企業の海外事業活動はピークを迎え、国内回帰が進むのか

~そこに市場と需要がなければ企業は動きにくい~

佐久間 啓

要旨

日本企業はコロナ禍で、サプライチェーンの混乱による生産ラインの停止を余儀なくされた。また、地政学リスクの高まりとともに、経済安全保障面での重要物資の自国生産の重要性の高まり、財政措置を含めた政策対応も動き出している。加えて、2022年以降の大幅な円安の動きが、相対的な国内生産のコスト競争力の引き上げにつながっていることもあり、国内での製造拠点の新設、既存工場の整備、拡充といったニュースフローも増えてきている。

特に、世界で圧倒的な最先端半導体製造技術と製造シェアを持つ台湾のTSMCが熊本県に進出したことで、国内の関連企業が動き、特に九州地区に強烈なインパクトを与えているが、これを契機に、これまでの動きに明確な変化が表れてくるのだろうか。

目次

「海外事業活動基本調査」でみる日本企業の海外事業活動

これまでは、少子高齢化、人口減少で多くの分野で国内市場の縮小が進んでいることに加え、長く円高傾向が続いたことで、製造コスト、市場規模、成長性といった観点から、海外進出が進んできたことはご存じの通りだ。

経産省「海外事業活動基本調査」によれば、海外に現地法人を持っている企業(除く金融・保険)は、2022年度末で10,000社を超える。日銀短観によれば、海外での事業活動を行っている連結企業グループ最上位の親会社うち 資本金10億円以上の民間企業で、連結ベースの海外売上高比率の2024年度の見通しは、製造業で58.4%、非製造業で27.6%、全産業で44.5%にのぼる。

そこで、日本企業の海外事業活動の現在位置について、もう少し詳細に確認しておきたい。上記の「海外事業活動基本調査」(以下、基本調査)では、2022年度が直近資料となるため、足元のダイナミックな動きは十分反映されていない可能性があることには注意が必要だ。

2022年度実績調査では、有効発送数10,073社、回収数7,285社。うち有効回答(操業中)企業数は、本社企業6,903社で、その保有する海外現地法人24,415社、うち製造業が10,433社、非製造業が13,982社となっている。地域別では、アジアが16,547社と全体の67.8%を占める。主な国別では、中国に5,823社、米国に2,856社、タイに2,293社、ベトナムに1,223社、インドネシアに1,104社、以下香港、シンガポール、台湾と続いている。

海外現地法人数は2018年度の26,233社をピークに減少傾向にある。2022年度の新規設立は180社、撤退(撤退、解散、出資比率低下)は720社。新規設立はこのところ減少が続いている一方、撤退は2013年度以降の10年間でみても、年平均で678社(最小=2013年度:554社、最大=2021年度:792社)にのぼっている。こうした動きが全体の減少傾向の要因だ。

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2022年度の海外現地法人の売上高は、361兆5,358億円。コロナ禍からの回復に加え円安が進んだことから前年比+19.2%の大幅増収となっている。対して、本社企業の売上高は417兆2,579億円。単純な、海外売上高比率は46.4%だ。ただし、本社企業と現地法人間の輸出入については相殺等の調整は行っていない点には注意が必要だ。

海外売上高比率は2021年度、2022年度こそ、コロナ禍からの経済回復、インフレ、円安が重なったことから大きく上昇しているが、2014年度から2020年度にかけては、ほぼ横ばいの動きだったことが分かる。現地法人の新規設立が減少していることからみても、海外事業活動のモメンタム自体は落ちてきていると考えても良いのかもしれない。

順調な売上から、2022年度の経常利益、純利益はそれぞれ、19兆6,434億円、16兆529億円といずれも過去最高を記録している。それに伴い日本側出資者向け支払は配当金、ロイヤリティー合わせて64,005億円と、こちらも過去最高となっている。ただ、このデータから計算すると、売上高経常利益率は5.43%、売上高純利益率は4.44%であり、とてもではないが高収益率とは言えないレベルに止まる。

次に常時従業者数についてもみておきたい。2022年度の海外現地法人の常時従業者数は、557.4万人。うち製造業は408.5万人、非製造業は149万人だ。本社企業が、それぞれ、473.7万人、264.7万人、209万人。海外比率は全体で54.1%、製造業は60.7%、非製造業は41.6%と計算できる。製造業については足元で、海外現地法人の人員が本社企業のそれを上回っているということだ。

国内事業活動を集計した法人企業統計との比較

売上高、常時従事者の規模をみると、今や日本企業の海外事業活動は、その拡大モメンタムこそ落ちてきているものの、国内での事業活動の補完というレベルではなく、主要活動領域と言える規模感だということがわかる。ただ、基本調査は海外現地法人を持っている企業のデータであり、日本企業全体の動きを表しているわけではないことは言うまでもない。そこで、企業の国内での事業活動を集計している財務省「法人企業統計(以下、法企)」と主要項目について比較しみたい。

図表
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売上高についてみると、2000年度を100として、2022年度は法企全産業が110.0、製造業103.6、非造業112.6。22年間で全体は1.1倍、この間のCAGR(Compound Annual Growth Rate、年平均成長率)は、それぞれ、+0.43%、+0.16%、+0.54%となる。表面的には平成バブルの後始末が終わった時期ではあるが、少子高齢化による市場構造の変化と粘着性の高いデフレの中で、国内事業(含む輸出)では売上げを伸ばせていないということだ。一方、基本調査は、2000年度を100として、2022年度は全産業が280.2、製造業が288.3、非製造業が274.0。CAGRはそれぞれ、+4.80%、+4.93%、+4.69%と、国内事業とは桁違いの高い成長を達成している。

2022年度には、法企全産業の売上高1,578兆円に対し、基本調査の売上高は362兆円、海外事業売上高比率は18.6%に達している。この間、海外現地法人等を通じて、海外市場で直接事業展開しないとなかなか売上高が伸ばせないという状況が続いていたということだ。

次に人員についてみると、2000年度を100として、2022年度は法企全産業が107.2、製造業76.4、非製造業119.4。22年間のCAGR(Compound Annual Growth Rate、年平均成長率)は、それぞれ、+0.32%、▲1.22%、+0.81%となる。一方、基本調査では、2000年度を100として、2022年度は全産業が161.5、製造業が145.6、非製造業が230.3。CAGRはそれぞれ、+2.20%、+1.72%、+3.87%と、製造業もプラス成長を実現している。

図表
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人員について、製造業では、法企ベースでみると1994年度に1,410万人とピークを記録、その後長く減少が続いていたが、2020年以降は下げ止まりの動きとなっていることには注目したい。海外事業の売上高については、インフレによる製品価格の値上げに加え、円安の動きもあり、2021年度、2022年度と大きく上振れしているところがあるため、トレンドを掴みづらいが、人員でみると2018年度に一旦、ピークをつけたようにもみえる。これまで拡大一途だった、日本企業の海外展開も潮目の変化を迎えているということだろうか。

国内投資に動く理由はあるが、「市場が、需要が、そこにある」?

先述の通り、海外現地法人数も2018年度に一旦ピークを付けているので、当然の動きと言えばその通りであるが、果たしてこの動きが、日本企業の能動的・戦略的な動きなのか、それとも受動的な動きなのか気になるところだ。つまり、より高付加価値化・効率化を狙った事業再編のための整理・撤退や、サプライチェーンの再編・強化に向けて事業拠点の日本国内回帰に伴う動きなのか、それとも現地企業含め、競合他社の成長で自社の競争力が低下し、期待通りの収益があげられなくなったことによる整理、撤退なのかという点だ。

このところの地政学の変化に伴う経済安全保障の強化や、デジタル・脱炭素社会の実現に向けて、企業による設備投資意欲が強まっている。加えて、ようやく本当の意味で、平成バブルの後始末が終わり、物価も賃金も動き出したことから、“国内投資”が注目を集めている。最近の海外事業活動の変化には、こうした環境変化を踏まえた戦略的なものも多いはずだ。ただ、海外進出の最大の理由は、「市場が、需要が、そこにあるから」だ。国内事業拠点の拡充に関するニュースフローは増えているが、まだ、国内の生産能力には明確な下げ止まりの動きはみられない。いずれにしても、潮目の変化は感じるものの、それが、本流の変化にまで繋がるのか、それが分かるにはもう少し時間がかかりそうだ。

以上

佐久間 啓


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。