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どうする日銀、金利操作見直し

~カエサルのものはカエサルに~

熊野 英生

要旨

植田和男氏など日銀新体制の所信表明が国会で行われた。改めて感じるのは、多くの人が新体制でイールドカーブ・コントロールの見直しを予想していることだ。筆者はいずれはそうなるだろうが、それほど単純なものではないとみている。これは、その先の出口戦略の展望を示していくこともでもあるからだ。そこで、本稿ではYCC撤廃の実務的課題を説明しておきたい。

目次

難しいYCC撤廃

2月24日は、植田和男氏が新しい日銀総裁の候補として国会承認を得るための所信表明を行った。そこでは、質問する国会議員も、この人事によって、金融政策が大きな見直しを迎えるという認識を持っていた。まず注目されるのがYCC撤廃=イールドカーブ・コントロールの停止である。YCC撤廃とは、長期金利の操作を止めて、短期金利の▲0.1%だけに一本化することを指すのことなのだろう。一部には、10年の長期金利操作を、5年など短い年限に変えることを予想する向きもある。長期金利の上限の見直しは、早ければ3月、もしくは新体制の4月末の決定会合で下されるという見通しである。ピンポイントの変更はともかく、近々だと多くの人が予想している。

その先にはYCC撤廃が、2023年4~6月もしくは、2023年内に控えているという見方だ。しかし、筆者自身は、YCC見直しがそう簡単ではないと考えている。実務的に多くの課題があるからだ。

金利コントロールは段階的に外す

2022年12月に黒田総裁は、長期金利の上限を0.50%に引き上げた。これは、唐突だったために混乱をもたらした。植田氏はこの修正に関しては、市場機能の低下を配慮して見直しと理解を示している。

長期金利上昇の弊害としては、長期国債の含み損を発生させることが挙げられる。金融機関の長期国債保有には満期保有のものが多いと思うが、それ以外の運用部分の含み損を発生させて、金融機関に大きな損害を与える。もしも、YCC撤廃を何の予告もなく実施すれば、弊害として金融機関の含み損が膨らむだろう。金融システムにも有害だ。

その弊害を意識すると、YCC撤廃の前に、日銀は激変緩和措置を打つだろう。それは、段階的に長期金利上限を引き上げることだ。日銀は、0.75%、1.00%と上限を引き上げて、長期金利の上昇を容認し、指値オペで長期国債を吸収する。そこで金融機関には段階的な損切りの機会が与えられる。もしかすると、決定会合前の総裁・副総裁の発言に政策修正について示唆することで、より積極的に予見可能性を提示する可能性もある。 日銀の指値オペは、目先、必要になるが、長期金利の上限を引き上げていく中で、いずれ少なくなるだろう。それは、下落する長期国債の価格を買い支える動きが現れるからだ。日銀は指値オペの多用で、バランスシートに潜在損失を抱えることになるが、植田氏は、その場合には引当金を積むと説明していた。

そうやって、上限引き上げを行っていき、長期金利の実勢がその上限よりも低くなる水準を発見する。例えば、長期金利の実勢が0.80%だったとすると、長期金利の上限を1.00%まで上げたときは、それ以上に長期金利は上がらなくなるだろう。すると、もはや指値オペは必要なくなる。

金融機関にとっては、損切りをして換金した売却資金で、大幅に利回りが高くなった国債を買えば(安くなった国債を買えば)、インカムゲインの増加が期待できる。預金として流入したニューマネーで、高い金利水準の長期国債を買うような動きも広がっていくだろう。

手順として、①上限を0.75%、1.00%などと刻んで引き上げる。②どこかで指値オペを打つ必要がなくなることが確認できる。③その後で金利上昇リスクが大幅に減圧したのを確認してYCCを撤廃する、という手順になると考えられる。大混乱を避けるための手法でもある。

長期金利の跳ね上がり

上記の手法では、まだ残された課題がある。一旦、長期金利が安定しても、その後、何かのショックで長期金利が急上昇するリスクが残される。

例えば、長期金利が一旦は0.80%で落ち着いたとして、その後で米長期金利が4.5%まで跳ね上がって、日本の長期金利も1.5%へと上がっていくような事態が起こると、YCCなき後の日銀はそれを静観できないはずだ。長期金利が予想外に跳ね上がると、金融機関に追加損失が生じる。政府の国債消化も行いにくくなる。財政当局も、利払コストの増加に苦しむことになる。

筆者の予想では、日銀はYCC廃止後には長期金利ターゲットを復活させないとみる。むしろ、長期国債の買い切りを期間限定で実施する手法を採るだろう。長期金利が1.2%に上昇したのをみて、日銀は平衡操作として、例えば2023年10~12月にかけて30兆円の長期国債の追加買い入れをアナウンスする。そのオペレーションが冷やし水になって、長期国債の価格を押し上げて、長期金利は一時的に低下する。長期金利の跳ね上がりは時限的に抑えられるということだ。金融機関にはその間に損切りのチャンスを得ることになる。

そこでは、長期金利コントロールではないが、「長期金利上昇は必ず日銀が抑え込む」という安心感を与える。金融市場では、よくプット・オプションを売ると言われる。長期国債の価格が下がったとき、価格をやや高く売るチャンスを日銀が与えるという意味だ。長期国債の保有者は、日銀に救われる。

これは、出口戦略において、日銀がセーフティネットを提供し、損失を吸収するという意味もある。ただし、その役割は期間限定の救済となる。

2022年には、イングランド銀行が国債売りを一時的に止めて、時限的な買い戻しを行った。これは、損失を受けた年金基金の救済が目的だったとされる。日銀も出口で同じような意味合いのオペレーションを実施するだろう。

長期金利の正常化

日銀は、YCC撤廃という出口戦略の第一弾を実施するとき、どんな対応をしそうなのかを、少しテクニカルに説明してきた。

今度は視野を広げて、なぜ、日銀は長期金利コントロールを止めていくのかを考えてみよう。ひとつは、長期金利水準を低位に釘づけにすることを止めることで、為替レートに働く人為的な円安圧力を弱めようとするものだ。

2023年2月のドル円レートは、1ドル128円から135円へと円安に振れている。理由は、米長期金利が上昇して、日米金利が再拡大しているからだ。

米国経済は予想以上に底堅い。もしも、日銀が長期金利コントロールを止めていけば、円安は起こりにくい。米長期金利に連動して、日本の長期金利も上昇するから、日米金利差は広がりにくい。これは、日本の輸入物価上昇圧力を弱めることにもなる。もはや、日本政府はそうした物価上昇圧力を歓迎しないから、日銀の長期金利を低位に釘づけにすることをしないことにするのだと理解できる。

もう一つの意味は、市場価格の尊重である。黒田緩和では、長期金利コントロールを無理に行い過ぎた。イールドカーブに歪みが生じていることは、市場関係者が広く知るところだ。長期金利が上昇する局面では、人為的に金利を抑え続けると、市場実勢から離れていく。それを続けるほどに、長期金利上昇の反動のマグマは溜まっていく。だから、なるべく人為的コントロールは長期化させないことが原則になる。「平衡操作」という意味は、アップダウンを均すということを原則と考えて、相場を管理する発想とは異なる。黒田総裁の時代が終わることは、長期国債の管理相場から決別するという意味を持つ。

仮に、長期金利が上がっても、国内の投資家がいずれ買いに回るので、時間が経過すると金利変動は落ち着くことになる。そうした自然治癒力を尊重する発想に日銀は回帰していくのだろう。金利という価格指標は、マーケットの需給に任せて決まった方がよいという考え方だ。故事に倣うと、カエサルのものはカエサルに、という原則になる。本来、マーケットで決めるべき長期金利は、マーケットが決めるという原則に戻すべきだという市場重視の発想とも言える。

裏返しの問題として、指値オペのような手法は、日銀が市場の国債を買い尽くして、民間同士の取引を阻害する。流動性の極端な低下とも表現できる。日銀は、10年金利よりも年限の短い8・9年金利の上昇圧力に神経を尖らせてきた。黒田総裁の解釈では、投機筋が売りを仕掛けているとしている。しかし、10年金利の市場実勢が上限0.50%よりも高いのであれば、決して投機的とは言えない。黒田緩和の10年間を経て、債券市場の金利上昇圧力を強引に抑え込むことの弊害を強く実感しているという理解もできる。

市場金利をいつまでの制御することはできないし、それが望ましいことでもない。新体制はそのことに気が付くから、過剰な市場コントロールからも足抜けしていくと多くの人が予想するのだろう。

熊野 英生


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

熊野 英生

くまの ひでお

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 金融政策、財政政策、金融市場、経済統計

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