“投資詐欺広告”
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今回こそはこれまでと違う(This time is different)

内田副総裁の講演

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月41,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月145程度で推移するだろう。
  • 日銀は、10月に追加利上げを実施するだろう。
  • FEDは9月に利下げを開始、FF金利は年末に5.25%(幅上限)への低下を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国市場は休場。為替(G10通貨)はUSDが軟調。USD/JPYは157近傍で一進一退。

注目点

  • 5月27日に内田副総裁が講演を実施した。当面の金融政策に関する核心的な示唆は含まれていなかったが、講演の最後はデフレとゼロ金利制約との闘いの終焉について「今回こそはこれまでと違う(This time is different)」と締めくくられ、金融政策がこれまでとは違う軌道に乗ることを暗示した。講演原稿の中で特に気になったのは「不可逆」という表現が複数用いられていたこと。ここには「デフレに舞い戻ることはない」という含意があるのだろう。追加利上げの素地が整いつつあることを仄めかしたように思える。

  • 以下、副総裁講演を筆者なりにまとめ、それに対する受け止めを示す(太字部分は内田副総裁の講演原稿より抜粋)。

  • 内田副総裁は、デフレの終焉には「デフレのそもそもの原因を解消すること」「デフレ的なノルムの克服」が重要であるとした。後者については「答えは明白ではありません」とした一方、前者については、その不可逆的な解消について「自信を持って『イエス』と答えられます」とした。その背景説明として「労働市場の環境が構造的かつ不可逆的に変わったためです。この先、女性やシニア層から多くの追加的な労働投入を期待することには無理があります」と指摘した。構造的な人手不足が持続的な賃金上昇圧力として作用することで、企業の賃金・価格設定行動がインフレ方向に向かうとの見立てであろう。

  • バブル崩壊以降の慢性的なデフレについて、かつては「少子高齢化によって総需要が縮小するのだから、価格競争が続き、デフレが続く」との理解が一般的だった。それに対して、現在は「少子高齢化によって労働力の獲得競争が起きるので、供給能力は簡単には増えず、結果としてインフレ体質が定着する」という理解が浸透しつつある。副総裁は高齢化(従属人口比率の上昇)について、それがかつての慢性デフレの一因であるとしつつも「人口減少・高齢化自体が問題であると言いたいわけではありません。むしろ、人口減少・高齢化に起因する問題に対して、社会がうまく対応できなかった、あるいは、対応が緩慢であったようにうかがえる」とした。その一例として、シニア層(65歳以上)の労働参加率が上昇しなかったことに言及。「シニア層は昔よりもはるかに健康であるわけですが、2010 年代に入るまで、このことは一般的にならず、シニア層の労働参加率は、2012 年頃になって、ようやく上昇し始めました」とした。背景として「企業は、需要サイドに注目して、国内市場の縮小を心配する傾向が強かったですが、一方で、人口減少は労働力の減少も意味します。もっとも、こうした労働供給サイドの含意は、デフレ期には、あまり意識されてきませんでした。これは、企業にとっては、ある意味当然のことで、自社の雇用を過剰だと考えていたからです」と指摘。また「賃金面をみると、雇用の安定と引き換えに賃金は削減されました。また、企業は、退職者をパートタイム労働者で補おうとするようになりました」との認識を示した。生産年齢人口が減少に転じた1990年代後半以降、人口問題がマクロレベルの重要問題として強く意識されたことで、企業に縮小均衡思考が定着してしまったとの理解であろう。現在も、企業が将来的な需要減少を見越して固定費である人件費(特に正社員)を削減する構図(賃金マークダウンの上昇)は一部に残存しているかもしれないが、マクロ的に企業が直面している喫緊の課題は人手不足である。その遠因を、かつてのコスト削減優先による人的資本投資の不足、およびその結果として生じてしまった低労働生産性に求めたと筆者は理解した。そうした反省から、企業が労働生産性の改善に注力する中、女性や高齢者の追加的な労働投入量が限られていることを踏まえれば、やはり賃金面は「不可逆的」な変化が起きていると思われる。2年連続で非線形な上昇を遂げた春闘賃上げ率は、物価上昇率の低下を受けて2025年以降に幾分伸びが縮小すると予想されるものの、それ以前の状態に舞い戻る可能性が低下していることは、日銀の認識に大きな影響を与えているものと推察される。

  • 今回の講演が追加利上げの布石であるとは思えず、金融市場の反応も限定的であった。しかしながら、山は着実に動いている。年内の利上げ(新たな政策金利は+0.25%)、来年前半の追加利上げ(同+0.5%)の可能性は引き続き、高まっていると思われる。

藤代 宏一


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。