3月の利上げ開始が固まる 次なる注目点はインフレピークアウト時期

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月31,500程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月113程度で推移するだろう。
  • 日銀は、現在のYCCを長期にわたって維持するだろう。
  • FEDは、2022年3月に利上げ開始、年後半にはQTに着手するだろう。
目次

金融市場

  • 前日の米国株はまちまち。NYダウは▲0.4%、S&P500は▲0.1%、NASDAQは+0.0%で引け。VIXは19.40へと上昇。引けにかけて急速に買い戻された。
  • 米金利カーブはツイスト・フラット化。債券市場の実質金利は▲0.775%(+0.4bp)へと上昇。 中長期の金利見通しを反映する5年先5年金利は2%到達後に上昇一服。
  • 為替(G10通貨)はJPYの強さが目立ち、USD/JPYは115前半へと下落。コモディティはWTI原油が78.2㌦(▲0.7㌦)へと低下。金は1798.8㌦(+1.4㌦)へと上昇した。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 実質金利(10年)
米国 実質金利(10年)

米国 5年先5年金利
米国 5年先5年金利

<注目ポイント>

  • 12月米雇用統計の雇用者数は前月比+19.9万人と市場予想を下回った。季節的な失業が多く発生する時期であるが、季節調整が十分に機能していないこともあって低めの伸びとなった(例年12月の原数値で前月比マイナス。2021年の原数値は+7.2万人)。業種別ではレジャー・ホスピタリティが+5.3万人、製造業が+2.6万人、建設が+2.2万人、運輸が+1.8万人であった。

米国 雇用者数
米国 雇用者数

米国 雇用者数
米国 雇用者数

米国 失業率
米国 失業率

  • 失業率は3.9%へと0.3%pt低下し、パンデミック発生直前の3.5%に接近。2017-18年の利上げ局面を下回った。労働参加率の上昇(61.87%→61.91%)を伴い、U6失業率(フルタイムの職が見つからず止む無くパートタイム勤務に従事している人を失業者と見なした広義失業率)の低下も続き、労働市場の質的改善を示した。企業の人手不足感が強いなか、労働者の希望に見合った求人が豊富に存在する模様。

  • 注目の平均時給は前月比+0.6%、前年比+4.7%であった。相対的に賃金の低いレジャー・ホスピタリティでは自発的離職率が6.4%に高まるなど、賃金上昇圧力が高まっている様子が窺える。そうした下で週平均労働時間は34.7時間と異例の高水準で高止まりし、名目総賃金(就業者数×時給×労働時間)は前月比+0.8%、前年比+9.9%と著しい増加基調にある。インフレが生活コストを圧迫する一方でマクロ的な賃金は大幅に増加している。

米国 U6失業率・労働参加率
米国 U6失業率・労働参加率

米国 U6失業率・労働参加率
米国 U6失業率・労働参加率

米国 平均時給
米国 平均時給

米国 週平均労働時間
米国 週平均労働時間

米国 週平均労働時間
米国 週平均労働時間

自発的離職率(レジャー・ホスピタリティ)
自発的離職率(レジャー・ホスピタリティ)

  • これらに鑑みると、12月雇用統計は3月の利上げ開始にゴーサインを出したようにみえ、それを受けたFEDの反応が注目される。そうしたなか、本日のパウエル議長の指名公聴会に先立って公表された原稿には「高インフレが定着しないよう政策手段を講じる」との一文があった(We will use our tools to support the economy and a strong labor market and to prevent higher inflation from becoming entrenched)。公聴会では利上げ開始が間近に迫っていることを示唆するだろう。

  • 本日の公聴会で、市場参加者の最大の関心事になりつつあるQT(バランスシート縮小)について有力な示唆が得られるかは不明だが、ハト派寄りの見解を示すことが多いデイリー・サンフランシスコ連銀総裁は7日に「1回か2回利上げした後にバランスシートを調整することが考えられる」と発言した。利上げ開始を3月、その後、四半期毎の利上げを前提とすれば、QT着手は6月から9月が有力視される。こうした引き締めスケジュールは市場参加者の中心的見通しに近いだろう。

  • 今後、市場参加者の注目はインフレ率のピークアウト時期に移行するだろう。その点、インフレ圧力の低減を示唆する兆候が散見されていることは認識しておきたい。まず①企業サーベイではサプライチェーン問題の緩和が示されている。製造業サーベイではサプライヤー納期が短縮化し、仕入・販売価格も低下傾向にある。また②エネルギー価格の上昇も一服している。そして③今後のインフレ指標(CPI、PCE)はベースエフェクトによって前年比上昇率に下押し圧力がかかる点も重要。テクニカル要因に過ぎないとはいえ、FEDを含む、人々のインフレ認識に影響を与える可能性がある。

藤代 宏一


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