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ウクライナがEUの加盟候補国に

~加盟実現には高い壁~

田中 理

要旨
  • EUは23日、ウクライナを加盟候補国とすることを決定した。ウクライナは今後、EUとの間で正式な加盟交渉を開始し、政治・経済・法律など様々な加盟基準を満たしているかが判断される。過去の加盟国は、加盟候補国となってから加盟実現までに10年余りを要している。ウクライナは過去の加盟国と比べても経済の発展段階に大きな差があり、新興財閥と政治家の癒着など深刻な汚職問題を抱えている。加盟実現には様々なハードルがある。

欧州連合(EU)は23日の欧州首脳会議で、ウクライナとモルドバをEUの加盟候補国とすることを正式に承認した。両国とともに加盟申請をしたジョージアについては、今後、欧州委員会が提示した条件を満たせば候補国とする方針を示唆した。正式な加盟候補国となった両国は、政策領域毎に細かい交渉を開始し、政治・経済・法律上の加盟基準を満たしていると判断された場合、加盟が認められる。政治的な基準としては、民主主義、法の支配、人権尊重、少数民族非差別など、EUの基本価値を満たしているかが判断される。経済的な基準としては、市場経済が機能するか、自由競争への対処能力などが判断される。法律上の基準としては、EUの法体系(アキ・コミュノテール)を受容するか、EU法を適用・実施する行政能力を有するかなどが判断される。

加盟実現には長い時間が掛かりそうだ。2004年に加盟候補国となったクロアチアがEU加盟を果たしたのは2013年だった。1950年代からEU加盟を求めているトルコは、1999年に加盟候補国となったが、未だにEU加盟を果たしていない。ウクライナの1人当たりGDPは4000ドル未満で、EU平均の約11%(約9分の1)、EU内の最貧国であるブルガリアの5分の2に満たない(図表1)。EUの新規加盟国は加盟時点の1人当たりGDPが軒並みEU平均を下回っているが、加盟当時はEU平均の2~5割前後の国が多い(図表2)。最貧国のブルガリアも加盟当時に2割近くあった。過去の加盟国と比べて、ウクライナ経済の発展段階には差がある。

加えて、ウクライナではソ連からの独立後も、新興財閥(オリガルヒ)と政治家の癒着などの汚職が蔓延っている。汚職断絶を目指す非営利団体トランスペアレンシー・インターナショナルが算出する2021年の腐敗認識指数によれば、世界で180の調査対象国のうちウクライナは122位と、広義の欧州諸国の中ではロシアに次ぐ腐敗国とされる(図表3)。EU加盟国で最も低順位のブルガリア(78位)と比べても、多くの問題を抱えていることが分かる。ちなみに、大統領就任以前にコメディアンや俳優として活躍していたゼレンスキー大統領が、大ヒットしたテレビドラマ「国民の従僕」で演じたのは、政治腐敗と戦う大統領役だった。ウクライナの加盟候補国入りを勧告した欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、法の支配の強化、人権状況の改善、オリガルヒの権力縮小、汚職対策などに取り組む必要があると指摘している。

ウクライナのNATO加盟はさらにハードルが高い。NATOは1つの加盟国への武力攻撃を全加盟国への攻撃とみなし、集団的自衛権を行使する。東部に分離独立派の武装勢力を抱えるウクライナがNATOに加盟すれば、NATOの直接介入が必要となり、ロシアとNATOによる全面戦争に発展する恐れがある。国内に紛争の火種を抱えるウクライナのNATO加盟は難しい。

(図表1)EU加盟国の1人当たりGDP(2021年)
(図表1)EU加盟国の1人当たりGDP(2021年)

(図表2)新規EU加盟国の1人当たりGDP
(図表2)新規EU加盟国の1人当たりGDP

(図表3)世界の腐敗認識指数のランキング(2021年)
(図表3)世界の腐敗認識指数のランキング(2021年)

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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