- Market Side Mirror
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2024.11.14
金融市場
世界経済
トランプ政権
トランプ大統領でEV市場の成長は止まるのか?
~“MAGA”にプラスならEV支援拡大もありえるなか、日本の巻き返しに期待~
佐久間 啓
- 要旨
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EV義務化を中止し、高コストで負担の大きい(環境対策)規制を削減するとした、共和党大統領候補トランプ氏が、大統領選挙で圧勝、2025年1月大統領に就任する。足下では、成長鈍化を示すニュースフローの多いEV市場であるが、世界最大の自動車市場である中国、第2位のアメリカでも順調に、その市場シェアを拡大させている。 トランプ政権の誕生で米国の気候変動対策が大きく変わる可能性はあるものの、世界的な内燃機関車からEVへのシフトは、脱炭素社会実現に向けた重要なピースの一つであることは変わらない。加えて、EVは、これから開発競争が激しくなるSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)とほぼ同義と言っていい。EV支援が“Make America Great Again(MAGA)”に繋がるのであれば、EV拡大の方向に政策を変えてくる可能性も考えられる。現状、日本はEV市場での存在感が小さいが、成長スピードが鈍化した今こそ巻返しのチャンス。官民呼吸を合わせて対応していくことが重要。
トランプ氏は「EV義務化を終わらせる」としながら、「EVには賛成だ」とも発言
2024年7月、共和党の大統領候補に指名されたトランプ氏は、その指名受諾演説の中で、バイデン政権が掲げる2030年までに自動車販売の半数をEVにするという目標を念頭に、就任初日にEV義務化を終わらせるとした。また、選挙期間中にはバイデン政権の“グリーン・ニューディール政策”を攻撃し、IRA(インフレ抑制法)に基づく、EV向け最大7,500ドルの補助金支給についても見直すとしていた。一方で、「EVには賛成だ」、「EVは好きだ」とも発言しており、なかなか真意は読めない。
そのトランプ氏が大統領選で圧勝し、2025年1月、大統領に就任する。前任者の看板政策を否定するのはいつものスタイルであり、すべてが選挙期間中の発言通りにはならないとは言え、議会は上下両院とも共和党が過半数を占める。バイデン政権が進めた“グリーン・ニューディール政策”、EVシフトは大きく変化していく可能性がある。具体的な政策はこれからであるが、もとより、“アメリカファースト”な仕様であるIRAが、トランプ政権下で、さらに、その度合いが強まることは間違いないだろう。
EV市場は成長の限界が見えたのか
今後、大きな環境変化が想定され、注目されるEV市場であるが、足下では、“成長鈍化”といった報道も目立つ。EVシフトを進めるために、中国、欧州で競うように導入された購入インセンティブ策が、多くの国で2023年までに打ち切られたり、縮小されたことから、2024年に入り、補助金による前倒し購入の反動もあり、購入を手控える動きがみられた。EV普及が、一足先に進んだ国で、販売が少し足踏み状態にあるということのようだ。メーカーの値引き、在庫調整の動き、製造拠点の整理、設備投資の先送りといったニュースフローを目にする機会も増えている。
IEA(国際エネルギー機関)の「EV Outlook 2024」によれば、EV販売は(含むプラグインハイブリッド車)は、2020年の299万台から2023年には1,380万台、年平均66.6%の成長を実現。一方、足元の見通しでは、年平均成長率が2023年~2025年は22.9%、2025年~2030年は14.4%、次の5年は6.8%の伸びに徐々に減速していくとしている。EV販売シェアは、2023年には18%に達し、IEAは「主要市場でアーリーアダプターから大衆市場へと普及がシフトし、新たな局面を迎えている」としている。
EVは着実に普及が進んでいるものの、2020年以降の驚異的な成長“速度”が落ちているのは事実のようだ。アーリーアダプターから大衆市場へとシフトすれば成長は一段と加速するものだが、エンジン車との価格差が依然として大きいことに加え、充電スポットの整備が遅れていることや、バッテリーの進化が、“ムーアの法則”並みには進まないことが、成長速度の鈍化につながっているようだ。

EVは売れていないのか
しかし、主要市場の販売動向をみると、一概に“成長鈍化”とは言い切れないこともわかる。主要市場でのEVの販売動向をみると、中国では、2024年10月の自動車販売台数(含む輸出)が、305.3万台(前年比+7.0%)。そのうち、EVは143万台(同+49.6%)で、うちBEVは84.2万台(同+30.3%)、PHEVは58.7万台(同+89.4%)。EVは2024年5月以来、5か月ぶりの前年比プラスとなっている。中国政府は、EV購入時の補助金政策を2022年末で一旦終了していたが、2024年4月、新たに「以旧換新」として、消費者が古い車を廃車にしてEVに買い替える場合に補助金を支給する政策を打ち出し、7月には補助金額を当初の2倍に引き上げているが、その効果が出てきているようだ。また、10月の自動車販売に占めるEVの販売シェアは46.8%と、既往最高を記録。2027年にEV販売シェアを45%とする国家目標を単月ながら達成したことになる(2024年1月~10月では39.6%)。中国市場では、EVが年間1,000万台を超えるペースで販売され、シェアも着実に上昇している。補助金政策が効いていることは確実ではあるが、技術的なノウハウ含めて、中国がEV強国の地位を固めつつあることは間違いないようだ。
*BEVはバッテリーのみを動力とする電気自動車、PHEVはプラグインハイブリッド車。
通常、BEVとPHEVを合わせてEVとしている。

もう一つの主要EV市場である、EUの販売動向を見てみると、2024年9月の乗用車販売台数は80.9万台(前年比▲6.1%)。そのうちEVは19.5万台(同▲0.1%)で、うちBEVは14万台(同+12.5%)、PHEVは5.5万台(同▲22.3%)である。EVは、域内最大市場であるドイツでの販売不振が響き、2024年5月から5か月連続の前年割れだ。また、9月の自動車販売に占めるEVの販売シェアは24.0%となっている。

2024年1月~9月の累計では、乗用車が798.8万台、うちBEV104.8万台、PHEV55万台で、合わせて159.8万台で、EVの販売シェアは20.0%となり、2023年通年の22.3%から若干の低下となっている。EVの販売シェアは、2020年の10.5%から2021年の18.0%、2022年の21.6%と順調に拡大してきたが、ここにきて20%強で足踏みが続いているのは事実だ。

ただ、EUは、国ごとの普及率に大きな差があることには注意が必要だ。2024年1月~9月の累計で、EU全体の乗用車販売台数に占めるEVシェア上位5か国は、スェーデンの56.9%、以下、デンマークの52.3%、フィンランドの48.3%、オランダの46.3%、ベルギーの43.0%(ノルウェーはEU非加盟国)。逆に、最もシェアが小さいのはクロアチア、スロバキアの4.8%となっている。乗用車販売台数上位5か国のEVシェアをみても、ドイツが19.3%、フランスが25.0%、イタリアが7.3%、スペインが10.8%、ポーランドが5.7%、と国により格差が大きい。ちなみに、欧州全域を見渡すとノルウェーは驚異の91.0%、英国は26.1%だ。
米国市場は、EV後進国と言われながらも、メーカーによる魅力的な商品投入や、バイデン政権の“グリーン・ニューディール政策”の下で、補助金が拡大したこともあり、販売シェアを徐々に拡大させつつあるようだ。報道等によれば、2021年には3%程度だったものの、2023年は8%程度、2024年は1月から9月までの累計で10%程度のシェアを占めているようだ。何かとネガティブなニュースフローが目立つので、販売も足踏みしているのかと思いきや、着実にシェアを拡大させていることには注目したい。
“EV市場の成長鈍化”と言われながらも、市場シェアの観点からみれば、欧州では足踏みが見られるものの、世界最大の自動車販売市場である中国では着実に成長を続けているし、世界第2位の市場である米国市場でも、二桁のシェアを獲得するまで成長してきていることは認識しておく必要があるだろう。
自動車の進化の方向性は変わらない
トランプ政権の誕生で米国の気候変動対策が大きく変わる可能性はあるものの、内燃機関車からEVへのシフトは、脱炭素社会実現に向けた重要なピースの一つであることには変わらない。また、成長足踏みの要因であるバッテリー性能も、研究開発が進み、性能向上は日進月歩だ。加えて、EVは、これから開発競争が激しくなるSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)とほぼ同義と言っていい。そこでもAI、半導体が鍵を握ることになるが、いずれにせよ、2010年代以降、急速に進んできた自動車の進化の方向性は変わらないだろう。トランプ氏も、大統領選挙期間中はIRAによるEV向け補助金の削減を主張していたが、EV支援が“Make America Great Again”にプラスであれば、EV拡大の方向に政策を変えてくる可能性も考えられる。
日本は、今のところ、EVの販売では存在感が小さい。上記、IEAの「EV Outlook 2024」では各国の現状についての言及があるが、“日本”についての言及はない。まだまだ、日本では、EVに“馴染みがない”ことから、世界の現状にやや反応が薄い雰囲気も感じるが、世界の自動車市場でのEV化は着々と進んでいる。自動車は日本経済を支える屋台骨の一つ。市場の成長スピードが減速する足元の状況は、日本にとって、巻返しのチャンスだ。トランプ政権から何が出てくるのか読めないが、世界の動きをみていると、自動車市場は官民が呼吸を合わせ、協力していくことが必要だということが分かる。EV市場での巻き返しに期待したい。日本もやれるはずだ。

佐久間 啓
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。