アニマルスピリッツ指数は上向き

~景気に先行する敏感指標~

熊野 英生

要旨

経済産業省が、生産統計の予測指数から加工している「アニマルスピリッツ指数」というものがある。トレンド調整をしたDIは、時系列でみて上向きになっている。日銀短観とも連動し、かつ先行性がある。この指標に基づくと、少なくとも景気拡大が2025年初まで継続する見通しになる。

目次

指標は上向きに

「アニマルスピリッツ指数」をご存知だろうか。経済産業省が作成する、生産活動から導いた加工統計である。この指標は、鉱工業生産統計にある生産予測指数を調べて、翌月の予測計画が、その前月から上方修正された企業の割合と、下方修正された企業の割合を比べて、その差分をDI化にしたものだ。例えば、2024年8月予想では、上方修正企業の割合が28.2%(トレンド調整後)で、下方修正企業の割合が25.5%だった。その差分(DI)は+2.7%ポイントである。経済産業省は、これを「生産活動マインド指標」とも呼んでいる。このDIの推移をみると、2024年3月にマイナス圏を抜けて、それ以降はプラス幅を広げている(図表1)。生産計画を上方修正する企業割合は、増えていく方向という意味である。

(図表1)アニマルスピリッツ指数
(図表1)アニマルスピリッツ指数

経済産業省は、このDIが▲5を下回ると、景気後退局面入りしている可能性が高いとしている。筆者は、日経平均株価の伸び率がピークアウトしたので、景気には後退リスクがあると理解しているが、このアニマルスピリッツ指数は景気後退ではないというシグナルを発している。景気判断をするときは、複数の敏感指標にも注意を払わなくてはいけない。

日銀短観との連動性

このアニマルスピリッツ指数は新しい指標であるが、非常に興味深いことに、日銀短観とも相応に連動する。日銀短観の大企業・製造業の業況判断DIは、景気敏感指標として有名だ。その業況判断DIの前年差(直近のDI-1年前のDI、月次化したデータ)を並べてみると、何とアニマルスピリッツ指数の方が6か月間ほど先行して動いている(図表2)。これは、日本の製造業の生産計画が上方修正されるときは、製造業の稼働率が上がり、半年後には企業の経常利益率も上がっていくから企業マインドも改善していくという流れを反映しているのだろう。

(図表2)アニマルスピリッツ指数と日銀短観
(図表2)アニマルスピリッツ指数と日銀短観

このアニマルスピリッツ指数の改善が8月計画の時点で上向きであるとすれば、少なくとも半年後の2025年2月まで企業収益の改善が見込まれるという見通しになる。

このデータには織り込まれてはいない材料に、FRBの利下げ開始がある。2024年9月のFOMCで▲0.50%ポイントの利下げを決めた。年内にもう▲0.50%ポイントの追加利下げを予定する。その効果は、冬のクリスマス商戦を下支えして米景気をソフトランディングさせる効果を持つだろう。米国には過去、FRBが利下げをすると、それに遅れて景気後退が起こることが多かったという経験則がある。今のFRBはこれを頭に入れて、9月に▲0.50%ポイントという大幅の利下げをしたのだろう。

半導体サイクル

なぜ、アニマルスピリッツ指数は景気敏感な先行指標なのだろうか。元データの生産予測指数では、電子部品デバイスや生産用機械の予測指数の振れ幅が大きく、全体の方向感を作っている。つまり、日本の生産活動は、海外と連動した半導体需要の裾野にあり、半導体関連の電子部品デバイスや生産用機械の生産計画も動かされやすいのであろう。足元では、世界半導体売上の伸び率はまだまだ好調であり、そのため、アニマルスピリッツ指数も良好なのだと考えられる(図表3)。

(図表3)アニマルスピリッツ指数と半導体売上
(図表3)アニマルスピリッツ指数と半導体売上

このアニマルスピリッツ指数と半導体需要の連動性が高いことは、過去、アニマルスピリッツ指数のDIが▲5を下回った時期に、やはり半導体売上が前年比マイナスに転じることが多かったことからもわかる。

過去15年間で、DIが▲5を下回ったのは、①2021~2023年、②2018~2020年、③2014・15年、④2011・12年の4回である。しかし、①と③は景気後退期とは判定されていない。実は、同時期は日経平均株価も下がっていて、景気悪化が進んでいたことは確かなのだ(図表4)。

(図表4)日経平均株価の前年比
(図表4)日経平均株価の前年比

では、なぜ、この時期にアニマルスピリッツ指数のDIが下がっていたのかと言えば、半導体需要の悪化を反映していたからだろう。③の2014・15年はアニマルスピリット指数が半導体売上の減少に先んじて落ち込んだ。①2021~2023年についても、コロナ禍で盛り上がった世界的なテレワーク需要でノートPCが大幅に売れたブームの後の大きな反動減に先行してアニマルスピリット指数が▲5を割り込んで推移していた。その期間の後、半導体売上は2022年6月から2023年8月まで前年比マイナスであった。この時期は、日経平均株価も半導体需要の悪化と軌を一にして下落したが、マクロ景気は減速の範囲内で踏み止まった。現在は、株価がピークアウトしてきているものの、今のところは世界半導体売上は好調である。

米国のISM製造業景気指数などは、すでに減速感を明確にして好不況の分かれ目の50を割り込んでいるから、今後の半導体需要がそれに引きずられて悪化する可能性は排除できない。筆者は、まだ要注意の警告ゾーンにあると思っている。

「今回は違う」説の可能性

現在の景気拡大局面は、コロナ禍の初期2020年5月を谷にして、もう4年間以上も続いている。だから、もうそろそろ景気後退になってもおかしくないという見方もできる。

しかし、前述のように半導体需要が世界的に落ち込んだ2021~2023年の期間に景気が持ちこたえて、2023年秋から再加速したことを加味すると、2024年中に景気失速するというのは少しタイミングが早すぎる気もする。

筆者が、日経平均株価がピークアウトしたときに、それが景気後退のシグナルだと判断したのは、過去の経験則を重視したからだ。しかし、その経験則通りに景気悪化がすぐに顕在化はしていない。「今回は違う」という可能性を完全には否定できないのが実情だ。

海外では、AIブームはまだ2022年に始まったばかりで、世界中でデータセンター需要が強まっている。AI関連の大手企業の業績も好調である。ChatGPTが次々に新しいモデルを発表するなど、このブームはまだ長持ちする可能性は十分にある。日本企業もこの半導体需要の恩恵が大きく、業績拡大を遂げられそうだ。日米株価も、8月初と9月初に大きく急落したが、米国株価に関しては再び持ち直しつつある。米国の株価下落が、一時的な過熱感の反動に過ぎなかったという見方もできる。やはり、見極めには少し時間を要すると考えた方がよい。

熊野 英生


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