これから“日本株式会社”はどう動いていくのか

~法人企業統計から見える日本企業の“過去”と“現在”~

佐久間 啓

先日、財務省から法人企業統計(以下、本統計)が公表されている。本統計は日本の法人企業活動の実態を明らかにする目的で行われているもので、業種別、規模別(資本金ベース)に、損益計算書、貸借対照表に対応する各項目が集計されている。また、本統計には、四半期ごとの仮決算計数を調査する「四半期別調査」と、確定決算計数を調査する「年次別調査」がある。今回、「年次別調査」の2023年度分が公表されたが、年度末から約5か月遅れでの公表となるため、“過ぎた話”としてマーケットで話題になることは少ない。しかし、対象とする母集団は年次別調査で294万社に及ぶため、日本の企業活動全体の動きが把握できる有用なデータである。まさに、“日本株式会社”の記録と言えるものだ。今回のMarket Side Mirrorでは本統計の「年次別調査」から、売上高、営業利益と経常利益の関係、キャッシュフロー動向(いずれも金融・保険を除く)について、企業活動の移り変わりと現在位置を確認しておきたい。

過去最高の売上高でも、長期でみれば“ほぼ横ばい”

2023年度の全体の売上高は、過去最高となる1,633.3兆円、前年比+3.5%。経常利益も初めて100兆円を超え、過去最高となる106.8兆円、前年比+12.1%となり、3年連続の増収増益となった。平成バブル崩壊以降、3年以上増収が続いたのは「いざなみ景気」の2003年から2007年の5年連続増収以来となる。直近3年は、コロナ禍からの経済回復の中、世界的なインフレから原材料価格の上昇が続き、円安の動きも加わって製品等の値上げが相次いだことが売上げを押し上げている。

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ただ、2000年を100とした水準で見ると、全体の売上高は、113.8にとどまる。規模別にみると、大企業(資本金10億円超)は113.9、中堅企業(資本金1億円超10億円以下)は152.3、中小企業(資本金1億円以下)は101.7となっており、中堅企業の堅調さと中小企業の厳しさが目立つ。2000年から2023年まで23年間のCAGR(Compound Annual Growth Rate、年平均成長率)は、全体が+0.56%。大企業は+0.57%、堅調な中堅企業でも+1.85%、中小企業は+0.07%と厳しい数字だ。この間の名目GDPが110.9、消費者物価が108.5にとどまることを考えると当然と言える数字ではあるが、少子高齢化による市場構造の変化と粘着性の高いデフレの中で、なかなか売上げが伸ばせてこなかったことがよく分かる。

一方、東証の決算短信集計から上場企業の売上高をみると、2023年度は908.3兆円、前年比+3.6%。2000年を100とした水準では181.1、CAGRは+2.61%。重なる部分の大きい本統計の大企業に比べて、高い売上高成長を実現している。この違いはどこから来るのか?実は東証の決算短信集計は内外の小会社等を含めた連結決算計数の集計であるが、本統計では国内法人単体の売上げを調査・集計しているという大きな違いがある。

つまり本統計では、日本企業の海外事業を捉えきれていないということだ。国内A社(売上げ100)が海外のB社(売上げ100)を買収、100%子会社にした場合、A社の連結売上げは200に増加するが、A社の単体売上げは100のままということなので本統計ではA社の売上げは100、短信集計では100→200に増加する、という図式だ。「国内法人単体の売上げ」を調査、集計しているという点が本統計の数値を見る場合に注意しなければいけない重要なポイントだ

企業の海外事業活動については、Market Side Mirror2024年9月19日付「企業の海外事業活動はピークを迎え、国内回帰が進むのか?」でもみたが、経産省の「海外事業活動基本調査」によれば、2022年度末で海外に現地法人を持つ企業は10,000社を超え、現地法人数は24,000社にのぼり、売上高は361.5兆円まで拡大している。売上高は、2000年を100とした水準では280.2、CAGR+4.80%と、国内事業とは段違いの拡大スピードだ。

1990年代以降、多くの日本企業が、日本国内での少子高齢化による市場構造の変化と粘着性の高いデフレの中で、海外市場の成長を取り込むことで売上げを拡大させてきた。そうしたなか、ここにきてようやく、デフレの出口の明りが見え始めた。値上げの動きも活発だ。加えて、コロナ禍での混乱と、地政学リスクの高まりからサプライチェーンの再編も大きな課題になっており、国内での投資拡大の動きも出てきている。売上げが拡大する場所で、雇用も生まれ、イノベーションが進み、成長が加速する。海外進出しなければ成長できないという声は依然強いが、このまま、国内でも持続的に売上げ拡大が見られようになるか注目だ。

経常利益を支える営業外収支、営業外収支を支える海外事業収益

次に営業利益率と経常利益率の関係についてみてみたい。日本企業の売上高利益率は、1990年代まで、「営業利益率>経常利益率」という関係が当たり前のように続いていたが、2004年以降、その関係が逆転。コロナ禍以降、その差が拡大している。つまり、「経常利益=営業利益+営業外収支」であるので、1990年代までは営業外収支がマイナス、2004年以降はプラスになり、その幅を拡大させているということだ。

なお、利益率の計算では、除く純粋持株会社の計数を用いて計算している。ご存じの通り純粋持株会社は子会社の株を持ち、経営管理をすることが主たる業務であり、売上げは子会社からの配当等に限られるため、売上げ規模の割に利益(率)は大きく(高く)なりがちである。本統計は法人単体を集計していることから、純粋持株会社とその子会社群が重複計上され数字が膨れている可能性があるため調整している。

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営業外収支は金融収支とその他収支に分けられるが、本統計の「年次別調査」では営業外収支の内訳項目がないため、「四半期別調査」の後方4四半期平均値を使って詳細をみてみると、この間の営業外収支のプラス転換は、金融収支のマイナスからプラスへの転換が大きな要因であることが分かる。この金融収支のダイナミックな変化は、借入金の削減、低金利環境継続による支払利息の減少で説明できる部分も大きいが、注目すべきは2002年から2008年の“いざなみ景気”以降の受取利息等の拡大だ。

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売上高のところでみたように、日本企業は、成長を求めて海外進出を進めてきた。対外直接投資残高は307.7兆円(財務省、2023年12月末)に上る。足元、企業は年間投資キャッシュフローのうち3割程度を投融資に振り向けているが、その大宗は海外だ。そうした投融資先からの利息・配当金等が、直近の円安傾向もあり、金融収支のプラス幅拡大を支えている。

また、本統計が“国内・単体”で集計されているため、親子間の取引であっても連結相殺されることなく、片側だけ計上されていることから、海外事業活動の規模が大きい大企業で、特に利益率スプレッドが大きく出ている。ただ、経常利益率>営業利益率の関係は、大企業だけではなく、中小企業でも見られるということは押さえておいた方がいいだろう。

いずれにしても、経常利益ベースの企業の稼ぐ力は確かに強くなったが、営業利益率の動きをみると、国内事業での稼ぐ力は顕著に改善しているとは言いにくいのが現状だろう。また、経常利益ベースの稼ぐ力が強くなったと言っても世界基準で見れば、決して高いわけではない。税引き前で二桁のレベルに乗せないと、安定的なROE二桁の実現は厳しいだろう。足元では、積極的な設備投資の動きや、「金利ある世界」の到来も予想されるなか、借入金利子率も2021年3Qには過去最低となる0.8%を付けた後、じりじり上昇、2024年2Qには1.2%を記録している。営業外収支が経常利益を下支えする構図も決して安定的とは言えない。低金利のうちに、生産性向上、資本効率向上により、国内事業の稼ぐ力を改善していくことが求められていると言えよう。

有形固定資産投資以外の投融資で投資CFは拡大、フリーCFはマイナス

次に、キャシュフローの動きについてみてみたい。企業活動を知る場合、資金の動きを表すキャッシュフロー(以下CF)計算書を見ることで企業がどういったところに資金を使い、それをどういった形で調達しているのかを知ることができる。本統計でも資金の動きにフォーカスした項目があり、大まかなCF計算書を作成してみた。

CF計算書は営業CF(内部留保、減価償却費、会社間信用等、営業活動にかかわるCF)、投資CF(在庫、設備投資、土地、投融資にかかわるCF)、財務CF(外部資金調達にかかわるCF)からなり、「フリーCF(営業CF-投資CF)+財務CF=当座資金増減」という関係にある。

1980年度以降のCFでフリーCF(営業CF-投資CF)の動きをみると、平成バブルの時代に活発な投融資活動で投資CFが拡大し、フリーCFは大幅なマイナス。そのマイナス埋めるため財務CF、つまり外部からの資金調達が拡大した。この時期は、中小企業でのフリーCF不足が大きく、以降、過大投資に長く苦しめられることになる。バブル崩壊以降は所謂“バランスシート調整”に入り、投資は営業CFの範囲内に抑える期間が長く続き、一時的にフリーCFがマイナス(=投資超過状態)になる局面もあったものの、基本的にフリーCFがどちらかに傾くことはなかった。しかし2016年度から規模別には大企業中心であるが、フリーCFが継続的にマイナスとなっている。大企業は内部留保を積み上げるばかりで設備投資に消極的といった意見もあるが、CFベースで見れば、平成バブル期に並び、積極的な投資活動が展開されるようになってきていることが分かる。

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営業CFの内訳をみると、2000年頃までは減価償却費が中心だったが、平成バブル崩壊以降、過剰設備と言われる中で設備投資を抑える動きが続いたこともあり、減価償却費は横ばいの一方、バランスシートの再構築を図る動きと合わせ、利益の拡大で内部留保のウェイトが拡大している。

投資CFについては、いつの時代もメインスリームは設備投資であるが、平成バブルの時代は土地・在庫等への投資が大きく拡大していた。2000年以降は株式への投資が目立ち始めたが、2016年以降の投資CFの拡大は株式に加え、その他の投融資の積み増しが大きく貢献している。株式やその他融資を含めた投資の拡大は、海外事業の拡大期と軌を一にしている。最近では中期経営計画の中で、設備投資計画と合わせ、M&A関連の投資計画を打ち出す企業もあり、こうした動きが本統計にも表れているものと考えられる。

また、株式、貸付等を中心とした投融資の拡大は、バランスシートの各項目にも大きな影響を与えている。設備投資(有形固定資産)は積み増しても減価償却により減価されるため、大幅な積み増しをしない限り簿価の増加ペースは緩やかだ。一方、株式等投融資は減損リスクがあるが、基本的にフローに応じて簿価は増減していく。本統計によれば、2023年度の“日本株式会社”の総資産は2,195.6兆円、うち「現預金」が301.8兆円、「土地」が200.7兆円、「土地を除く有形固定資産」が331.5兆円、「投融資うち株式」が372.6兆円、と主要項目では株式が最大だ。

これまでみてきた通り、本統計だけで日本の企業活動の全体像を把握することには限界がある。ただ、長い時間、企業がどういった行動を積み重ねてきたのかを知ることができる貴重な統計だ。ここにきて、ようやくデフレから脱却し、名目GDPが継続的に拡大する世界も期待できる状況になってきている。日本の企業行動がどう変わっていくのか、本統計を通して注意深くみていきたい。

以上

佐久間 啓


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。