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2023.11.16
アジア経済
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フィリピン中銀、緊急利上げ後の米ドル高一服を好感して再び様子見
~切迫感は後退もインフレ見通しを巡る慎重姿勢は崩さず、一段の引き締めを迫られる可能性は残る~
西濵 徹
- 要旨
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- フィリピン中銀は商品市況の底入れ、及び米ドル高の再燃によるインフレ懸念の高まりが意識されたことを理由に、先月26日に緊急利上げに舵を切った。しかし、その後は米ドル高に一服感が出ていることに加え、政府が輸入関税引き上げ延期による物価抑制に動き、短期的なインフレ懸念が後退する動きがみられる。こうした状況を踏まえて中銀は16日の定例会合で政策金利を据え置く決定を行っている。緊急利上げに際して利上げが後手を踏んでいるとしたが、今回は一転して充分に緊縮的との認識を示すなど切迫感が後退している様子がうかがえる。ただし、インフレリスクは上向きであるなど慎重姿勢を崩さず、追加利上げに含みを持たせており、先行きの政策運営を巡って一段の引き締めを迫られる可能性はくすぶると予想される。
昨年のフィリピンにおいては、コロナ禍の一巡による経済活動の正常化の進展に加え、商品高と米ドル高に伴う通貨ペソ安が重なり、インフレ率が大きく上振れする事態に見舞われた。こうした事態を受けて、中銀は物価と為替の安定を目的に、昨年5月以降に断続、且つ大幅利上げの実施を余儀なくされるなど難しい対応を迫られた。なお、昨年末にかけては商品高と米ドル高が一巡するなどインフレ圧力の後退に繋がる動きが顕在化したものの、インフレ率は今年1月に約14年ぶりの水準となるなど昂進が続いたほか、その後は頭打ちに転じるも中銀目標を大きく上回る推移をみせた。よって、中銀は年明け以降も利上げを継続せざるを得ない展開が続いたものの、インフレが一段と頭打ちの動きを強めたことを受けて今年5月に1年に及んだ利上げ局面の休止に動き、その後は様子見姿勢を維持してきた。年明け以降の同国景気を巡っては、物価高と金利高の共存状態が長期化するとともに、ペントアップ・ディマンド(繰り越し需要)も一巡するなど家計消費に下押し圧力が掛かりやすくなっているほか、最大の輸出相手である中国景気が勢いを欠く展開をみせるなかで内・外需双方に頭打ちの動きを強めている。よって、中銀にとっては景気に配慮する形で様子見姿勢を採らざるを得なくなったと捉えることが出来る。さらに、4-6月の実質GDP成長率は丸3年ぶりのマイナス成長に転じるなど躓く動きが確認されたものの、これは在庫調整の進展に伴う下振れの動きがその一助となっていることを勘案すれば、その内容については過度に悲観する必要はないと捉えることが出来る。他方、7月に就任したレモロナ新総裁は、政策運営を巡ってメダラ前総裁と比べて『タカ派』傾向が強い考えをみせるとともに、物価安定に向けて政府による政策に注文を付けるなど、景気の不透明感が強まるなかでも再利上げも辞さない姿勢をみせた。そして、主要産油国による自主減産延長や中東情勢を巡る不透明感が高まったことに加え、異常気象の頻発による農作物の作柄悪化を受けて輸出禁止や制限に動く国が出るなど、商品市況が底入れして生活必需品を中心にインフレ圧力が強まっている上、米ドル高が再燃してペソ安による輸入インフレも相俟ってインフレが昂進することが懸念された。こうした事態を受けて、中銀は先月26日に緊急会合を開催して主要政策金利を25bp引き上げる決定を行い、これまでの政策運営を巡って後手に回っているとの認識を示すとともに、状況如何で追加利上げも辞さない考えをみせた(注1)。また、上述のように4-6月はマイナス成長となるも、その後のインフレ鈍化の動きも追い風に7-9月の実質GDP成長率はプラス成長に転じるとともに丸2年ぶりの高成長となるなど、一転して底入れの動きを強めていることが確認されている(注2)。そして、先月末の緊急利上げ以降は米ドル高の動きに一服感が出てペソ安懸念が後退しており、中銀にとっては一段の金融引き締めに動く緊迫感が和らいでいる様子がうかがえる。こうしたなか、中銀は16日に開催した定例会合において主要政策金利である翌日物リバースレポ金利を6.50%に据え置く決定を行っている。会合後に公表した声明文では、足下の金利水準について「充分に緊縮的である」とした上で「経済への影響は続いている」との見方を示している。その上で、インフレを巡るリスクについて「落ち着いている」としつつ、「インフレ見通しは来年も目標域を上回る推移が続くが、インフレ期待は再来年に向けて固定される」との見方を示している。その上で、「供給サイドのインフレ圧力は解消が続く」としつつ、「インフレ見通しを巡るリスクバランスは上向き状態が続く」との見方を示した上で「政策金利の安定化が経済の調整を促すことに繋がる」との考えを示している。また、同国経済について「7-9月の底入れの動きは見通し通りに進んでいることを示唆している」としつつ、「金融引き締めによる家計消費への影響を評価するも、インフレが確実に下向きになるまでは金融引き締めを維持し、必要に応じて追加利上げに動く用意はある」との考えを示している。よって、先行きの政策運営を巡っては引き続き再々利上げを余儀なくされる可能性はくすぶるものと予想される。


注1 10月27日付レポート「フィリピン中銀、利上げに「後手」との認識を示しつつ緊急利上げ決定」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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