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2025.02.10
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エンゲル係数上昇の主因は家計の節約
~実質可処分所得増加による押し下げを消費性向低下による押し上げが上回る~
永濱 利廣
- 要旨
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経済的なゆとりを示す「エンゲル係数」が昨年も上昇した。エンゲル係数は家計の消費支出に占める食料費の割合であり、食料費は生活する上で最も必需な品目のため、一般に数値が下がると生活水準が上がり、逆に数値が上がると生活水準が下がる目安とされている。
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昨年のエンゲル係数上昇は、消費性向の低下と食料品の相対的な価格上昇が主因となっている。その背景には、賃上げや定額減税などの影響により実質可処分所得が増加したにもかかわらず、節約志向が強まっていることがある。
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政府がエネルギー価格抑制策の出口に向かっていることや、昨年の天候不順や円安などにより生鮮食品の価格が上昇してきたことから食料品を中心に値上げラッシュを迎えつつある。加えて、中長期的には世界的な人口の増加や海外の所得水準向上等に伴う需要の拡大や都市化による農地減少等も要因となり、食料・エネルギー価格の上昇トレンドは持続する可能性が高い。
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全体の物価が下がる中で食料・エネルギーの価格が上昇すると、特に低所得者層を中心に購入価格上昇を通じて負担感が高まり、購買力を抑えることになる。そして、低所得者層の実質購買力が一段と低下し、富裕層との間の実質的な生活格差は一段と拡大する。
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更に深刻なのは、我が国の低所得者世帯の割合が上昇傾向にあること。こうした所得構造の変化は、我が国経済がマクロ安定化政策を誤ったことにより企業や家計がお金をため込む一方で、政府が財政規律を意識して支出が抑制傾向となり、結果として過剰貯蓄を通じて日本国民の購買力が損なわれてきたことを表している。その結果として我が国では家計全体が貧しくなってきた。
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政府が重視するデフレ脱却には、消費段階での物価上昇だけでなく、国内で生み出された付加価値価格の上昇や国内需要不足の解消、単位あたりの労働コストの上昇が必要となるが、依然として需要不足は解消されていない。賃金の上昇により国内需要が強まる『良い物価上昇』がもたらされるためには、持続的な実質賃金の上昇が不可欠となる。
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27%を超えたエンゲル係数
経済的なゆとりを示す「エンゲル係数」が足元で高水準にある。特に二人以上世帯では2023年に26.5%まで上昇したものが、2024年には27.1%まで上がっている。
エンゲル係数は家計の消費支出に占める食料費の割合であり、食料費は生活する上で最も必需な品目のため、一般に数値が下がると生活水準が上がり、逆に数値が上がると生活水準が下がる目安とされている。

エンゲル係数上昇の主因は消費性向低下
エンゲル係数は、家計の消費支出に占める食料費の割合とされているが、その変動には、いずれも数量と価格が関係している。つまり、消費者物価(総合)に対して相対的に食料品価格が上昇すれば、エンゲル係数の押し上げ要因となる一方で、相対的に食料費以外の支出抑制もエンゲル係数の押し上げ要因となる。
また、分母の消費支出は可処分所得と平均消費性向、すなわち家計が自由に処分できる所得と世帯の消費意欲に分解できる。そして、可処分所得は実収入、すなわち世帯の現金収入を合計した税込み収入に左右される一方で、非消費支出すなわち税金や社会保険料など世帯の自由にならない支出にも左右される。従って、こうした要因に分解すれば、エンゲル係数がなぜ上昇したかを分析できる。

そこで、エンゲル係数の変化幅を食料品の消費量、すなわち実質食料支出と相対価格、および全体の消費性向と実質実収入、非消費支出に分けて要因分解してみた。すると、実質実収入と実質食料支出および税金や社会保険料などの非消費支出がいずれも押し下げ働く一方、消費性向の低下が+0.9ポイント、食料品の相対物価が+0.3ポイントそれぞれ押し上げ要因になっていることが分かる。
消費性向、すなわち可処分所得に対する消費の割合が下がった背景には、33年ぶりの賃上げや定額減税などに伴い可処分所得が増加したにもかかわらず、値上げに伴い節約志向が強まったことが推察される。一方、食料品の相対価格上昇の背景には、政府の物価高対策で電気ガスなどエネルギー価格が抑制されたことで相対的に食料品価格の値上がりが上回ったことが考えられる。つまり、実質可処分所得の増加にもかかわらず、相対的に高い食料品価格の上昇や、それに伴う家計の節約志向の強まりが昨年のエンゲル係数押し上げの実体である。

足元の物価上昇は「悪い物価上昇」
こうした食料やエネルギーといった国内で十分供給できない輸入品の価格上昇で説明できる物価上昇は「悪い物価上昇」といえる。そもそも、物価上昇には「良い物価上昇」と「悪い物価上昇」がある。「良い物価上昇」とは、国内需要の拡大(デマンド・プル)によって物価が上昇し、これが企業収益の増加を通じて賃金の上昇をもたらし、更に国内需要が拡大するという好循環を生み出す。しかし、ここ元の物価上昇は輸入原材料価格の高騰を原因とした、食料・エネルギーの値上げ(コスト・プッシュ)によりもたらされている。そして、国内需要の拡大を伴わない物価上昇により、家計は節約を通じて国内需要を一段と委縮させている。その結果、賃金上昇が物価上昇に追い付かずにエンゲル係数が上昇していることからすれば、「悪い物価上昇」以外の何ものでもない。

さらに、世界の食料・エネルギー需給は、中長期的には人口の増加や所得水準の向上等に伴う需要の拡大に加え、都市化による農地減少等も要因となる。このため、食料・エネルギー価格の上昇トレンドは持続すると見ておいたほうがいいだろう。
生活格差をもたらす食料・エネルギー価格の上昇
ここで重要なのは、食料・エネルギー価格の上昇が、生活格差の拡大をもたらすことである。食料・エネルギーといえば、低所得であるほど消費支出に占める比重が高く、高所得であるほど比重が低くなる傾向があるためだ。
事実、総務省「家計調査」によれば、可処分所得に占める食料・エネルギーの割合は、年収最上位20%の世帯が27.6%程度なのに対して、年収最下位20%の世帯では51.2%程度である。従って、全体の物価が下がる中で食料・エネルギーの価格が上昇すると、特に低所得者層を中心に購入価格上昇を通じて負担感が高まり、購買力を抑えることになる。そして、低所得者層の実質購買力が一段と低下し、富裕層との間の実質的な生活格差は一段と拡大する。

更に深刻なのは、我が国の低所得者世帯の割合が高まっていることである。事実、総務省の家計調査年報で年収階層別の世帯構成比を見ると、年収が最も低い200 万円未満に属する世帯の割合は2023年から2024年にかけて拡大している。
こうした所得構造の変化は、我が国経済がマクロ安定化政策を誤ったことにより、企業や家計がお金をため込む一方で、政府が財政規律を意識して支出が抑制傾向となり、結果として過剰貯蓄を通じて日本国民の購買力が損なわれていることを表しているといえよう。そして、我が国では低所得者層の増加を招き、結果として生活格差が拡大してきたといえる。

重要なボーナス除く実質賃金
こうした中、すでに日銀は金融政策の出口に向かっている。しかし、コスト・プッシュにより消費者物価の前年比が+2%に到達しても、それは安定した上昇とは言えず、『良い物価上昇』の好循環は描けない。つまり、政府が目指すところのデフレ脱却には、消費段階での物価上昇だけでなく、国内で生み出された付加価値価格の上昇や国内需要不足の解消、単位あたりの労働コストの上昇が必要となる。しかし、足元ではGDPギャップが依然としてマイナスであることからしても、依然として国内需要不足は解消されていない。

そして需要不足が安定的に解消されるには、少なくとも賃金の上昇により国内需要が強まる『良い物価上昇』がもたらされることが不可欠といえよう。となると「2%の物価安定目標」達成をどう判断するかが重要となってくるが、ここではやはり賃金の動向が重要になってこよう。というのも、植田新体制になって日銀はフォワードガイダンスに賃金を盛り込んでいるからである。
しかし、現時点で実質賃金が2カ月連続でプラスとなっているものの、ボーナスを除いた「きまって支給する給与」ベースでは依然として大幅マイナスであることからすれば、いくらコアインフレ率が2%を超えているとはいえ、日銀が理想とする「2%物価安定目標」を達成したとはいいがたい。となれば、すでに出口に向かっている日銀の金融政策は拙速感が否めないということになろう。

永濱 利廣
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

