税収の伸び率÷名目GDPの伸び率」は1.20となる計算だ。つまり、3.6%の伸び率のうち、そもそも名目GDPが2.99%ほど伸びたことの貢献度が8割超と大きく、弾性値が1を上回っている部分は2割弱に過ぎない。やはり弾性値が高いから税収が増えるのではなく、名目GDPが増える効果の方が大きい。
もっと手前から計算すると、

この3年間で計算すると、税収の弾性値は1.21になる。おおむね2025年度の弾性値1.20と同じと言ってよい。2025年度の予算案78.4兆円はそれほど非現実的な数字だとは思えない。弾性値の議論は、もっと精緻に計算すべきだとは思うが、上記のように簡単に計算してもそれほど極端に高い訳ではないことがわかる。
経済学者の中にも、名目成長率が高いときに、財政再建が自然増収で達成できるという見方に傾くことを戒める者がいる。著名学者のグレゴリー・マンキューは、成長率に依存して財政再建がうまくできると過剰に楽観する見方のことを、「デフィシット・ギャンブル」と呼んだ。財政赤字の解消を楽観的な経済成長の見通しに任せるのは、ルーレットを回して賭けをするようなものだという例え話だ。仮に、弾性値が高いのであれば、景気が良いときは税収は大きく増えて、景気が悪くなれば税収は著しく減少する。株式投資になぞらえると、ベータ値(連動性の係数)が高い株式と同じで、上がるときはより上昇し、下がるときはより下落するのが、弾性値が高いケースだ。平均すれば、ベンチマーク(市場平均の株価変化率)の収益率を大きくは上回れない。何かアルファ(超過収益率)が得られるような錯覚に陥ることを、マンキューは戒めているのである。
税収は金利上昇に食われる
政治家の中には、税収はどんどん増えるのだから減税すべきだという人もいる。そうした意見を聞くと、どうしても違和感を覚える。おそらく、税収が増えた分は国民に還元すべきだと伝えたいのだろう。しかし、インフレが起きているとき、税収の増加とともに金利上昇も進んでいく。国債費の増加を無視して、税収増だけを還元してもよいという議論をしてはいけない。
国債費の推移を確認すると、

このデータからは、金利上昇による国債費の押し上げは限定的であり、これまでのところは金利上昇リスクは表面化していないように見える。しかし、それは日銀が2024年3月までマイナス金利政策を継続し、事実上国債管理政策の一端を担っていたからだ。2024年度からは状況は少しずつ変わってきている。2025年1月には長期金利が目立って上昇し始めてきた。2025年以降の国債費は、いくらか増加が進むとみられる。財務省も、2025年度の金利想定を2.0%と高く見積もっている。
もしも、「税収が増えるのだから減税せよ」という意見に耳を傾けるのならば、利払コストを勘案した上で基礎的財政収支が黒字方向に改善しているかどうかに目を向けた方がよい。基礎的財政収支とは、「新規国債発行額-国債費」の算式で示される。税収が増えても、政府は補正予算で歳出を増やそうとするのだから、税収だけ見ていても財政余力を判断することはできない。
政府の方針では、2025年度に基礎的財政収支を赤字から黒字へと転換するとしているが、仮に収支が改善したとしても、未だ赤字状態である。政府予算案をベースにしても、国の基礎的財政収支は▲0.43兆円の赤字が残る(政府目標はGDPベースで、国+地方での黒字化)。借金の元本拡大が継続する国が減税というのは、何か感覚が違っている気がする。まだ赤字なのだから、減税は早計と考えた方がよいだろう。
「年収の壁」是正は弾性値を下げる
筆者は、原理的に考えるとブラケット・クリープをいずれ是正すべきだとみている。プラケット・クリープとは、インフレによって所得税などの課税基準が実質的に下がっていくことを指す。インフレ課税の一形態として、ブラケット・クリープが起こっている。
近頃、議論されている「年収の壁」問題は、このブラケット・クリープ是正の1つだとみられる。103万円の壁は、1995年に設定されて、そのラインが物価調整されてこなかった。だから、実質増税が進んでいけば、課税ラインを物価水準の変化に合わせて調整してしかるべきだと考える。だから、今回の政府当初案の103万円→123万円は、それなりに妥当だとみていた。
しかし、野党の議論では、消費者物価ではなく、最低賃金に連動させて調整すべきだとされている。原理的に考えれば、インフレ率=消費者物価(総合)に合わせてブラケット・クリープを是正すべきだと考える。なぜ、最低賃金を基準にしているのかは、十分に理解しがたい。仮に、貧困対策ならば、厳格な所得制限をして、基礎控除・給与所得控除を引き上げるべきだろう。そうした議論をすっ飛ばして、控除金額の上限を一律178万円まで引き上げると、それによって所得税収は大きく減少することになりかねない。インフレ基準以上に控除金額を引き上げると、実質減税になるからだ。さらに言えば、この実質減税は税収の弾性値を低下させる作用も持つ。税収が増えると思っていたらならば、意外に実質減税の効果が大きかったということになる。
税収が増えているのだから減税という主張を実行すると、気が付けば事後的に税収が増えにくくなるという矛盾を引き起こしてしまう。筆者は「年収の壁」への対応を消費者物価基準にして、次の段階としては所得税の限界税率の階段も、同様のルールで見直していくことが課題になると考える。所得税の限界税率は、195万円、330万円、695万円、900万円、1,800万円、4,000万円のところで階段状に引き上がっていくかたちだ。この階段のラインを物価相当に引き上げていくことが、ブラケット・クリープへの対応になる。インフレ下でそうした調整をしなければ、物価上昇とともに実質的な課税強化が進んでしまう。しかし、国全体では赤字なので、プラケット・クリープへの対応は基礎的財政収支の黒字を達成した後で、段階的進めるべき課題になるだろう。
熊野 英生
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