- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- 電気ガス代の軽減策の再開
- 要旨
-
岸田首相は、一旦は停止を決めたはずの電気ガス代への価格支援を8~10月に限って再開すると表明した。これは、激変緩和措置とされるが、従前の支援策の効果が大きかったので、それを元に戻すだけで影響が懸念されるからだ。一度始めた補助を止めるのは政治的に難しい。
補助は元に戻せない
岸田首相は、電気代・ガス代の補助を8~10月にかけて再び実施する方針を示した。6月からスタートする定額減税では支援が足りないという考えなのだろうか。
電気代の価格支援は、5・6月に従来の補助を段階的に停止して、間を置かずに再開するという方針転換だ。骨太の方針では、2025年度に基礎的財政収支の黒字化を掲げたのに、また財政出動を伴うような経済対策へと舵を切る。昨年、防衛増税・少子化財源の確保を決めた後、突然、定額減税を発表したときのような印象だ。やはり、政権基盤が強くないと、財政再建に一直線に進むのは難しいということを思い知らされる。昨年と同じく岸田首相が、右と左のどっちを向いているのか、わからなくなる。

また、秋には経済対策を策定し、年金生活者や低所得世帯にも給付を追加する方針のようだ。これも、定額給付金だけでは足りないという理解なのか。さらに、ガソリン補助を年内継続する。
骨太の方針には、官民併せて150兆円のGX投資の推進ということで、太陽光・風力発電の強化があった。電気代やガソリンなどの補助は、こうした脱炭素化政策と矛盾する。背中に一本の筋が通った政策ではなく、意図が異なる政策が混在することに戸惑ってしまう。9月末の自民党総裁選を前にして、岸田首相が何を考えているのかが伝わりにくい。
本当に物価対策か?
今回の措置は、物価対策とされるが、ここにきてエネルギー・コストがさらに高くなった訳ではない。東京電力の標準的電気料金(家庭用の低圧料金)を調べると、1~4月の平均7,522円から、5月8,137円、6月8,538円、7月8,930円へと累計18.7%も価格高騰する見通しだ(図表)。しかし、これは以前よりも高くなっている訳ではない。価格補助で低くなった状態が、元に戻っただけである。
ここにきての値上がりの要因は、主に再生エネルギー賦課金の引き上げ(5月+2.05円/kwh当たり)、価格支援策の停止(6・7月併せて+3.5円/kwh当たり)によるものだ。再生エネルギー賦課金は、一度大幅に下がった水準が戻ったものだ(2023年4月~)。価格抑制策も政府の「電気・ガス価格激変緩和対策事業」(2023年1月~)の見直しだ。つまり、電気代にかかっていた補助をなくすと、割高な状態に戻ることが許容できないという理屈だ。原油高が収まらず、円安も長期化しているので、補助なしの水準に戻しづらいのが実情だ。
岸田首相は、消費者物価全体を年末まで月平均0.5%ポイント以上押し下げる方針だという。総務省は、「電気・ガス価格激変緩和対策」の効果を消費者物価指数全体への押し下げで▲0.48%ポイントと見積もっている。8~10月はそのまま復活するかたちになる見通しだ。一方で、5月に元に戻った再生エネルギー賦課金の負担増は残る格好になる。
結局、内閣支持率の低さが、思い切った変化を許容できない政治的素地をつくっていると感じられる。一度、補助を始めると、元に戻すだけで割高になるので、その反発を恐れて補助を続けざるを得なくなる。これが10月に約束通りに終わるという保証はどこにもない。価格支援は激変緩和措置ではなくなり、内外物価の格差によって長い期間に亘って継続してしまうリスクがある。
しかも、定額減税も同時にやっているのだから、支援しすぎとの見方もある。今後、定額減税が一段落すると、またその反動対策を繰り返さなくてはいけなくなるリスクも加わる。
もっと根本的な物価対策を
国民の不満は、割高なエネルギー価格、食料品価格が続くことにある。輸入比率が大きいものは、内外価格差の影響を受けて値上がりしやすい。これを財政資金で穴埋めしても、時間稼ぎにしかならない。時間稼ぎをした後に、どうするかを決めてから始めないと、延々と時間稼ぎを続ける破目になる。政策はよく練ってから始めるべきだ。
では、時間稼ぎの期間にどうすればよいのか。まずは、過剰な円安を是正することだ。しかし、貿易赤字はそう簡単には縮小できない。原発再稼働、輸出拡大なども実行に移すのに手間取っている。複数の原発が稼働している関西・九州電力は、他の8電力の料金よりも▲13.7%も低い。8~10月の▲3.5円/kwhの補助が電気料金をだいたい▲10%引き下げるので、他の電力会社が原発の再稼働を2電力と同じくらいにすると、価格支援策以上に料金引き下げが可能になると考えられる。
日銀の追加利上げは7月末にも実施されると筆者はみているが、それが円安是正に一定程度効くと思われる。しかし、海外投資家などから、利上げ幅が小幅すぎるとみられると、円安傾向を十分には是正できない。
少し長いスパンでやるべきことは、賃上げを進めて、さらに実質賃金のプラスを目指すことである。労働生産性の向上こそが、実質賃金上昇の道となる。内外価格差は、日本の賃金が低すぎることが原因で、単なる分配政策では十分な賃上げはできない。
熊野 英生
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。