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2024.12.18
日本経済
テクノロジー
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貿易・国際収支
2023年度の日本の研究開発費は名目GDP比3.70%と過去最高
~技術貿易収支は4兆3、618億円の黒字でインバウンドと並び稼げるサービス分野ではあるが…~
佐久間 啓
- 要旨
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総務省から「科学技術研究調査」が公表されている。これによれば、日本の2023年度の科学技術研究費(以下、「研究費」という)は22兆497億円で、前年度に比べ+6.5%。また、研究費の名目GDPに対する比率は3.70%と、前年度比+0.05ポイントの上昇で、金額、GDP比率とも過去最高となった。 政府は、2021年3月、「今後の5~10 年間が、我が国が世界を主導するフロントランナーの一角を占め続けられるか否かの分水嶺である」との認識のもと、2021年度から2025年度までの5年間の科学技術・イノベーション基本計画(以下、「基本計画」という)を策定。「政府の科学技術関係予算の着実な確保、産学共同研究の推進、そして、世界と伍するファンドの創設などを通じて、基礎研究への十分な投資を確保する」とし、2021年度から2025年度までの官民合わせた研究開発投資の総額を120兆円(政府投資が呼び水となり民間投資が促進される相乗効果や我が国の政府負担研究費割合の水準等を勘案)とする目標を立てている。 総務省公表の研究費は、基本計画で言うところの研究開発投資と同一ではないが、昨今、様々な観点から、日本の研究開発の地盤低下が指摘されることが増えているなかで、日本の研究開発投資全体の現状を知ることができる貴重なデータだ。「科学技術研究調査」のデータは多岐にわたるが、今回は、全体の動きに加え、研究開発の主体別、支出源別、費目別、性格別といった代表的な視点での動きと、産業別研究開発費の動向、技術貿易(外国との特許、ノウハウなどの技術の提供又は受入れ)の足下の動きについてみてみたい。
2023年度の研究費は金額、対GDP比率も過去最高
「科学技術研究調査」によれば、日本の2023年度の「研究費」は前年比+6.5%の22兆497億円と過去最高を記録。前年度に比べ1兆3,457億円の増加となった。うち自然科学分野は20兆5,350億円で、研究費全体に占める割合は93.1%となっている。なお、賃金水準等物価の変動分を除去して算出した実質研究費(2020年度基準)は19兆5608億円で、前年度に比べ3.8%増と、4年ぶりのプラスとなっている。
2024年度分については、1年後の公表となるが、研究費は、足下でも堅調な伸びを続けていると考えられる。四半期ごとに集計、公表される日銀短観では、企業の研究開発費についても調査している。直近の12月調査短観では、全産業全規模企業で、研究開発投資の2024年度計画は前年比+6.5%。年度の出来上がりは、これより若干下がると思われるが、4年連続の増加となることは確実だろう。

過去最高水準だが、国際比較をすると…
2023年度の研究費の名目GDP比率は3.70%と、2022年度3.65%を0.05ポイント上回り、こちらも過去最高を記録している。2008年に3.64%を記録して以降、ほぼ3.5%近辺で横ばいの動きであったが、2022年度、2023年度と名目GDPが拡大するなかでも、2年続けて過去最高を更新してきていることには注目だ。
文科省科学技術学術政策研究所の「科学技術指標2023」によれば、主要国の研究費のGDP比率は、米国が3.59%(2022年)、ドイツが3.13%(2022年)、フランスが2.18%(2022年)、(2021年)、中国が2.43%(2021年)、韓国が5.21%(2022年)であり、日本の3.70%は主要国の中では、韓国に次いで第2位の位置ということになる。昨今、様々な観点から、日本の研究開発の地盤低下が指摘されることも多いが、日本の研究費は、GDPベースの経済規模からみれば、依然、高水準を維持しているということが分かる。

一方、研究費自体の規模感、その伸び、といった視点で主要国の動きを見ると、見え方は変わる。「科学技術指標2023」によれば、2022年の主要国の研究開発費をOECD購買力平価換算で見ると、米国が断トツで87兆6,485億円、続いて中国(2021年データ)が66兆663億円、次にドイツ16兆6,002億円、韓国13兆1,956億円、フランス8兆854億円と続いている(英国は「指標2023」ではデータ未整備のため主要国から外した)。日本は2022年の研究費が20兆7,040億円なので、規模的には米国、中国に次ぐ第3位の位置にいるが、この分野での米国の圧倒的規模感と中国の驚異的な拡大ペース、韓国の追い上げには、あらためて驚くしかない。
研究開発費の伸びと言う点でより分かり易くするために、実質の購買力平価換算値で2000年を100として数値を計算してみた。これによれば米国は2022年で211.9、ドイツが166.6、日本が138.1、フランスが134.0。2000年以降の伸び率と言う点では日本とフランスが主要国内では下位の位置に止まっていることが分かる。驚異的ペースの中国(2021年データ)は1558.5と桁違いであるが、韓国も534.3と主要先進国に比べて驚異的な拡大ペースとなっている。韓国は半導体市場を代表するハイテク大企業が複数本社を構える国。思い切った研究開発投資で先端技術を磨き、環境変化にも早く対応しながら世界シェアを拡大してきたことが、この数字に表れているようだ。

主体別、支出源別、費目別、性格別の研究費
2023年度の研究費を、研究開発を担う主体別にみると、企業等が16兆1,199億円(研究費全体に占める割合73.1%)、大学等が3兆9,365億円(同17.9%)、非営利団体・公的機関が1兆9,932億円(同9.0%)となっている。1990年代は、大学等と非営利団体・公的機関を合わせ、全体の3割を優に超える研究主体であったが、2000年代に入り、行政改革や予算制約等から、特に非営利団体・公的機関のシェアが大きく低下しており、直近では企業等の存在感が年々大きくなってきている。
次に、支出源別にみると、民間が17兆9、509億円(研究費全体に占める割合81.4%)、国・地方公共団体が3兆9、740億円(同18.0%)、海外が1、248億円(同0.6%)となっており、民間が研究費全体の約8割を占めている。
次に、費目別にみると、人件費が8兆8,782億円(研究費全体に占める割合40.3%)、原材料費が2兆5,603億円(同11.6%)、固定資産購入費(含むリース料)が2兆5,726億円(同11.7%)、その他の経費(備品の購入、図書費、光熱水道費、通信費、賃貸料等)が8兆385億円(同36.5%)となっている。対前年度比は、研究費全体の+6.5%に対し、人件費は+0.7%、原材料費は+4.4%、固定資産購入費は+16.0%、その他経費は+11.3%となる。急激な物価上昇のなかで、人件費を抑えながら研究開発を進めざるを得なかった姿が浮かぶ。
続いて、自然科学分野に使用した研究費を、その性格別にみると、基礎研究費が2兆9,519億円(研究費全体に占める割合14.4%)、応用研究費が4兆2,019億円(同20.5%)、開発研究費が13兆3,812億円(同65.2%)となっている。主体別のところでみたように、日本の研究費が企業を主な担い手としていることから、「基礎研究、応用研究及び実際の経験から得た知識を活用し、付加的な知識を創出して、新しい製品、サービス、システム、装置、材料、工程等の創出又は既存のこれらのものの改良を狙いとする研究」とされる開発研究が太宗を占めるのは、ある意味当然と言えるだろう。2023年度の性格別研究費を主体別にみてみると、企業では、開発研究費が77.4%と圧倒的であり、大学等では基礎研究53.9%、応用研究22.0%、合わせて85.9%と太宗を占めており、それぞれが期待される役割を発揮していると言えるだろう。

自動車・同付属品、電子部品デバイス、生産用機械が研究費の伸びを支える
日本の研究開発を支える企業の研究費であるが、2023年度の16兆1,199億円のうち、資本金100億円以上の大企業が11兆5,855億円(前年度比+7.6%)で、全体の71.9%を占めている。財務省法人企業統計や日銀短観では資本金10億円以上を大企業として集計しているが、研究費を資本金10億円以上で集計すると、13兆8,168億円となり、全体に占める割合は85.7%まで上昇する。2023年度の研究費の多い業種は、自動車・同付属品4兆3,387億円(研究費全体に占める割合26.9%)、一般機械(はん用+生産用+業務用)1兆9,598億円(同12.2%)、医薬品1兆5,386億円(同9.5%)、電子部品・デバイス1兆3,706億円(同8.5%)。

2007年度を100とした指数をみると、2023年度は企業全体が116.6に対し、自動車・同付属品が178.9、電子部品・デバイスが163.9と研究費が大きく拡大していることが分かる。一般機械は、業務用機械が78.8と大きく減少していることが影響して、全体では111.0であるが、生産用機械だけみれば176.8と、自動車・同付属品に並ぶ水準だ。いずれも国際競争力が高いと言われている業種だ。企業業績の拡大が研究費の増額に繋がり、それが更に企業の競争力を高め、次の業績拡大を支えるという好循環を実現していると言えるだろう。
技術輸出は3年連続増加、親子会社への輸出比率は73.6%
次に、足下の技術貿易(外国との特許、ノウハウなどの技術の提供又は受入れ)についてみると、技術輸出は5兆476億円、前年度比+1.0%となり、3年連続の増加となった。このうち、海外の親子会社への輸出が3兆7,153億円となっている。親子会社への輸出が、全体に占める割合73.6%であり、2022年度の63.6%から大きく上昇している。ただ、この比率は、2005年度から2021年度にかけて、69.2%から76.5%の狭い範囲内で推移しており、“上昇した”と言うより、以前のレベルに“戻った”と言った方が正しいだろう。2023年度の技術輸出トータルのうち、自動車・同付属品が2兆9,169億円、医薬品が9,797億円、合わせて3兆8,967億円あり、この二つの産業で全体の77.2%を占めている。
一方、技術輸入は6,858億円で前年度比▲3.9%と、こちらは4年ぶりのマイナスとなっている。このうち海外の親子会社からの輸入は6,858億円で、全体に占める割合は37.3%となる。海外の親子会社からの輸入比率は直近でやや頭打ちであるが、2000年代から徐々に拡大してきた。そうした背景には、日本企業による海外進出が進むなかで、独自の技術やノウハウを持つ海外企業のM&Aが拡大し、そうした技術の国内への持込み、活用が増えていることがある。

技術貿易は“稼げる”サービス分野
2023年度の技術貿易収支は、4兆3,619億円の黒字となり、3年連続で増加している。うち親子会社の収支は3兆4,596億円の黒字だ。技術貿易収支比率(技術輸出/技術輸入、倍)は7.36となり、過去最高だった2016年度の7.89に迫る水準に上昇している。前出の「科学技術指標2023」によれば、米国の技術貿易収支比率は2.39(2022年)である。技術貿易の集計項目に違いがあるため単純比較はできないが、日本の収支比率の高さが際立つ。
昨今、日本の国際収支で、所謂“デジタル赤字”の拡大に注目が集まっている。デジタル収支は、サービス収支のうち、著作権等利用料(著作物を複製して頒布するための使用許諾料)、コンピュータサービス(ゲームのサブスクリプション、クラウドサービス、ウェブ会議システム利用料等)、専門・経営コンサルティングサービス(インターネット広告スペース利用料等)の収支を合わせたもの。2023年度には▲5兆4,347億円の赤字となり、2024年度についても前年度を大きく上回るペースで赤字が拡大中だ。
こうした“デジタル赤字”が注目されるように、足下で、日本の貿易・サービス収支の赤字が定着しつつあるなかで、観光関連サービス収支(旅行収支+旅客輸送収支)の黒字と、この技術貿易収支の黒字(国際収支上は「産業財産権等収支」に含まれる)は、数少ない“稼げる”サービス分野となっていることは認識しておいた方がいいだろう。
ここまで、日本の研究開発の現在位置を確認してきた。研究費も着実に増加し、対GDP比率も上昇、技術貿易でもしっかり黒字を確保…と、これだけみれば、日本の研究開発力は問題ないという見方もできるのかもしれない。しかし、それは一面的な解釈でしかないだろう。
研究開発は、費用負担の問題、産学官の連携、役割分担や研究者の研究・育成体制…この分野は意見が対立する課題も多い。「科学技術研究調査」の調査項目は多岐にわたり、今回は触れなかった研究者関連のデータも多く、示唆に富むものだ。それらを確認しながら、現状の立ち位置をしっかり認識して、まだ残る課題や将来の日本経済の姿について多くの人が考えていく必要があるだろう。“科学技術”とか“研究開発”が、毎年ノーベル賞決定の時期にだけ注目され、話題になるのでは勿体ない。
佐久間 啓
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