政策金利を据え置き、次回利上げへ

~2024年12月の決定会合~

熊野 英生

要旨

日銀は追加利上げを見送った。理由は、トランプ当選で米国経済発の不透明感が高まっていて、その見極めをしたいという意向からだ。トランプ・リスクの中身は、財政政策、通商政策にある。それは、ドル高円安を加速させて、日本に輸入物価上昇圧力を高める影響を及ぼす。今回は見送ったが、2025年1月の利上げはあると予想される。

目次

円安は進む

12月19日の政策決定会合は、政策金利を0.25%で据え置いた。事前に共同通信の報道で、据え置き観測が流れていた。その観測通りであった。反対票は、最もタカ派の田村審議委員だけだった(8対1)。植田総裁が追加利上げを見送った理由は、米国経済に対する不透明感がまだ強いためだろう。前日のFOMCでは、金利見通しが発表されて、2025年中に4回(▲1.00%ポイント)の利下げを予定していた9月から、今回12月は2回(▲0.50%ポイント)へと修正していた。パウエル議長は記者会見でトランプ次期大統領の政策について質問されて、「全て不明だ」と言葉を濁した。FOMCメンバーの景気見通し自体は、2024年2.5%の実質成長を見込んでいて、前回9月の2.0%よりも高い数字になっている。米国の不透明感とは、景気のダウンサイド・リスクではなくて、財政政策、通商政策の方にある。具体的には、トランプ関税が日本経済や世界経済に対してどう及んでくるかがわからないという不透明感なのだ。植田総裁は、少なくともトランプ就任の1月20日まで待った方が良さそうだと判断したのだろう。

次回会合は、2025年1月23・24日である。トランプ氏の就任直後という日程は、トランプ氏が就任初日に何を発表するかを見てから動くというかたちになる。筆者の予想では、たとえ1月であっても霧のような不透明感は、依然として晴れないとみている。すると、1月利上げであっても不透明なままの見切り発車になると予想する。

12月利上げを日銀が見送ったことは、為替レートがより円安方向にシフトしていく流れを強める結果になるだろう。すでに、共同通信の観測報道が流れた辺りから円安方向に為替が変化してきた。日銀の据え置きを受けて、円安はさらに進んで、1ドル156円台にまで移行している(図表)。この円安は、輸入物価上昇となり、ガソリンや食料品の値上がりとなって、私たちの暮らしに響いてくるだろう。

図表
図表

10月末から何が変わったか?

12月利上げが見送られた理由について考えたい。日銀の発表文をみても、9月・10月と今回12月の文面にほとんど違いがない。そこで、植田総裁の発言の方に注目すると、10月末の決定会合の時には、「時間的余裕はあるという表現を今後使うのは止めた」と述べていたことが特徴的だ。この発言は、利上げが近いというシグナルだと受け止められた。この発言からすれば12月利上げがあっても何も不思議はなかった。

そこで注目されるのは、「賃上げの行方や米国経済の見極めもしたい」という発言だ。その見極めができていないから、12月会合では機が熟していないという理解ができる。経済を取り巻く環境という点では、前回会合から今回会合の間に大きな変化があった。①衆院選での与党敗北、②トランプ氏の当選の2つである。

もっとも、国内政治の面では、今のところ、日銀の政策に政治的圧力が強く働いた形跡はない。石破政権はそれどころではないのだろう。影響したとすれば、トランプ・リスクが11月5日の大統領選挙以降に強まったことが重要だ。もしも、日本から米国への輸出に10%の関税がかけられれば、輸出企業の収益にも悪影響が及ぶ。メキシコ・カナダ・中国への関税も、現地企業の対米輸出が減って困ることになる。実際、その見極めは2025年に入ってしばらく時間を要するだろう。トランプ・リスクは、前回会合からの一番大きな変化であるが、それがもたらす不透明感はすぐには見極めができないはずだ。この要因に注目すると、次回1月会合の利上げも怪しくなる。

しかし、もう一段深く考えて、トランプ・リスクの中身を考えていくと、日銀の追加利上げの蓋然性は高まっていく。なぜならば、トランプ・リスクとは日本にとって物価上昇要因だからだ。今後、トランプ氏が就任すると、FRBの利下げがしにくくなり、円安圧力を増す。この円安圧力を封じるには、日銀が段階的に利上げをすることが求められる。目下、米長期金利は、4.5%まで上昇してきている。それが1ドル156円台への円安を導いている。

日銀にとって、トランプ・リスクの見極めは重要であるが、その見極めを待っていると物価上昇圧力は時間とともに強まっていく。だから、1月会合での利上げを視野に入れているということだろう。

さらに、賃上げはどうだろうか。春闘の集中回答日は、3月半ば。2025年3月会合は、3月18・19日に開催される。もしも、賃上げを重視するのならば、3月会合まで様子見をするという選択もある。植田総裁は会見で、「(春闘までに)ある程度の情報は入ってくる」と述べていて、3月の集中回答日まで待たない可能性も示唆していた。

2025年中の利上げを考える

日銀は、次回の2025年1月に追加利上げをするつもりであろう。経済・物価シナリオの通りであれば、利上げをしていくと表明している。

2025年中の会合予定を調べると、1月、3月、4月、6月、7月、9月、10月、12月の8回である。国内では7月は参議院選挙が予定され、その直前の6月会合は実質的な選挙期間と重なる可能性があるので、利上げはなさそうだ。1月に追加利上げがあったとして、その次は7月になるのだろうか。そして、場合によっては12月というスケジュールが考えられる。春闘の賃上げが波及して、年央にかけて毎月勤労統計の現金給与総額の伸び率が上がっていけば、それは次の次の利上げの根拠になる。

また、FRBの利下げが2025年前半に2回あったとすると、2025年後半はトランプ就任後のインフレリスクが高まって、より円安が進むという可能性がある。ここで利上げをすれば、政策金利水準は1.00%に到達する。

常々、日銀は、「展望レポートの見通し期間の後半に2%の物価目標と整合的になる」と述べてきた。2025年度後半にかけて金利正常化を進めることが中長期の方針のようだ。すると、2025年12月の利上げで政策金利1%を達成することは、オントラックの政策シナリオの一応のゴールになると考えられる。この12月時点で、まだ物価上昇圧力が高ければ、さらなる利上げもあり得るだろうが、その判断は2025年後半になって考えるのだろう。

金融政策の多角的レビュー

この12月会合は、前々からの宿題であった過去25年間の総括を行った。長大なレポートなので、日銀は「主なポイント」も同時に発表している。

その主なポイントで興味深いのは、現在の金融政策の望ましいあり方が、にじんでいる点だ。具体的には、「非伝統的な金融政策手段は、短期金利操作の完全な代替手段にはならず、可能な限りゼロ金利制約に直面しないような政策運営が望ましい」とある。この説明は、植田総裁の真意そのものだろう。なぜ、政策金利1%を目指すかと言えば、それはゼロ金利政策に追い込まれないためだ。もしも、政策金利ゼロになると、もはや金融政策は政策効果を十分には発揮し得なくなる。この説明は、過去25年間に日銀を縛ってきたくびきからの解放を宣言したに等しい。日銀は政策金利ゼロになれば、どんどん資産購入を行って量を増やせばよいという極端なリフレ論者に対して、「それはほとんど意味はありませんよ」と反論しているのだ。

それともう1つ、注目すべき説明は国債市場に対する言及だ。2013年以降の大規模な金融緩和の影響として、「今後、なお低下した状態にある国債市場の機能回復が進まない、あるいは副作用が遅れて顕在化するなど、マイナスの影響が大きくなる可能性には留意」とある。これは、黒田前総裁の下で実施された量的・質的緩和の国債買い入れが、市場機能を低下させたことに対する反省を述べたものだ。現在もその後遺症に悩んでいるという市場関係者からの意見を述べている。筆者は、できればこの記述の中に財政規律を弛緩させたことの反省の弁も加えてほしかった。

熊野 英生


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