武器になる経済指標 武器になる経済指標

日銀は泣いて第一の力を斬る?

通貨防衛的な利上げもあり得る状況に

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月44,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月150程度で推移するだろう。
  • 日銀は7月に追加利上げを実施するだろう(政策金利は+0.25%)。
  • FEDは9月に利下げを開始、FF金利は25年末に4.00%(幅上限)への低下を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。S&P500は+0.6%、NASDAQは+0.2%で引け。VIXは13.2へと上昇。

  • 米金利はブル・フラット化。予想インフレ率(10年BEI)は2.265%(▲1.2bp)へと低下。実質金利は1.892%(▲6.0bp)へと低下。長短金利差(2年10年)は▲26.2bpへとマイナス幅拡大。

  • 為替(G10通貨)はUSDが中位程度。USD/JPYは158前半へと上昇。コモディティはWTI原油が80.8㌦(▲1.1㌦)へと低下。銅は9663.5㌦(▲142.5㌦)へと低下。金は2467.8㌦(+38.9㌦)へと上昇。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ(前日差)
米国 イールドカーブ(前日差)

米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)
米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)

米国 長短金利差(2年10年)
米国 長短金利差(2年10年)

米国 イールドカーブ、前日差、名目金利・予想インフレ率・実質金利、長短金利差
米国 イールドカーブ、前日差、名目金利・予想インフレ率・実質金利、長短金利差

経済指標

  • 6月小売売上高は前月比±0.0%と市場予想(▲0.3%)を上回り、前月分も上方修正された。GDP個人消費の推計に用いられるコア小売売上高(除く自動車・ガソリン・建材)は同+0.9%と強く伸びた。この指標は振れが大きく過去分の修正も多いことから単月の数値を重視すべきではないが、過度に引き締め的な金融政策が個人消費の急減速を招くとの懸念を和らげた。

米国 小売売上高
米国 小売売上高

注目点

  • 日銀(植田総裁)は、コスト増(主に輸入物価上昇)を価格転嫁する動きを「第一の力」、賃金上昇に由来する物価上昇圧力を「第二の力」と大別している。日銀が現在のインフレを説明する際に用いている概念図では、水色部分が第一の力、桃色部分が第二の力として示されている。

図表6
図表6

  • 現時点において「第一の力」と「第二の力」のどちらが理想的かと言えば、それは有無を言わさず後者であろう。第一の力は「賃金を犠牲にしてまでも値上げは我慢」というデフレマインドの染みついた企業行動を変容させたという点において大きな役割を果たしたが、それ自体は決して国民の厚生を改善させるものではない。それに対して、賃金上昇を後ろ盾に個人消費が加速し、需給ギャップが引き締まり、その結果として物価が上がるという波及経路は典型的なデマンドプル型のインフレで、日銀が長年追い求めてきたものである。そうした状況になれば、日銀は緩和的な金融政策の手仕舞いを着実に進めることができる。その結果として日米金利差が縮小し、円安も収まるのであれば現在の日本にとって理想的であろう。

  • もっとも、現実は個人消費が横ばいないしはマイナスであり、第二の力に起因するインフレ圧力がどれほど発生しているかは不明確なところがある。個人消費が減少基調にあるという事実から逆算すれば、現在のインフレはほぼ全て「第一の力」によるものであるとすら言え、日銀の判断を難しくさせている。実際、消費者物価指数における寄与度上位は食品、宿泊費(教養娯楽サービス)であり、どちらも円安による効果を多く含んでいる(後者は円安によるインバウンド増加を通じた効果)。

消費者物価(寄与度分解)
消費者物価(寄与度分解)

  • これまで日銀は2025年度にかけて物価上昇のけん引役が、第一の力から第二の力へ引き継がれるとの理想的な見通しを示してきた。ただし、ここまで円安が進行すると、強すぎる第一の力が、成長過程にある第二の力を駆逐してしまう恐れがあるだろう(概念図の水色部分が桃色を浸食)。円建て輸入物価は6月に前年比+9.5%とプラス幅を拡大し、2020年平均を100とする指数水準は172と高止まりしている。一次産品価格の安定を背景に契約通貨建てでは同+0.3%と抑制されているものの、円安の影響が効いている。

輸入物価
輸入物価

  • 日銀は個人消費が弱い中、利上げは国内経済への悪影響が大きいとの判断から、為替対策に傾倒した政策態度には距離を置いてきた。しかしながら、弱い個人消費の理由が「円安」という判断になるならば話は変わってくる。日銀の利上げによって円安が止まるかは別としても、個人消費を回復させるための手段として利上げが現実味を帯びてくる可能性には注意したい。第一の力を減じることで、インフレの質を改善させるとの判断に至っても不思議ではない。また日銀は金融システムレポート(https://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/fsr240418.htm)において、利上げによってマクロ的な家計の金利収支が改善するという試算結果を示している。こうした経緯を踏まえると、「利上げによって個人消費回復」という説明経路もあり得るように思える。政府や国民から日銀に対して円安抑制をすべきとの外圧が強まる中、日銀が通貨防衛的な色彩を帯びた利上げを模索している可能性はありそうだ。

図表I-9 金利関連収支の変化
図表I-9 金利関連収支の変化

  • 上記のような背景もあり、筆者は7月の金融政策決定会合において利上げと長期国債の買入れ減額を同時決定するとの予想を維持している。もっとも、金融政策決定会合を2週間前に控えた現時点において利上げに関する観測報道がほとんど出ていないことから判断すると、筆者の予想はやや「分が悪い」と言わざるを得ない。7月の利上げが見送りならば、利上げは9月になると予想される。

藤代 宏一


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